末法時代を兆す、哀愍王の十の夢
かつて人間の寿命が二万歳だった時代(今から約二百万年前)、迦葉如来という仏がこの世に出られた。その仏は、応供、正遍知、明行足、善逝、世間解、無上士、調御丈夫、天人師、仏世尊という十の尊称を持つ。ある時期、迦葉如来は弟子の比丘たちとともに波羅奈国の鹿野苑に滞在されていた。
その国には哀愍という名の王がいた。哀愍王は非常に福徳に恵まれ、正しい考えで国を治めていた。ある夜、哀愍王は十の夢を見た。
一つ目の夢では、一匹の象が窓から外へ出ようとし、胴体は無事に通り抜けたものの、しっぽが窓枠に引っかかってしまった。
二つ目の夢では、喉が渇いている人が、すぐ後ろに井戸があるにもかかわらず、水を汲まずに我慢していた。
三つ目の夢では、真珠を持ちながら、それを麩と交換しようとする人がいた。
四つ目の夢では、栴檀の木を普通の木材と取り換える人がいた。
五つ目の夢では、花々や果実が実り豊かな庭園が突風に吹き荒らされ、果実が散乱してしまった。
六つ目の夢では、小さな象の群れが、一匹の大きくて立派な象を追い立てていた。
七つ目の夢では、糞のついた猿が四方八方を駆け回り、他の猿たちがそれを避けていた。
八つ目の夢では、一匹の猿が座っており、他の猿たちが彼を取り囲み、灌頂の儀式を行おうとしていた。
九つ目の夢では、広げられた一枚の白い毛氈を十八人がそれぞれの端を掴み引っ張り合ったが、毛氈は裂けなかった。
十の夢では、多くの人々が一か所に集まり、激しい論争を繰り広げていた。
これが哀愍王が見た十の夢であった。
夢から目を覚ました哀愍王は深く考えた。
「これらの夢は不吉なものではないか?私の寿命を損なう前兆なのかもしれない…」
翌朝、王は臣下たちに昨夜見た夢を語った。しかし、誰一人としてその夢の縁起を良し悪しを判断できる者はいなかった。そこで王は、鹿野苑におられる仏陀を訪ねることを決意した。仏陀のもとへ赴いた王は、仏の足元に礼を尽くし、一歩下がって片側に退いた。その場には、他の婆羅門や長老の信者たちも集まっていた。
仏陀は哀愍王とその場の人々に応じて法を説かれた。その後、しばらく静かに沈黙された。
その時、王は決意を込めて立ち上がり、仏陀の前に進み出て言った。
「仏陀よ、昨夜私は十の奇妙な夢を見ました。それらの夢は、私の寿命を損なうものでしょうか?どうか慈悲深くお教えください。」
仏陀は静かに答えられた。
「大王よ、恐れる必要はありません。あなたが見た夢は、あなた自身の寿命に関わるものではありません。それどころか、今の時代の吉凶を示すものでもありません。
聞きなさい、大王よ。その夢は未来の時代に関する予兆なのです。やがて人々の寿命が百歳にまで短くなる頃、釈迦如来という名の仏がこの世に現れるでしょう。その仏は説法によって多くの衆生を教化し、涅槃に入ります。
しかし、その後の末法の時代、弟子たちはさまざまな行いをするようになります。大王が見た夢は、その末法の時代を映し出しているのです。ではこれから、その夢の意味を一つずつ順に説明していきましょう。」
仏陀は大王の夢の一つ一つについて解説された。
「大王よ、象のしっぽが窓枠に引っかかった夢は、未来の末法時代に仏道を志して出家する男女の中に、身体だけは出家していても、心は世俗の執着を断ち切れず、名誉や利益に囚われて解脱できない者がいることを示している。
また、喉が渇いているのに井戸の水を汲まない夢は、末法時代に、説法を行う比丘がいるにもかかわらず、心の拠り所を持たない迷える人々が仏法を味わおうとせず、救いの教えに無関心であることを表しているのだ。
さらに、真珠を麩と交換する夢は、末法時代の比丘たちが仏典を学んで涅槃に向かう修行を怠り、代わりに世俗の経典や呪術、詩歌詠唱に熱中することを意味している。
旃檀を普通の木材に交換しようとする夢は、末法時代の比丘たちが仏典を捨て、世俗の教えや外道の書物に興味を持つことを示しているのだ。
小さな象が大きな象を追い払う夢は、戒律を守らず徳のない比丘たちが、戒律を守り徳の高い比丘を嫌い、策略を用いて彼らを追放することを示している。
また、実り豊かな庭園が強風で荒らされる夢は、清浄で戒律を守り、教えに通じた比丘たちのいる僧伽藍摩が、身も心も修めない粗悪な比丘たちによって破壊され、修行が荒廃してしまうことを暗示している。
糞まみれの猿を避ける猿たちの夢は、戒律を破った比丘たちが恥じることもなく、清浄な信心を持つ王や臣下の前で徳高い比丘たちを誹謗中傷する様子を表しているのだ。
また、一匹の猿が灌頂を受ける夢は、末法時代に徳や行いの優れない比丘が僧団の上位に立ち、徳ある比丘たちを統率することを示している。
広げられた毛氈を十八人が奪い合っても破れなかった夢は、末法時代に仏教が十八の部派に分かれ、弟子たちが異なる見解を持ちながらも、仏教の根本の教えが決して壊れないことを表している。
最後に、一か所に集まって激しく論争する人々の夢は、末法時代の比丘たちが静かな修行を好まず、集まって名声や財産を巡って争い、清浄な仏陀の教えが徐々に衰退していくことを示しているのだ。
大王よ、これらの夢はあなた自身の寿命には何の影響もなく、恐れる必要はない。安心なさい。」
仏陀のお言葉を聞いた哀愍王は、大いに安堵し、仏陀に深く礼を尽くしてから、王宮へと戻った。