「大社造り」の社 -地域のお宝さがし-97
■あるある大社造り■
●神魂(かもす)神社●(松江市大庭町)
「大社造り」について、出雲大社(延享元年[1744]造替)を例にとり、妻側(梁間、短辺方向)の右端に入口が設けられた妻入り形式、平面は正方形(田の字形)で、周囲に回り縁・高欄が設けられていると紹介しました(第95回)。この形態の最も古い遺構は、神魂神社(天正11年[1583]造替)です。規模はさておき、切妻造り・妻入り、正面右側に入口、その手前に階段、周囲に回り縁・高欄を設けるなど、外観はそっくりです(図1)。
平面も双方ともに正方形で同じですが、宇豆柱(うずばしら)の外部への突出度は神魂神社が大きく、御神座の位置は、神魂神社が左奥、出雲大社が右奥になっています(図2・3)。出雲大社は、床下の柱配置などは見えませんが、神魂神社では見ることができます(図4)。
「大社造り」の社は、まだまだあります。
●美保神社●(松江市美保関町)
美保神社は、拝殿の背後に大社造りの本殿が左右に併置された形式で、「比翼大社造り」や「美保造り」というそうです(図5・6)。
平面を見ると、右側の左殿と左側の右殿の間に「装束の間」が設けられた形式です。左殿・右殿ともに、平面は正方形ですが、田の字形ではなく、内陣・外陣に区画されています。入口は正面中央部に設けられているため、階段も中央に配されています(図7、注1)。
外観は大社造りで、背面を見ると併置された形式がよく分かります(図8・9)。なお、拝殿(昭和3年)は伊東忠太の設計監督により、造営されたそうです(図10、注1)。
注1)「ご祭神・ご由緒 美保神社」より転載。
●佐太神社●(松江市鹿島町)
佐太神社は、出雲国三大社(注2)の一つとして「佐陀大社」とも呼ばれた由緒ある古社だそうです。大社造りの社殿が、「正中殿」を中心に左側に「南殿」、右側に「北殿」が並ぶ、三殿並立という形式です(図11)。
外観を見ると、「南殿」の階段は左側(図13)、「北殿」は右側に配され(図14)、左右対称になっています。
注2)出雲大社・熊野大社・佐太神社の三社。「神社と古事記 出雲国三大大社」
注3)「佐太神社 しまね観光ナビ」
●八重垣神社●(松江市佐草町)
八重垣神社は、単独の大社造りの社殿です(図15)。
これまでの大社造りの本殿の正面・背面には梅鉢懸魚が施されていますが、当社の正面には懸魚は無く(図16)、背面には蕪懸魚(かぶらげぎょ)が備えられています(図17)。
■他の神社はどうか■
古い神社の形式のうち、「大社造り」(出雲大社)のあるあるを少し見ましたが、「神明造り」(伊勢神宮)のあるあるも見ておきましょう。
●香良洲神社●(津市香良洲)
「神明造り」の最古の社殿は、仁科神明宮です(寛永13年[1636]、図18、注4)が、ここでは、香良洲神社を見ておきます(図19)。
当社は、平成24年(2012)8月に、落雷による火災で、茅葺きの本殿屋根の全面が焼けたそうですが(注5)、図18はそれ以前の写真です。妻面に棟持ち柱が配されているのがよく分かります。
注4)ウィキペディア「仁科神明宮」より転載。
注5)ウィキペディア「香良洲神社」
■閑話休題■
一概に、「大社造り」といっても、細部のちがいなど、様々な形態があることが分かりました。「神明造り」は、伊勢神宮の地元や境内の摂社などに多く見られますが、仁科神明宮(長野県)は、伊勢神宮の神宮領に設けられたものです。一方、「住吉造り」については、他の地域(含大阪)で見たことはありません。まだまだ、探訪の修行が足りないということでしょうか。