独り牛丼【エッセイ】
学生の頃、牛丼チェーン店でアルバイトをしていた。
地元の友達が働いていたことがきっかけで、楽そうだしと思って働き出した。
50過ぎの前歯が一本しかないギョロっとした目の店長のもと、友達とくっちゃべりながら適当に働いていた。
髪が伸びた僕を見て、「そろそろチョキチョキしてこようか」とただでさえ飛び出しそうな目をさらに見開いた店長に言われた。手ははさみの形を作りチョキチョキしている。
まずはお前の前歯を復活させろと心の中で念じ、無視した。
どうやら若い頃の僕は尖っていたらしい。
店長ごめんなさい。
週3ぐらいで働いていたので、常連さんとは顔馴染みになっていた。
呪文のように超早口でいつも同じものを注文し、ピッタリの金額を小銭であらかじめ準備してくる角刈りのおじさん。
隣のお客さんの丼を見て「こいつ大盛り頼みやがって。贅沢な!!!!」と突然叫ぶ情緒不安定なおじさん。
「お兄ちゃん元気か?」と気さくにいつも話しかけてくれるハットをかぶったダンディーなおじいちゃん。
いつも決まった時間に牛丼並サラダセットを頼むヨレたスーツを着た中年男性。
カウンターしかない店舗だった為、家族連れなどは滅多に来ない。
一人で牛丼を食べにくるサラリーマン達を見て、悲しい人生だなと思っていた。
ここに一人で来るということは、家族もいなくて寂しい人生を送っている人達なんだなと思って見ていた。
将来こんな大人になりたくないなと思いがながら、哀れみの気持ちで牛丼を運んでいた。
10年後、そのなりたくないと思っていた大人にお前はなっている。
今日もお前は一人で牛丼を食べている。
週2回はお世話になっている。
どうやら10年前思い描いていた自分にはなれていないようだ。
人生何か手に入れる為には、何かを捨てなければいけない。
たくさんの物を手に入れては、捨てるを繰り返し今の自分がいる。
その結果として、独りで牛丼を食べているのだ。
正しい取捨選択をした結果たどり着いた道なのだ。
何の後悔もない。
あの店長だって正しい取捨選択の結果、前歯を一本捨てたに違いない。
若い頃のお前はそれに気が付けなかった。何とも情けない。
そんな10年前のお前の胸ぐらを掴んで言ってやりたい。
「独りで牛丼食ってても人生楽しいぞ!」と。
強がりではない。決して強がりではないのだ。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?