【翻訳】英国メイドと女主人の生の声を集めた報告書『家事サービス』
書誌情報
タイトル:家事サービス/DOMESTIC SERVICE
著者:C.V.Butler with Lady Willoughby de Broke
出版年:1916年
出版社: London, G.BELL AND SONS, LTD.
翻訳者による本書紹介
本書は英国メイドに関する様々な資料の中で、最も多く女主人たちやメイドたちのリアルな声を載せた1916年の報告書である。
1916年と第一次世界大戦中に刊行されたもので雇用主と使用人双方にアンケートを行い、雇用主から708通、使用人から566通を得た多くの回答を分類し、彼らの声に基づいて問題点と解決策を提案する内容となっている。
報告者の「女性産業評議会」(the Women's Industrial Council)は様々な職種の雇用環境調査を行っており、本書は評議会による家事使用人の労働市場についての調査報告書となる。
1910年代以降は「使用人問題」と呼ばれる、家事使用人のなり手不足が社会問題化しており、政府が報告書を作るなど様々な状況分析・提言などが発表された。大戦中の英国政府も「復興省による戦後プラン」の中で家事労働をテーマの一つに挙げるなど、差し迫った問題になっていた。
あわせて、本書は英国メイドに関する国勢調査の統計資料を最も多く掲載しており、同人誌『英国メイドがいた時代』の主要資料となる。
使用人問題について関連する翻訳資料
序文
この調査は、戦争(世界大戦)の前に終了し、その報告書もほぼ完成していた。その後、さまざまな原因によって、その出版が遅れている。しかし、主題はさほど影響を受けていない。この1年半の間に、かなりの数の使用人を雇用していた階級の人々が、病院や軍の酒保で激しいマニュアルワークをした。このことで、彼らは家事労働に関する以前の見解を改めたかもしれない。
戦争の最初の2ヵ月間で多くの使用人は解雇され、一時的にアンダーハウスメイドやレディーズメイドが労働市場に過剰供給された。しかし、軍需産業や女性の新しい職業が、一部の上級使用人を除いてこの供給過剰を吸収し、使用人不足は以前にも増して深刻になった。
このことは、比較的小さな個人的困難の数々について、次のような分析を提供することを、ある程度は正当化できるかもしれない。
「普遍的なものは、ありふれたものだった」
ある産業部門の悩みや楽しみは、それ自体には何も問題はないのに、「戦争作業」に直接貢献することはなく、現在の問題や不安とはまったくかけ離れているように見えてしまう。しかし、家事労働が依然として最大の割合を占める女性の労働市場は、1914年8月の開戦以降に発展した問題のうちの些少な1つではなく、戦後により大きな重みを持って私たちに戻ってくる問題となる。
調査の方法は次の通りである。女性産業協議会の委員会により、2つのリストが作成された。一つは、雇用主に向けたもので、彼らが紙面で議論するために解答を引き出す形での質問で構成され、もう一つは使用人が回答や提案をするためのスペースを設けた簡潔な質問で構成されている。これらの見本は、付録viiiに示されている。
前者の質問票は、ブリテン諸島全域の多数の使用者に送られ、一部は女性産業協議会の会員とその知人に、一部はマスコミの声明や通信に応答して届いた住所に、一部は女性のさまざまな組織の関係者に送られた。多様な階層やタイプの雇用主から回答を得るために特別な努力がなされた。使用人へのアンケートも同じように送られた。
ほとんどすべての場合、書き手は自分の名前と住所を送り(公表するためではないが)、回答の大部分は長くて丁寧な、まさに人間味のある文章であった。雇用主の質問票には708通、使用人の質問票には566通の返信があった。
このほか、雇用主や労働者から、個人的に、あるいは報道機関を通じて、数百通の手紙が寄せられた。この報告書は、このように集められた資料からほぼ完全に編集されたものである。編者は予備調査には参加していない。この報告書は統計的記録ではなく、数百件に及ぶ相反する意見や証言を公平に評価しようとする試みである。家事労働の訓練に関する付録は、女性産業協議会の教育委員会が実施した調査によって補足された独自の調査の結果である。
数百枚の用紙をエージェントを通じて会員に配布することを快く許可してくれた家事使用人保険協会に感謝するものである。調査を引き受けた委員会の名誉書記として、調査のほとんどすべての負担を負ったミス・M.S.バートンとミス・バーナード・ドレイク、ミス・M.G.スキナー、ミセス・W. ジョン・M・ハント、ミセス・パーシー・アボット、ジョージ・デイトン評議員、ミセス・L・K・イェーツは、専門的な知識に基づいて貴重な情報を提供してくれた。
膨大な量の申告書をコピーする作業に膨大な時間を割いてくれた様々な女性たち。そしておそらく最も重要なのは、わざわざ長文で、しかも非常に率直な回答をくれた大勢の使用人や女主人たちにも感謝する。
C. V.バトラー
目次
はじめに
第1部:個人的側面
(i.)自由
(ii.)交友関係
(iii.)興味関心
(iv.)カーストの喪失
第2部 産業的側面
I.実質賃金
(i.)宿泊施設
(ii.)食事
(iii.)労働時間および外出時間
(iv.)名目賃金
(v.)制服
(vi.)将来性
II.組織
(i.)入口:初心者の問題
(ii.)効率の基準
(iii.)職場と使用人を見つけること
(iv.)紹介状
(v.)勤務期間
(vi.)組織化の方法
第3部:産業的側面と個人的側面の交点:概要
雇用者たちによる結論 著:レディ・ウィロビー・ド・ブローク
付録
(i.)家事サービスのための既存の訓練方法
(ii.)家事サービスと他の仕事との比較
(iii.)職業紹介所に関する法律
(iii.)地下の寝室に関する規制
(vi.)公共職業安定所の統計、およびサービスに関する規制
(vi.)国勢調査の抜粋
(vii.)ホテル経営者からの問合せに対する回答の概要
(viii.)雇用主および被雇用者に送られた質問表
(ix.) 参考文献
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