ミノうえ、ミノした。
俺たちがごちゃごちゃと押し合いへし合いしている所に、Lの野郎がやってきて言った。
「君たち、なにをそんなに苛ついているんだね?」
野郎は端の方へ身を寄せると、さも他人事のようにゴロンと寝転ぶ。
俺たちが目下抱えている問題ってのは他でもない、互いの関係性における軋轢ってやつだ。
はじめの内は良かった。それこそ一致団結して、がっちりスクラムを組んでいこうじゃねぇかっていう空気が出来てた。実際、うまくいってたんだ。
ところがその内に――まあこれはどこにだってある話だろうが――どうにも反りの合わない奴らが、俺たちの築き上げた関係に関わってくるようになってきちまった。誰かの差し金か、運命の悪戯か、俺にゃわかりゃしねぇが、とにかくそういう連中が現れた。
拒むって選択肢が経典にでも書かれてりゃ、こんなことでいちいち頭を悩ませたりはしないんだが、残念ながらそういうわけにもいかねぇ。実際問題、何をするんだって仲間は必要だしな。
だから、俺たちときっちり組んでやっていこうって気構えさえもってるなら、多少足りない部分があったとしたって、出来るだけ仲良くやっこうって腹づもりでいるんだ。手だって貸してやるしな。みんなそうなんだ。
けど、そういう善意を踏みにじるようなひねくれた野郎が来ちまったら、俺たちだって黙ってはいられねぇ。言うべきことははっきり言わせてもらうようにしてる。
田舎くせぇ考え方と思われるかもしれねぇが、最初にここに居着いたのは俺たちなんだ。それに合わせられねぇってんなら、どうぞどことなり他所へ行ってくれと、そう伝えるぐらいは許されなきゃ嘘だろ?
だがまあ、それで解決するぐらいなら話は簡単さ。
現実問題、面倒くせぇ奴に限ってどんと居座って、挙げ句に居直っちまう。結果、強固だったはずの絆にまで穴が開いて隙間っ風が吹いちまうってわけだ。
いつの間にか、場末の娼婦みたいな四角いのが現れてうろちょろしてやがる。
「ふふ。わたし、ここにしようかしら」
Lの野郎が呼んだのか、あるいはたまたま立ち寄っただけなのか、そんなことぁ知りたくもないが、ともかくそいつは寝転んでるLの腹の上に乗っかりやがった。
まあいいさ。安い野郎には安い女がお似合いってもんだろう。
本当に面食らっちまったのはその後さ。アイツがふらりと現れやがったんだ。
周りと協調する気なんてさらさらねぇって内心が全身から漏れ出してやがる。この界隈一のひねくれ者にして厄介者、『Z』の野郎だ。
Zは一瞥して俺たちに歓迎されてねぇと悟るやいなや、端っこの方の壁に寄りかかった。まるで自分は『N』ですみたいな顔しながらな。
しかも案の定、トラブルを引き連れてきやがったんだ。
Zに引き続いてもう一人、Zがやってきた。すると一人目のZは二人目のZを肩車する。
おかしな事だと思うかもしれないが、ここらじゃよくあることなんだ。
二度あることは三度ある。
腹立たしいことに三人目のZが現れて、二人目のZの肩に乗りやがった。
もちろん全員、『N』ですって顔でな。
なにが問題なのかって?
実を言うと、俺たちは監視されてる。
その監視している連中ってのはかなり上の方にいて、どうも俺たちが近づくのが嫌らしいんだ。
バベルの塔って知ってるか? まさにそれだ。あんまり近づくとお怒りをかって、せっかく俺たちが積み上げてきた絆が台無しにされちまう。
それがわかってて、Z一味は集まるとああやって高い所に行こうとしやがるんだ。俺たちがハラハラするのを見て愉しんでやがるのさ。
まったくいけすかねぇ連中だ。
そんな風に互いに内心でいがみ合ってるうちに『|』が現れた。
『|』はまるでイイ女さ。
誰からも好かれ、誰からも求められ、ひとたびハマると日頃の苦しみだとか悲しみだとか、そういったマイナスの感情なんてきれいさっぱり消えちまう。
へへ、そりゃ一度ぐらい一緒に横になってみてぇとは思う。皆そう思ってるに違ぇねぇ。けど、そういう対象じゃねぇんだわ。
何気なく現れて、スッと俺たちの深い隙間を埋めてくれるだけでいいんだ。「あらアンタたち、また飲んだくれてるのかい?」なんて調子でな。
誰からともなく、囃すような声があがる。
「はやくはやく」「待ってました」「こっちだこっち」
そうやって|を急かす。
|も|で、まんざらでもねぇって顔で、自分のために空けてあると一目でわかる場所へと飛び込んでいく。
それがあんまり調子に乗ってたもんだから、|は寝転んでたLの顔面を踏んづけちまって、驚きのあまり立ち尽くしちまった。
|はなんだかひどくバツの悪そうな顔をしてる。
残念ながら、もう俺たちの憂さを晴らすどころじゃねぇだろうな。
悪いことは続くもんだ。
落胆している俺たちの所へ、Zの野郎の血縁だっていう『逆Z』がニヤニヤしながら近づいて来ている。
やれやれ。ストレスばっかり積み重なる。
冴えない”テトリ身の”辛いところだぜ。
(了)
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