松茸狩り【不思議な話】

「美味し〜い!」
山の麓にある隠れ家的小料理屋で、松茸尽くしのコース料理を食べていた。
日に数客しか取らないというが、これだけの贅沢な料理ならばそれも頷ける。
たまにはと思って奮発し、片道2時間の道のりをやってきたのだ。これくらいあってもらわねば。
食べ終わる頃店主が席にやってきたので、一頻り褒めちぎって世間話をした所、気を良くしたのかこんな提案をしてきた。
「こんなド田舎ですし、お客様もそんなに多くはないので……もしレビューして頂けるのでしたら、代わりにと言っては何ですが少しだけ狩りに着いてきませんか?」
私は二つ返事で松茸狩りへと着いていくことにした。
レビュー程度で松茸をくれるのなら安いものだ。
山に入って暫くすると、気の所為かもしれないがほのかに芳ばしい香りが漂ってきた。
「あ、それ松茸ですよ」
と指差された先を見ると、確かにぽっこりと傘が見えている。取り方を教えて貰い、慎重に取る。
土の匂いに混じり、ほのかに松茸の香りが鼻をくすぐる。
時間はかかりつつも2、3本探し当て、一際大きな物を見つけて取ろうとした。しかし、興奮と慣れが相まって傘の部分を少し傷つけてしまった。
その瞬間

「いてっ」

と小さく高い声がした。
何今の、と不思議に思いながら松茸を引き抜くと

「ぎゃっ」

とまた声がした。その声に驚き松茸を取り落とすと、傘が下を向いた状態で落ちた。
傘の裏側に三日月模様が3つ付いていて、もぞもぞと痙攣し、スっと閉じた。
「な、何これ……」
私がボソリと呟くと、いつの間にか店主が横に来ており、問いに答えた。
「あぁ、この山で取れる松茸の中にたまにあるんですけど、これがまた美味しくて……あ、傷つけちゃったんですね。これじゃあちょっと渋くなっちゃうかなぁ」
落とした松茸を拾いあげる店主。私はそれを呆然と見ていたのだが、急に目眩がしだして思わず膝をついてしまった。
すると店主が
「いやぁ、今度の肥料は肥えてて助かるなぁ。まぁ料理残したのはムカついたけど、その分沢山いい物食べてきたんだから、今度はいい物食べさせる方にまわらないとね、どうもありがとう」
と言って私に向かって何かを振り下ろした。

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