山に埋まっていた物【怪談】
作業員全員が土の詰まった筒を見て固まっている。
地質調査の為に訪れたこの山地で、通常通りのボーリングを行った際に異変は起きた。
土の詰まったパイプを外し中身を確認した所、地面から数メートル下の部分で人骨が発見した。人骨が見つかるのは別段珍しい事では無い。
問題なのは、それが1番上の人骨から約2メートルおきに3箇所、綺麗に頭蓋骨のみが入っていたからだ。
つまり、体の向きはどうあれ、全く同じ位置に人が埋められていた事になる。
もしかするとここは墓地なのか?古墳などの歴史的遺産が埋もれているのかもしれない。
その日は作業を中断し、改めての調査が行われる事となった。
結論としてはやはり墓地なのでは、という結論に至った。これだけ保存状態が良ければただ捨てられた訳てはないと分かるし、規則性があるのも決めてだった。
ボーリングを実施した地点から掘り進めていくと、やはり人一人分の人骨が発見され、その約2メートル横にも人骨があった。
そこから等間隔に人骨が配置され、途中で左に3回折れており、恐らくは下の段もそうなっていると推測出来た。
ロの字で3層、しかもどの人骨もロの中心を向いている。更に麻で出来た袈裟らしき服を着ている事から、即身仏か、殉葬(王族が死んだ際に、従者を共に埋葬する事)ではないかと予想された。
殉葬であれば中心に位の高い人物が眠っていてもおかしくはない。きっと歴史的遺産としての研究材料になるだろう。
掘り進めるとやはり中心にそれらしき物体が姿を現した。加工された黒曜石の塊で、上部は綺麗に切り揃えられていた。恐らく黒曜石は立方体をしているのは、人骨の配置からも推測出来、かなり巨大な石棺のようだと思われた。
年代は地層から考えて1300~500年の間だと思われる。これほど大掛かりな葬儀方法が日本にあったなんて、古墳くらいしか聞いた事がない。
「ここに何か書いてあります」
山頂側を調べていた部下が、声をあげて私を呼んだ。向かって彼が指差す場所を見ると、風化して分かりにくいが確かに何か文字が書いてある。刷毛を使って傷付けないよう泥を落としていき、文字全体を露出させる。
風化しているので読めない文字もあったが、幸いな事に側面の四面全てに同じ文字が刻まれてあった為、全文が読み取れた。
【彼封底地 勿開天雨 将禍加皆 彼之謂魍】
これの意味する所は不明だが、ここに誰かしらが埋葬されているのは間違いなさそうだった。
翌日も調査は進められたが、昼の1時を過ぎた頃雲行きが怪しくなり、そのまま2時間程土砂降りの雨が山に降り注いだ。通り雨であることは何となく分かっていたので、止み次第現場へと戻った。
すると先に現場に戻っていた面々が何やら騒がしくしているのが遠目に見え、私の姿を捉えた1人が早く来いと促した。滑らない様に小走りで近づいて行く。
大型トラック程の重さがあるであろう石棺の蓋が、大きくズレて地面に落ち、数体の骨を踏み潰していた。
こんな重たい物を一体誰が……いや、重機がない限りはそうそう開けられないだろう。ではさっきまでの土砂降りのせいでずり落ちたのだろうか。
開いた方へ回ると、2、3人が石棺の中を覗き込んではしきりに林の方を振り返っていた。
私も石棺の中を覗き込んだが、中には何も無く、風化からか内側はボロボロになっているのが見えた。
「何をそんなに気にしてるんだ」
そう言って彼らと同じく背後の林の方を振り返ると、ついさっき出来たかのような獣道が、山の麓の方へ向かって蛇行し続いていた。