なぜ日本の組織は強みを活かせないのか(曹操、徳川家康、武田信玄に学ぶ)/戦国ベンチャーズ 発売インタビュー Vol.2
この記事は、「年功序列型の評価システムで頂点に立った武将はいない/戦国ベンチャーズ 発売直前インタビュー Vol.1」の続きです。
強みを活かすための理論が確立されていない
ー タレントマネジメントシステムやエンゲージメントに関わるサービスなどの台頭により、日本国内でも個々の強みを活かそうという動きは増えています。しかし、なかなか進んでいないような印象を受けます。
北野:そうですね。実際にデータでみても、強みを活かせている、と答えた日本企業は15%に止まり、世界平均の20%よりも低い、という調査もあります。そもそも、企業が強みを活かすためには、「ツール」「理論」「文化」の3つが必要だと思っています。
ここ数年で、採用やエンゲージメントに関わるHRTechサービスが数多く現れました。ツールという部分でいうと、間違いなく強みの経営をするための体制は整ってきていると思います。ただどういう原則のもと進めばいいのかという理論が確立されていない。「強みの経営を活かす理論」が述べられている本だとドラッカーが有名ですが、日本向けにアジャストされた本はそんなに多くはありません。この本を通じて、その理論を確立させたいと思っています。
習慣や文化という観点で言うと、日本の企業が強みを伸ばせない理由は教育過程にも問題があると思っています。今まで僕たちが学校教育の中で、「あなたの強みは何ですか」と聞かれたことなんてほとんどないですよね。点数で図れる部分以外の自分の性質的な強みと向き合う機会なんてないので、それがそのまま企業の人事システムに反映されているのだと思います。
ー 本の中で「組織が持つ唯一の機能は強みのコラボレーション」と北野さんは論じています。この部分について、普段からどのように考えていらしゃるのでしょうか。
北野:得意分野に合わせて、職務が分業されていたほうが活躍しやすいです。ただ、少人数なら具体的にイメージして登用できるものの、人数が多くなっていくと適切な配置を考えるのが難しくなっていきます。
そもそも、なんで組織・集団でいる必要があるかというと、強みをコラボレーションできるからだと思うのです。
唯才是挙(ゆいざいぜきょ)と呼ばれる「才能を強みのよってのみ、登用せよ」という考え方が根底にある曹操。「人を用いるには、かならずその者の長所を取るべきである」と語った徳川家康。「好き嫌いではなく、その人物の個性を活かすべきだ」と旗を振った武田信玄。今回本で取り上げた武将は、強みをコラボレーションし続けた結果、頂点に立つことができました。
仕事においても、「人と話すことが苦にならない方は営業」「アイデアを考えるのが好きな方は商品企画」など、強みと職種が結びついていたほうが、組織・個人ともにWin-Winです。しかし、組織が大きくなればなるほど適切な配置がわからなくなってしまう。もしかしたら、強みの活かし方を忘れてしまっているという感覚のほうが近いのかもしれませんね。
「その人だから」にバリューがある
ー 北野さんは、日系企業と外資系企業の両方で働いたことがあるとお聞きしています。海外企業と日本企業の違いというのはどこにあるのでしょうか。
北野:結論からいうと、バリュー・付加価値に関する考え方だと思います。
正確にいうと、「ドメスティックな会社」なのか「グローバルな会社なのか」かもしれませんが、その人がやっている仕事に対して付加価値はあるのか、その人だからこそできることにフォーカスできているのか、という考え方が日系企業と外資系企業の大きな違いです。
個人という点で比較ができないと、部内・チーム内の比較になってしまいますよね。その方が、できること・できないことの判断・分析・比較がしやすい。ですが、それだと個々の能力が平均化されていってしまいます。
僕が日系企業から外資系企業に転職したときに、「バリューに対する考え方がこんなにも違うのか」と実感した出来事がありました。それは、入社直後のミーティングの話です。日系企業時代は、「今日の会議は無礼講」と口では言いつつ、メンバーが失礼な発言をするとブチ切れられる、という場を経験しました。「世の中、思ったことを何でも言うのはよくないんだ」と感じ、それ以降の会議では必要最低限の発言しかしないように心がけていました。
外資系企業に転職した直後のミーティングでも、最初は聞くに徹していました。その後に上司から、「会議で自分の意見を言わないのは無価値に等しいですよ」と言われ、衝撃を受けました。「自分の意見を言ってもいいんだ」と気付き、次のミーティングからは自分の意見を言うようになり、評価がポジティブになりました。
そんな自分自身の経験からも、いわゆる典型的な日本企業とグローバルでも成長し続けている企業ではバリューに対する考え方が大きく違うなと感じています。
なにか一つでも強みがある人の方が頼りやすい、というのは会社やコミュニティを運営していて感じています。個の力を高めていく大切さを感じているからこそ、「その人だから」という付加価値を出し続けていくことが重要だと思います。
強みを見つけ尖らすためには、フィードバックが重要
ー 本の中では、「適切なフィードバック」の重要性についても語られています。この部分をもう少し詳しくお聞かせください。
北野:この話をする前に、「適切なフィードバック」という言葉の背景からお伝えしていきます。
強みの経営をするためには、「個人の強みをいかにして見つけるのか」という点が大切になってきます。現代経営の父・P.F.ドラッカーは、強みを知る方法は一つしかない、と断言しています。それが、フィードバック分析です。適切なフィードバック分析が行われるためには、フィードバック自体が良いものでないといけません。
では、適切なフィードバックとはなにか。
一つ目は、強みに対するフィードバックであることです。
弱みに対するフィードバックは、キャリアの後半になると重要になると思っていますが、そのフェーズに到達している人はそう多くはありません。
まずは、原理原則を覚える。強みを伸ばす。最後に弱みをまとめる。多くの方は、強みのフィードバックで伸ばしていくことのほうが何倍も重要だと思っています。
ちなみに、過去のことをグチグチ言うのはもっと駄目ですね。その人の強みをしっかり見てあげて、ポジティブなコミュニケーションを取ることが大事です。
二つ目は、適切な強度である必要があるということです。
いきなりレベルの高いフィードバックをもらい、あたふたしてしまった経験をお持ちの方も多いと思います。すぐに改善できるものや、1週間、1ヶ月単位で改善できるレベルのフィードバックであるほうが、次のアクションにつなげやすいはずですし、成長スピードも早くなります。
「外部からのフィードバックが何もない状態」「同じくらいの強度の比較を一切しない」状態だと、強みの発見というのは起こりえません。他者との衝突や比較を無闇にすればいいということではありませんが、適切なフィードバックによって、強みを見つけ、強みを尖らせるということを組織はやる必要があると考えています。
ー なるほど。では、頂点を極めた歴史上の将軍は、適切なフィードバックが大事だと気づいていたということですかね。
北野:武田信玄は、戦国最強と呼ばれる組織を作りました。武田信玄といえば上杉謙信と複数回戦ったことが有名ですが、そんな武田信玄は、こんな言葉を残しています。
「戦いは五分の勝ちを持って上となし、七分を中とし、十を下とす」
簡単にまとめると、圧倒的な勝利よりもギリギリで勝った戦いのほうが、緊張感も残り、次につながりやすいということです。武田信玄は上杉謙信という良き好敵手とのぶつかりあいがあったからこそ、強さに磨きをかけていきました。「他者からのフィードバック分析こそが人を磨き上げる」ということを、武田信玄は本能的に理解していたのだと思います。
徳川家康は、「三鏡」と呼ばれる3つの鏡を使っていました。3つの鏡とは、「銅の鏡」「歴史の鏡」「人の鏡」のことを指しています。「銅の鏡」は、自分が写っており、自分で自分を見直すためにあるもの。「歴史の鏡」は、歴史から学ぶためにあるもの。「人の鏡」は、部下や周りから学ぶためにあるもの。家康が用いた「三鏡」は、現代で言うなら超多角的なフィードバックです。
他者からのフィードバックが最も重要だということを、二人の将軍からも読み取ることができます。
ー 歴史から見ても、適切なフィードバックが大切だということは理解できました。では、個人にフォーカスを当てた時に、個人が強みを見つけるためにできることはあるのでしょうか。
北野:一番は、人に聞くということではないでしょうか。私は常日頃から、自分が苦もなくできることこそが、その人の才能であると思っています。ですが、自分の得意領域や才能を見つけるのは難しいというのも分かります。一緒に働く仲間や信頼している友人などに、素直に聞いてみることが最初の一歩だと思いますね。
もう一つ挙げるとするならば、環境を変えてみるというのも良いかもしれません。転職するのか、普段とは違うサードプレイスに属してみるのか。新しい方との出会いを通じて、自分の強みが浮き出てくることもあると思います。実際に僕が運営するコミュニティ「SHOWS」では、様々なメンバーとの関わりを通じて、新たな自分の強みに気づくメンバーもいます。自分の居場所を変えてみるというのも、選択肢の一つだと思います。
やはり他者との関わりの中で、自分の強みに気づくというのが大半かと思います。「自分の強みがわからない」と思い悩んでいる方は、今挙げたようなアクションを意識すれば、新たな気づきを得られるのではないでしょうか。
(Vol.3に続く)
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