樺太(サハリン)の建築④真岡-地域のお宝さがし-60

■真岡(ホルムスク)■
●熊笹峠●

 豊原から真岡までは約120Km(車で1時間45分)もあるので、途中の熊笹峠(ホルムスク峠)で休憩しました。この峠は、昭和20年(1945)8月20日に真岡に上陸し(注1)、豊原に進軍するソ連軍と日本軍との間で激戦が展開された場所です。この付近に日本軍のトーチカが残されていると聞きましたが、そこには行けませんでした。頂上に、戦車を飾ったソ連の戦勝記念碑がありました(図1)。

図1

図1 戦勝記念碑

 豊原でも、戦闘機や戦車が市内の公園でも展示され、子供達がそれに乗って遊んでいました(図2)。自分も子供の時に、戦艦や戦闘機のプラモデルを作った時期があり、そういうものに対するあこがれもありましたが、間近にある実物で遊んで育つのでは、戦争に対する感覚が異なるのではないかと思ってしまいます。

図2

図2 公園の戦闘機

 真岡では、最初にプリモールスキー公園から、日本が大正時代に作ったという港を見ました(図3・4)。風が強く、錆びた赤い灯台をみていると、いかにも「さいはて」という感じがします。

図3

図3 真岡の港

図4

図4 港の灯台

注1)ソ連軍の艦砲射撃により真岡の大部分が焼失したため、真岡には日本時代の遺構は現存しないという。『地球の歩き方シベリア&シベリア鉄道とサハリン』

●王子製紙真岡工場●
 王子製紙真岡工場は、大正8年(1919)に樺太工業真岡工場として操業を始めますが、大正10年の火災で焼失・復旧されます(注2)。昭和8年に王子製紙に吸収合併され、王子製紙工場となりました。戦後は、ホルムスク製紙工場として操業しますが、1990年代中期には操業を停止したそうです(注3)。巨大な施設ですが、ガラスは割れているし、内部はむちゃくちゃで、荒れ放題です(図5~7)。完全に廃墟化しているようで、あと10年もしたら無くなるのではないかと思いました。

図5

図5 王子製紙真岡工場

図6

図6 王子製紙真岡工場

図7

図7 王子製紙真岡工場

 同社の社宅は、大屋根にドーマー窓が突き出た瀟洒な建築ですが、やはり相当傷んでいます(図8)。現在は、韓国人が住んでいると聞きましたが、人が住んでいるから維持されているようなものだと感じます。

図8

図8 王子製紙真岡工場社宅

注2)井澗裕他「南サハリンにおける日本統治期(1905~45)建築の現存状況」(『日本建築学会技術報告集第5号』1997年12月)
 3)「(下)旧王子製紙真岡工場」(朝日新聞DIGITAL)

●忠魂碑●
 山の手に鎮魂碑が残されていました(図9・10)。ここは、元来墓地であったのですが、それをつぶして集合住宅が建設されたそうです。そのせいか、頭痛のひどい人や亡くなる人が多いと、ガイドが話してくれました。

図9

図9 鎮魂碑

図10

図10 鎮魂碑裏面

●真岡神社●
 真岡神社は、現在サハリン船舶会社になっています。当時の石段と最上部の左右には八角形の台座が残り、灯籠が設けられていたものと思われます(図11・12)。

図11

図11 真岡神社正面石段

図12

図12 石段最上部の台座

 この他、「浄水」と刻まれた手水鉢(図13)、「馬頭観世音」(図14)の台座の側面には、「昭和三年五月八日 田中文治妻□」と刻まれており、田中夫妻によって、昭和3年に奉納されたことが窺われます。

図13

図13 手水鉢

図14

図14 「馬頭観世音」台座

●廃村●
 豊原への帰路の途中、昔日本人が住んでいたという村の近くを通りました(図15)。建物などは何も無いのですが、森には咲かない美しい花が咲いていて、それが村の名残であると聞きました。

図15

図15 廃村跡

■閑話休題■
●樺太マス●

 真岡への途中、川で魚釣りをしました。川では練り餌で鯉釣りをしたことはありますが、ルアーでの投げ釣りは初めてです。時間は約20分、50cm級の樺太マスを3匹釣りました。豪快な当たりと強い引きは、とても面白いものでした(図16)。

図16

図16樺太マス ゲット!

●真岡郵便局●
 終戦後、日ソ中立条約を破棄したソ連は、樺太で多くの民間人を殺害しました。特に真岡では、郵便局の女性局員(8人)が青酸カリ自殺をした話は有名です。真岡郵便局の跡地には、9階建てのビルが建ち、1階に郵便局が入っていましたが、この話を知る現地の人は少ないとのことでした。

●残念な大泊(コルサコフ)●
 最終前夜から雨が激しく、帰路の船は揺れるかも知れないなあという不安より、大泊の町歩きや撮影は無理かも知れないと心配になりました。翌朝も車のワイパーがきかないほどの大雨。大泊港の事務所へ着くと、道路は冠水し、水浸し。残念ながら、到着日に見た、港付近の煉瓦造の倉庫や拓殖銀行大泊支店などはお預けとなりました。

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