小説/黄昏時の金平糖。【V*erno】#16 君のためのスタートライン

黄昏わらべ 6月3日 金曜日 午後4時10分
     愛知県 夏露町 黄昏家 わらべの部屋

「─おお!」
 何度も聴いていたが、俺はまた感動した。本当に、素敵な曲だ。
「まずは、準備運動からか。何するか分かる?」
「ん?あ、えーと、腹筋?」
 感動してるだけじゃいられない。今から、あいつよ心に響くような歌を完成させるのだ。
「そうだな。あと、背筋」
「それだけでいいの?」
 数年前まで習っていたバスケでも、その程度はやっていた。だから、正味驚いている。
「本当はランニングもしたいとところだけど、、、。もう夕方だし、朝走るのがいいんだよ」
「そうなんだ!」
 とりあえず、これから毎日朝のランニング15分と、腹筋と背筋を30回ずつすることになった。
「じゃあ筋トレは今から取りかかるわ」
「あ、俺もやる。一緒にがんばろうぜ」
「あぁ!」

 まずは筋トレから。
 準備運動からしっかりやらないとな。
 俺は気合いを入れた。

師走わさび 6月3日 金曜日 午後4時10分
      愛知県 児童養護施設からふるとまと

「はぁ、、、」
 自室に戻り、ベッドに飛び込んだ。
「もうどうすればいいの、、、?」
 泣きそうになりながら、ひたすら拳を握った。
 明日は休みだというのに、なんだか気が晴れない。愛華葉の優しさにも背いてしまったし、わらべとの会話さえ適当に切り上げてしまった。

 話したいけど、話せない。
 そんな自分の弱さが今となっては憎く見えてきた。
早く終わって安心したい。けど、終わりが見えない。
「どうすればいいんだろう、、、」
 重い身体を起こし、ベッドから降りた。
 かばんを開けて、宿題の用具を取り出す。
「宿題は、漢字と、英語のノートと、テキスト。あとは、、、」
 備忘録につけた、宿題。もう一つ、慌てて追加した形跡がある、字をみつけた。
「あと、音楽か」
 音楽のプリント。
 関西弁の先生から受け取ったもので、内容は、届けたい人に歌を届ける。

 届けたい人なんていない。ここで(からふるとまと)、みんなを集めて、日頃の感謝の気持ちを込めて歌ってもいい。
 でも、時間が合わないし、なんとなく迷惑だろう。
 友達も、届けたい人もいない。さだもありだと思ったが、全然話していない。
 さだにも、早く会いたい。けど、会う勇気がない。

 意気地無しだなぁ、なんて思いながら、ふと何かが頭をよぎった。
 ─わらべに、歌を届けてみる?
 そうすれば、あのときの誤解も解けるし、話せるかもしれない。歌は苦手だけど、あと二週間、練習すれば間に合う。

 急いで椅子に座ってシャーペンを取り出した。
「えーと、曲名、、、」
 どうしよう。
 せっかくだから、わらべとの思い出が深いものにしたい。
 駄菓子屋に行ったこと、花火を見たこと。
 星を見たこと。
「、、、!そうだ!」
 「天体観測」。その曲名を思い出した。
 天体観測、小さいころ、氷とわらべとさだと私でよく流れ星を見ていた。
 
「これなら、行けるかも」
 少し力が抜けた。いや、だいぶ抜けたのか、机に頬をぴたりと付けた。
 これなら、あの頃楽しかった思い出が戻ってくる。空白だった2年間が意味のあるものになる。
 スマホで、「天体観測」を流そうとした時、部屋の戸を叩く音が聞こえた。
「っ、はい!」
「わさびちゃーん、お風呂入ろー!」
 あめりんだ。時計を見ると、16時30分。もうそんな時間だったのか。
 朝用意してった服とバスタオルを持って、私は部屋の外に出た。

「続」

最後まで読んでいただいてありがとうございました!

下はちょっとしたお知らせです。

黎明さだめ→黎明わたに変更しました。
もともとさだめはわたという名前で出す予定でしたが
いろんな事情があり出せませんでした。
これからは黎明わたで 改めてよろしくお願いします。

いままでの小説も
一応わたに表記を改めたいと思います。
以上です!

それじゃあ
またね!


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