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辛い仕事が楽しくなっていく”ドーピング”の極意とは?

作家で実業家の北野唯我さんと新規事業家・守屋実さんが、「未来をつくる人を増やすための教科書づくりプロジェクト」の一環として行っている定期対談。前回に引き続き、ゲストをお迎えして、事業づくりのポイントや面白さ、課題について語り合いました。

今回のゲストは、TOUCH TO GO株式会社の代表取締役社長・阿久津智紀さん。同社はJR東日本スタートアップ株式会社とサインポスト株式会社から生まれたカーブアウトスタートアップで、無人決済システムを開発してコンビニなどへの導入を進めています。

最新テクノロジーで省人化を実現するソリューションはどのように生まれたのか、JRという大企業の中でどのようにキャリアを積み、事業づくりに携わるようになったのかなど、阿久津さんの人柄を表すようなエネルギッシュなトークが交わされました。

その鼎談の模様を2回にわたってレポートします。

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叩き上げの役員に教わった、苦労と失敗から学ぶ術


北野:阿久津さんが今のようなパーソナリティや志向になった原体験はありますか?

阿久津:仕事で形成されたものだと思います。入社してすぐお世話になった新井良亮(元JR東日本副社長)という役員に鍛えられました。高卒で、足尾の石炭くべから夜学に通って 働いて、JRの役員にまでなった、叩き上げの人でした。「失敗したら俺がケツ拭いてやるから、とりあえず戦ってこい」「寝ないで戦え」みたいな昔気質の人で、僕は「侍」だと思っていました。

青森の時も、僕1人で送り込まれて、1から10まで全部やらないと回らなくて、たくさん失敗しました。スタッフに給料を払い忘れたから「やばい」って、銀行で下ろしてきて茶封筒で手渡すこともありましたし、会計が監査規定に全然合っていなくて、監査法人に「あなたは一生会社の数字を触らないでください」って怒られたり(笑)。

いろいろな失敗を重ねて学んでいきました。当時は「なんでこんなきつい仕事させるんだろう」と思っていましたが、「苦労は買ってでもしろ」じゃないですけど、今になって振り返ってみて、本当に感謝しています。

北野:多くの方は、とはいえ失敗したりペケがついたりするのが怖いと思うことがあると思います。新しいことに飛び込んで、変わりたいなと思っている人には、どういうアドバイスをされますか?

守屋:仕事は辛いかもしれないけど、辛いことしかないなんてなくて、目の前でお客さんが喜んでいるとか、パートナーの人たちがありがとうと言ってくれるとか、日常的に嬉しいこともたくさんあるはずなんですよ。

努力していれば、必ず誰かしら喜んでくれて、そうなると嬉しいと思います。そんなことを積み重ねていって、たとえば自分が手がけたものによって世の中のbefore/afterが目に見えるような規模になったら、これはもう一生続く“ドーピング”だと思いますよ。

喜びを感じるために必要な構造の工夫と思考の癖


北野:なるほど、しかもそのドーピングの結果、また守屋さんみたいな人が生まれていくわけですよね。

守屋:きれいごとじゃなくて、お客さんに「本当にありがとう」と言われたり、世の中の産業構造を変えたりすることができると、本当に快感が走って、それがエンジンとなって、何十年と走り続けられると思います。

阿久津:めちゃめちゃわかりますね。だから、人が嫌がっている仕事ややっている人が少ない仕事をあえてやるのがおすすめです。そうすると喜んでくれる人やチームの一体感など、苦労した後の快感との距離が近くなります。

大企業は動かしている人の分母が多すぎて、人数で割ってしまうから快感を得にくいのですが、僕らが青森でシードルをつくった時は5~6人ではじめた事業で将来シードルの本場で金賞取ろうと冗談で言いながらも本当にイギリスで行われた国際品評会で賞を獲った(International Cider Challengeで2017年から毎年受賞中)ときに分かち合う嬉しさは本当に大きかったです。辛いことの先に仕事が楽しくなっていく。守屋さんがおっしゃった“ドーピング”というのはすごくわかります。

北野:質問が来ています。「守屋さんが言われる通り、お客さまに喜ばれたりすると、ドーピングになると思いますが、どうやったらそれに近づけるでしょうか?」具体的に喜んでくれているのがわかりやすい仕事もあれば、そうじゃない仕事もあると思いますが、守屋さんどう思われますか?

守屋:思考の癖も大事だと思います。先ほど阿久津さんが言ったように、構造的に少人数でお客さんに近い距離で提供すると、その反応もダイレクトに受け取れます。じゃあ大企業で機能分化されていると何も感じないのかというと、そこは自分自身がアンテナを持っているかが重要です。

たとえば僕はラクスルという会社の創業メンバーですが、当然、創業社長は松本さん(同社CEO・松本恭攝氏)ですし、今のラクスルは今の経営陣がつくっています。僕なんかどこにも入る余地がないくらいの存在です。

でも思いとしては、僕はラクスルの創業メンバーであって、自分たちでラクスルをつくったと思うようにしていて。めちゃくちゃ愛着を持っているし、ラクスルの成長は僕にとっての喜びになっています。そういう風に自分自身がアンテナを立てておくことも大事だと思います。

地道な現場力がなければ派手な花火は打ち上げられない


北野:ありがとうございます。次の質問です。「大企業だと異端児を潰す上司がいそうな感じがしますが、どうやってはねのけたのでしょうか」。

守屋:2つあると思います。今のJR東日本スタートアップの代表取締役社長である柴田裕さんは、今のメンバーに「みんな社長になっちゃえ」って真顔で言い続けている。そういうリーダーがいることがまず大事です。

そして、その下に阿久津さんみたいな人がいること。さっき「バックエンドの仕組みをつくりこんだ」と話していましたよね。事業をつくるといっても、派手な花火を打ち上げるようなことだけじゃなくて、地道に裏側をコツコツ寝ずにやり尽くせることも大切。どうしてもメディアは派手な方に行きますし、地道なところを軽んじられがちですが、そこを勘違いしないって大事だと思います。

阿久津:そういうところをちゃんと作っておかないと瓦解しますからね。今も普通に店長やアルバイトの方から「使い方がわからない」とか「今エラーが出た」とか電話かかってきたりします。やっぱり現場力がないと戦えないので、僕は一番そこを大事にしています。華々しいところもネタとしてあるのはいいのですが、実務のところは外せないと思います。

北野:阿久津さんもキャリアの中で店長されていらっしゃったりして、裏側のオペレーションを経験されているんですよね。だからこそ、ここが面倒くさいとか、ここが本当に大変、みたいなことがわかる。

阿久津:そうですね。現場でどんな無駄なことやっているかがわからないと、そもそも事業を思いつかないですよね。守屋さんがつくっている事業も全部そこが元になっていると思います。

「誰よりも仕事してやろう」と思っている


北野:最後の質問です。「チャンスを掴むこと、改善案を通すことは日頃の社内での関係構築が重要かと思います。お2人が他者とのコミュニケーションで意識していることは何でしょうか?」これは気になります。

阿久津:僕が心がけているのは2つです。「相手の立場に立つこと」と、「相手より200%労力をかけること」です。僕はずっとスタートアップ側の人間としてJRのアセットやリソースを使ってうまく潜り込み、ビジネスをスケールすることをやってきました。だから今一緒に組ませていただいているパートナー会社さんが困っていることを聞くと、僕らがどう立ち回ってどの機能を提供したら勝てるかを常に考えています。完全に相手の立場に立って考えるということです。

2つ目の「相手より200%労力をかけること」ですが、たとえばフルマラソンを走る人を見たら、ハーフマラソンは楽に走れると思います。でも、周りの人が1キロしか走っていない状況で、ハーフマラソンを走ってこいと言われたら、かなり辛く感じるはずです。だから僕は誰よりも仕事してやろうと思っています。そういうところで周りの人にわかりやすく、自分が苦労するということは心がけています。

守屋:阿久津さんが言うようなことを言う人はいますが、それを本当にやり続ける人は少ないと思います。えらい大変ですから。阿久津さんはそれを頑張り切っているところがいいですよね。

北野:とはいえ、疲れることや、走るの大変だなと思うこともあると思います。そうなった時や、そうならないようにしていること、日々のルーティンなどはありますか?

阿久津:休みの日に海に行ったり運動したりしています。脳と体を速度を合わせて疲れさせないと、やっぱり精神のバランスがおかしくなるので、そこはストレス解消としてやっています。基本的にマグロと一緒で、走っていないと死んじゃう性質なので、別に辛くはないんです。立ち止まったり、暇な瞬間があるほうがよっぽど怖いしストレスを感じます。

北野:ありがとうございます。お時間なのでここで終わりたいと思いますが、めちゃくちゃ楽しかったです。SHOWSはアクティブなコミュニティなので、告知など何かサポートできることがあれば伺います。

阿久津:意外とこういう場で話したことをきっかけにアイデアをいただいて、サービスとして具現化していることが多いんです。だから自社内の課題とかやってみたいことがあればアイデアいただければ。うちの決済システムがどういう風に使えるかも含めて、ご興味ある方はご連絡いただいて、議論できればなと思っています。

北野:ありがとうございます。最後に守屋さんから一言お願いします。

守屋:JRという、世間一般で考えても硬そうで大きな会社の中で、今一気に人が動いて、いいことが起きていると思います。でもこれはJRが特別なのではなく、他の大企業でも同じようなことができるはずです。今回のJRのパターンをぜひパクってもらって、第2第3の阿久津さんみたいな人がいろいろなところで出てくると、我が国はもっと楽しくなる。だからぜひ今聴いている方々が次のケースをつくってもらいたいなと思います。

北野:今日は本当にお忙しい中ありがとうございました。これもご縁ですので引き続きよろしくお願いします。

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