お気に入りのカフェについて語ろうか(おまけ創作あり)
わたしは、中野ブロードウェイにある
『Kカフェ』というカフェが大好きである。
わたしのnoteをしょっちゅう読みに来る人にはもう説明不要だろうけれど…
今回は、わたくし駆動トモミが、『Kカフェ』の魅力について語ってみようと思います!
(よくあるネット記事風)
『Kカフェ』が好きだ、好きなんだよ~
『Kカフェ』とは、
小説家・渡辺浩弐先生がやっているカフェ。
中野ブロードウェイ4階の
ちょっとわかりにくいところにある。
もともとこのカフェは、2008年5月、渡辺先生が中野ブロードウェイに所有していた物件を改築し、講談社BOX編集部が運営するブックカフェ「KOBO CAFE」として誕生した。
2008年、役目を終えた後
『Kカフェ』として不定期にオープンするようになった。
開いていたらラッキー……という状態だったようで、カフェの扉のところまでたどり着いたものの、「開いていない!」と涙を流したという渡辺浩弐ファンがたくさんいると聴く。
ただ、実際には、X(旧:ツイッター)で告知の上開店していたようだし、新刊が刊行されればサイン会や配信などもしていらっしゃった。しかし、カフェとしてはあまり頻繁に営業していなかったため、「開かずのカフェ」として定着してしまった様子。
ここ15年間くらいの『Kカフェ』の動き
『Kカフェ』のざっくりとした動きを調べてみたので、よかったらご参照ください。(詳しい日付は省略)。わたしの情報はインターネット上に落ちている情報や、渡辺先生のXのポスト検索でざっくり集めたビギナー向けです。間違ってるところあったらコメント欄で教えてくれよなっ!
たぶん渡辺浩弐先生をもっと熱烈に追いかけている人はたくさんいると思うので(例えば、GTVのサイトに「渡辺浩弐 関連リンク集」としてリンクされている「W-Cat」がネット上では最高に詳しいファンサイト)、詳しく知りたい方はネットの海を深くダイブして探しに行ってください(笑)
上記からわかるように、開かずのカフェの扉が開くとき……それは、外的要因があったか、渡辺先生が「ここだ!」と目覚めた時のみ、というイメージだった。
そんな中。
2023年11月ごろ、突如、渡辺先生がブログで
「お待たせしてすみません。予定は未定ですが、近々開けますね」
と宣言。
2023年12月には
「たまに突発的に開けてみますね」
とテストオープンを開始。
2024年1月不定期なテストオープンが続いたが、2月にはついに告知ブログの記事からテスト・不定期の記載が消えた。
『Kカフェ』の営業時間・メニュー
2024年3月以降、『Kカフェ』は
特別な時をのぞき、
毎週金曜・土曜・日曜に営業している。
営業時間は20時から23時まで。
メニューは以下のとおり。
渡辺先生自らが淹れてくれるコーヒーがおいしい
アルコールの銘柄とかは随時変更あるかもしれないので気になる方は来店時に訊ねてみるとよいかも。
たまにmondのメンバーシップ「渡辺コージ中」のメンバーだけが入店できる日があるのでご注意を(大体月初め/詳しくはブログまたはX・mondでチェックできます)
『Kカフェ』の雰囲気はどんな感じ?
お店の雰囲気としては、「静かなカフェ」「愉快なサロン」という感じ。
お客さんがたくさんいれば、マスターである渡辺先生を交えて賑やかにお話したりもする。
お客さんは、その話に入ってもいいし、その話をうんうんと静かに聴いているだけでもいい。あえて気にしなくてもいい。
普通のカフェと同じように、静かに読書する人もいる。
お店には渡辺先生の小説が置いてあるので、手に取ってみるのもいいかも。
渡辺先生はお店の人として、ワンオペなので、もしかしたら、なかなかお話ししたくても話しにくいかもしれない。
もし、渡辺先生とゲームの話や小説の話をしたり、創作について相談や意見交換をしたかったり、パンに絵の具を塗って食べた話(笑)とかしてみたい場合には、1杯注文するときに思い切って「お店に来たきっかけ」や「話したいです!」って言ってみるのが、いいかもね?
な~んて、偉そうに言ってるわたしも、2024年2月に初めてKカフェに入って、最近やっと、なんとなくKカフェの楽しみ方が分かってきたかも?っていう感じなんですけどね。
あ、可能ならば中野ブロードウェイ3階の明屋書店さんに立ち寄り、中野ブロードウェイ怪談を購入して、お店に持って行きサインをねだるのもおすすめ!!
よくXなどで、
「落ち着いたら行きたい」
「そのうち行きたい」
「タイミングがあれば行きたい」
なんていうつぶやき(心の叫び)を見ます。
みなさまご都合はいろいろあるでしょうけども……
いつまでも、やっているとおもうな、Kカフェ。
って感じで、もういけるときにすかさず行ってみるのをお勧めします!
開店予定はブログに1週間前くらいに告知されますし
遠方の方は「この日、先生いらっしゃいますか~」なんて、事前にXのリプライできいてみるっていうのもありなんじゃないでしょうか!
※と、渡辺先生に無許可で書いちゃう(笑)
みなさんもぜひ、
中野ブロードウェイ4階の『Kカフェ』に
遊びに行ってくださいね!
さて、ここからはおまけ。
これから書く話は、Kカフェを舞台にした物語。
10月にKカフェで珈琲を飲んだ後、ぼんやりと思いついたもの。
駆動トモミの思考・嗜好をちりばめた、小説のようなものですのでご興味なければ回れ右して、観なかったことにしてください(笑)
先にネタばらしをしてしまうと、この小説のようなものは10月26日に行われた、星海社「ミステリカーニバル」の織守きょうや先生×渡辺浩弐先生によるトークセッション「ホラーミステリの現在を語る!」の内容に影響された駆動が、ややホラーっぽい感じを目指して書いてみたものですが……ぜんぜんそういった世界に到達しませんでした!!なかなか難しいものです。
ご準備よければどうぞ。
◇ ◇ ◇
【創作】コーヒー飲む客、飲まぬ客
2024年10月26日21時
わたしは、中野ブロードウェイ4階『Kカフェ』の入り口に立っていた。
入り口に静かに現れた人影に気づき、客が数人わたしの方を観る。
とくに、常連のSBさんは、わたしの顔をみて、わたしだと認識したようであったが、少しの間、とても不思議そうな表情をした。
いつもなら、「ああ〜!」なんてすぐ声をかけてくれるのに、まじまじと確認するようにわたしをみていた。はじめ、何故そのような態度なのかわからなかったが、SBさんの質問で、その理由がわかった。
「あれ?なんで?今日は都立家政駅のあたりにいたよね?そして、東久留米に帰ったんじゃなかったっけ?」
「よくご存知ですね?そうです。都立家政に用事を足しに行っていました」
「そして、さっきまで東久留米のホールでなにかイベントを見ているって言ってなかったっけ?」
「そこまで知っていらっしゃるなんて!」
「いや、Xを見ていて、おすすめのフィードに出てきたんだよ。きみの情報が」
「そうでしたか」
今日は中野ブロードウェイと同じ中野区にある都立家政駅のあたりをうろついており、その模様をソーシャルネットワーキングサービス「X」でポストしていた。にもかかわらず、その後、いったん居住地域である東久留米市に1時間かけて帰り、地元のお笑いイベントを見ているというポストをつい1時間前に行っていたのだ。その後、Xに最新状況を伝えるポストがなく、突然わたしがKカフェに現れたものだから、SBさんが把握していたわたしの行動時系列に違和感を感じた……ということのようだった。
カウンターで作業していたマスター・渡辺浩弐先生が顔を上げ、遅れてわたしを認識した。
「ああ!いらっしゃい!」
マスターも少しだけ驚いていたようだったが、わたしは間髪入れずに注文をする。
「ホットのコーヒーを、お願いします」
「はい、了解です〜」
マスターがコーヒーの準備をし始めるのを確認して、わたしは荷物をおろし、いつもの席にすわった。
SBさんは、違和感の原因を自身で分析するように言った。
「きみはさっき、東久留米にいたはずなのに、この中野に不意に現れたのでちょっと気持ちがついていかなかった……いや、でも前回10月末にまた来るかも、なんて言っていたっけ。でもまさかこのタイミングで現れるとは予想していなかったよ。あのXの様子から想像できなかった」
「そう思うのも不思議じゃないですよ。だって、わたし3人いるんで」
「え?」
「駆動トモミ3号が東久留米にいたんですよ。駆動3号がポストしたんですね!」
「きみは何号なのさ?」
「わたしですか?わたしは1号ですよ!わたしがオリジナルです」
「そうなんだ」
「はい。Kカフェにくるのは、オリジナルのわたしだけのはずですよ?」
そういうと、わたしは荷物の中から、北海道土産をとりだした。
先日まで札幌に帰省していたのだ。
「はい、これ、みなさんに!」
わたしは、店内にいるお客さんに、六花亭で買ってきた【マルセイバターサンド】を配る。10個入りのものを買ってきた。
「北海道いってたんですね?いいなぁ」
Bさんはそういうと、にこにこしてヱビスビールを呑み、喉を潤した。
「はい!こちらは駆動2号からのお土産です」
STさんはこれから夜勤らしく、アルコールではなくオレンジジュースを飲んでいた。
「ははは、駆動1号~3号はみんなメガネっ子なのかな?」
「そうですね。みんな違う眼鏡かけてますんで、見分けるとしたら眼鏡ですかね」
顔見知りの常連さんは3人。
SBさん、Bさん、STさん。
初めて会うお客さんがふたり。
そして、マスター。
お菓子の数は足りた。よかった。
初めて会う方にも、思い切って話しかけ、お土産をすすめてみる。
「ええっと。これ、北海道のお土産なんですけども、よかったらどうぞ!」
ソファーに座っていた細身の男性が、わたしの顔をみて、はっとした。
「あ!あなたは、駆動さん……じゃありませんか?」
「え、あ、はい!そうですが」
咄嗟に、SNSで繋がりのある方なのだろうと思い、構える。
アカウント名を聞こうと思った。
「あの……どこかで?わたしを?すみません、お名前をお伺いしてもいいですか?」
「Oといいます」
「あ!いつもいいねいただくかた!」
わたしは顔出しで創作活動をしていて、Xを活用し宣伝をしている。
そんなわたしのポストをマスターがたまにリポストしてくれることがあるため、Kカフェに興味のあるひとは、わたしのポストが目に入る機会が多くなったのだろう。Kカフェでお茶をしていると、「駆動さんですか?」とお声がけくださることがここ数ヶ月、何度か発生していた。
自分のことを覚えてくださっているのは大変光栄なことである。良くも悪くもなにかそのひとの記憶にのこったということなのだから。
「Oさんってあれですよね?茶髪の、横顔のアイコンの……」
「ええ、そうです」
「そうですよね!いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします!」
わたしは咄嗟に記憶をフル回転させて、ご挨拶をした。コーヒーを席に持ってきたマスターは、そのやりとりをみながらぽそりという。
「すごいな。情報を覚えているんだ?」
「はい!」
わたしは、SNSでいいねやリポストなど、アクションしてくれたアカウントはかならず巡回する。そして名前をみて、アイコンをみて、プロフィールを見る。1週間分のタイムラインも遡る。
わたしは情報を集めることに喜びを感じるタイプなのだ。ストーカー気質ともいう。自分に何か興味を示してくれた人のことを、知りたいのだ。
一方、マスターは、自分の活動の宣伝やKカフェの営業告知などを主にポストしており、またそれらに関することをリポストはするが、いいねを押すことはない。ご自身のポリシーに基づき、「いいねゼロ」を貫いている様子だ。だから、わたしのようなスタンスでSNSをやっているニンゲンに対して驚き(または呆れ)があるのだろう。
そもそも、マスターくらいフォロワーがいれば、なかなか誰がなんのアクションをしていたかなどというのを覚えるのは徒労であろうと思うし、不特定多数のニンゲンからのアクション通知をうけ、つねにやり取りをするというのは疲弊してしまうだろう。不健康だ。
SNSは、本来、適度な距離感を保って楽しむものである。
わたしは、ファンとの距離感を適度に保っているマスターのことを羨ましく思う。
正直言って、わたしはSNSに対してはかなり「病気」だ。
なにもリアクションをもらえない世界は怖い。
いや…本当はそんなものを気にしないで、自分の世界を創造し、自分の心を豊かにして生きていく方が健康的だとわかっている。それに、SNSなんて狭い世界なのだから、もっと視野を広くした方がいい。それもわかっている。
だが、SNSは狭くて広い、不思議な魅力を持ったものなのである。
実際SNSをつうじて音楽やイラストの仕事をもらうことがあるし、良くも悪くもダイレクトにやり取りできたり、反応が見える。わたしはそこに魅力を感じている。
何者かになりたくて創作活動を続けているわたしにとって、一番怖いのは【無反応・無関心】である。
「関心をもってもらいたい」と常に考えている。
とはいえ、どんなにインプレッションの数字が欲しくても、どこぞのインフルエンサーのようにわざと毒を吐いたりだとか、いいね5000ついたら裸になるだとかそういう下品な方法で気を引くことは考えたりはしない。
できるだけ上品に、したたかにやりたい。
あざとさが目立たなければもっといい。
それに……今更、適正な距離感などわからない。どんなにピュアな気持ちに戻りたくても、長年「関心を持ってもらうこと」を軸にしてネット上だけで活動してきたのだ……健全ではないと思いつつ、その考え方・感じ方が体に染み付いてしまって剥がすことはできないと感じていた。
ふと、店内の角の席に目を向ける。
もうひとりの「初めて会うお客さん」が、こちらに背を向けてホットコーヒーを飲んでいた。
わたしは、そのお客さんに近づいてみた。
「あの、北海道のお菓子なんですけど、いかがですか?」
そういって足をさらに一歩踏み出して、顔を覗き込もうとしたとき、つまさきになにかが当たった。
足元にある、大きいカバン。
アニメのキャラクターやアイドルのアクリルキーホルダーがじゃらっとついている。
わたしはそのカバンを見て、ピンときた。
(タイムラインで、見たことがある)
「このかばん……」
「え……!」
やや戸惑っているような反応だったので、わたしは続ける。
「もしかして、あなた、いつも、わたしのSNSでいいねをたくさん押してくださるかたじゃないですか?ええと…」
アカウント名……を思い出したいが、出てこない。
すごく印象に残っているはずなのだが。
わたしは声をかけた手前、引っ込みがつかなくなり、また記憶をフル回転させて会話を続けようと試みた。
「えっと、いいねいただいて、タイムラインを見に行ったら、このかばんについているアクキーの束凄いな!って思った記憶があって……えーっと……そうだ!アイコンが、綺麗な赤のブーゲンビリアの花!そのアイコンのかたじゃありません?」
そのお客さんは、目を丸くしていた。そして、そのあと、笑顔になった。
「ええ、そうです!」
「ただ、すみません……お名前が出てこなくて…アカウント名お伺いしてもいいですか?」
そのお客さんは、堰を切ったように早口でしゃべり始めた。
「ロム王といいます!駆動さんだぁ。会えてよかった!いつも、拝見しています。YouTubeでラジオや歌、毎日聴いてます!あと、XもnoteもFaceBookにInstagram、threadsにアメブロも見てて、あ、あとポケカラの歌も聴いてますし……」
「たくさん見てくださってるんですね!ありがとうございます!」
「じつは…今日カフェに来るんじゃないかと思って、会いたくて、駆動さんが大好きだというこのカフェに、はじめて、来てみました……」
ロム王さんは、店に響く大きな声で、私の目を見て言った。
「あなたが大好きで、あなたの作品は全てみています!」
みんなが驚いて声のしたほうを見た。
ありがたいお言葉ではあったが、さすがにわたしもちょっとびっくりした。
「そうですか!それはそれは恐れ入ります」
「お菓子ありがとうございます!一生大事にします!」
(一生?!)
ロム王さんは、大きなバックのチャックをあけた。
瞬間的にカバンの中身に目が行く。漫画の本や、ちいさな女の子のフィギュア、トレーディングカードが入ってそうなファイル、なにやらいろんなものがたくさん入っているのが見える……きっと好きなものは全部手に入れたいタイプなのだろう。情報量の多い荷物から、熱気のようなものが立ち上がってくるように感じた。
ロム王さんは、カバンのなかに入っているたくさんのものをかきわけ、わたしがあげたお土産をやさしく丁寧に隙間にしまうと、チェックのシャツの胸元からスマートフォンを取り出した。
「お写真、とってもいいですか?」
「ええ…いいですよ!」
慌ててスマイル。
SBさんが気を利かせて、声をかけてくれる。
「せっかくだからツーショットどうですか?ねぇ?」
「でも…ぼくなんて……」
ロム王さんはモジモジしていた。突然のツーショット提案に驚いたのだろうか。慣れていない様子だ。わたしは空気をかえたかった。
「あ、ご希望の方法でいいですよ。わたしはワンショットでもツーショットでもどちらでもいいです!今日の撮影は無料サービスです!」
ちょっと冗談を言ってみたら、カフェにいるみんなが笑ってくれた。
「よし!じゃあみんなで撮影会しますか」
Bさんも、ヱビスを飲む手をとめて、わたしに向けてスマートフォンをかまえる。お初のOさんも、ちょっと面白がってこちらにスマートフォンを向けた。
ロム王さんは、スマートフォンをSBさんに渡す。
そして、相変わらずもじもじしながらわたしと距離をあけて、手を後ろに組んで立った。
「はーい。じゃあとりますよー、3枚くらい撮りますねっ。はい、あ、いいですねー」
SBさんはまるでカメラマンのように声がけしながら撮影する。面白いなぁ…と思っていた時だった。
肩に、温かさを感じた。
「ヒッ!!」
わたしはびっくりして声を上げた。
「大丈夫?」
マスターがわたしの顔を見て心配している。
「え、あ、はい…」
(いきなり肩を抱かれた……!!)
そう言いかけたが、明らかにロム王さんはわたしの肩に手を回せる距離に立っていなかった。そしてなにより、後ろに手を回し組んだたままだ。
わたしは混乱した。
先程、肩に感じた温かさや感触は、確かに人の手のひらのそれだった。
誰がわたしの肩を掴んだのか。
「写真、SNSにアップしてもいいですか?」
ロム王さんに、声をかけられ我にかえる。
「え?あ、はい……どうぞ…かわいく撮れてるといいなぁ…ははは」
わたしは、動揺して取り繕うのに精いっぱいだった。
写真撮影が終わると、ロム王さんはカップに残っていたコーヒーをぐいっと飲み干して、マスターのもとに向かった。
「そろそろ帰らないと電車間に合わないかもなので……すみません!お会計お願いします!」
「はい~!ホットコーヒー2杯1400円です。お支払いは現金にします?カード?PayPay?」
「PayPayで払います」
支払処理が完了し、決済完了の音が流れる。
「今日は楽しい思い出をありがとうございました!会えて、うれしかったです!ではまた、いつか、きます」
ロム王さんはみんなの顔を見て、一礼した。
それにつられてみんなぺこりと一礼する。
わたしも。
そして顔を上げた次の瞬間、そこにはもうロム王さんはいなかった。
あまりにすっといなくなったので違和感があった。
店内が一瞬しんとなる。
時間は22時を回っていた。
誰も口を開かない。いや、開けないと言ったらいいのか。
沈黙を破るように、STさんが言った。
「やばいの、見ちゃいましたねぇ。ひさびさに来ましたよ」
「ええ。ほんとに」
マスターがいつもの柔らかい口調で返答したが、目は笑っていなかった。
「やばいの」「ひさびさ」?
どういうことなんだろう
……と、わたしがマスターに訊ねるより前に、Oさんが立ち上がって、「ぼくもお会計お願いします」とカウンターに向かった。
「お支払いはカード、PayPay、現金どれにします?」
「現金で」
「はい、コーヒー2杯で1400円ですぅ」
Oさんはお釣りを受け取りながら、マスターに言った。
「今日はありがとうございました。次回きたら、小説の話とか創作の話お伺いしたいです」
「はい!是非!今日はちょっと話しにくかったかな、ごめんなさいね」
Oさんは少し考えて、マスターに訊ねた。
「いや、仕方ないです……何かあったんですよね?今日は」
「え、ああ……はい。そうなんです」
「僕には、まったく、見えなかったから……でも、不思議な体験できてよかったです!またコーヒー飲みに来ます。では」
Oさんは、そう言って店を出て行った。
(僕には、まったく、見えなかったから……?!)
わたしはなんとなく心配で、今度は店を出ていくOさんから目を離さなかった。店を出て、廊下を歩き、角を曲がるまで、Oさんの姿を見届けた。そして見届けたあと、自分の体の緊張がとけ、どっと疲れる感覚があった。
「すみません。オレンジジュースを、いただけますか……」
わたしがそういうと、常連さんが次々に注文する。ちょうどラストオーダーの時間だった。
「はーい。ちょっとまっててね」
マスターはにこっと笑って、注文された品の準備を始める。
「あの……何かあった、ってことなんですか?今夜は……」
わたしは、誰にともなく話しかける。SBさんが答えた。
「まぁ、そういうことになるかなぁ」
「そういうこととは、どういう、ことだったんでしょうか」
混乱するわたしを見かねて、STさんが言った。
「ああ、駆動さんは遭遇したことがなかったんだね。一度は見かけたことぐらいあるかと思ったんだけど。違うんだ。そうかそうか~」
「え?さっきのロム王さんのことですか?」
わたしはSTさんに確認する。
「いや、ちがうちがう。ロム王さんに”ついてきたやつ”のこと」
「ついてきた……やつ?」
わたしが困惑していると、SBさんはBさんにたずねた。
「Bさぁ、さっき駆動さんの写真撮ってたよね?」
「撮りましたよ。3枚くらい」
「その時、あいつ、画面にいた?」
「いや、いなかったです」
「あ、やっぱり。写真には写らんのかな?プレビューした?」
「なんかヤバそうな気がして。ちょっとまだ見返しては……」
「もしうつってたら消さなきゃヤバいし、確認しなきゃな、それは」
(消さなきゃ、ヤバい?)
「ロム王さんのスマートフォンには映ってなかったんですか?」
STさんがSBさんに聴く。
「俺には見えていたけど、スマートフォンの画面には写ってなかった。プレビューにもいなかった」
「じゃあ大丈夫じゃないかなぁ?ぼくのも。駆動さんだけを写したし。セーフじゃないかな?」
(セーフ?)
みんなが口々になんかヤバそうなことを言っているが、わたしには何のことだかわからない。ただ不穏だってことだけは伝わる。背筋に、うすら寒いものを感じた。
「ちょっ……ちょっと、わからない……なんなんですか……怖いんですが」
マスターがカウンターから出てきて、こちらに来た、
「ぼくが観ましょうか。Bさん、ちょっと、スマートフォンお借りしてもいいですか?」
「いいですよ」
マスターはBさんのスマートフォンを受け取り、画面を見つめた。
「あ、Bさんのには写ってます」
「え!?」
「これは消した方がいいですよ。よかったらいま、このままぼくが消しましょう」
「まって!消す前に、わたしも見てみたいです、写真!」
そういうわたしを、マスターが珍しく困った顔をして見ている。
「駆動さんはやめておいた方がいいですよ……これは”上級者向け”です。ぼくはあなたに見せたくないなぁ。それに、さっき……」
マスターがわたしの右肩を指さした。
「駆動さん、肩を掴まれたでしょ?」
わたしだけが感じていた現象を指摘されて驚く。
「えっ?なんで?見えてたんですか?」
「見えた」
「もしかして、みなさんも?」
「うん」
常連さんが顔を見合わせる。
「あいつ、びったりくっついたよな、駆動さんに」
「ロム王さん、大好きな駆動さんに対して緊張して気を遣って間をあけたのに、あいつは馴れ馴れしく、ひどいな!」
「しかも肩を抱いてた。あいつけしからん!」
SBさん、Bさん、STさんは、そう言って盛り上がっている。
わたしだけが、わからない。
まるで「どっきり」を仕掛けられているような気分だ。ただ、みんなはいたって真剣に話している。冗談ではないようだ。
わたしはマスターに訊ねた。
「じゃあ、何かが見えていたから、あのとき声をかけてくれたんですか?」
「ええ。それにホラ、自分でも見てごらん」
マスターにそういわれて自分の肩を見ると、びっしょり濡れていた。
「え!全然気づかなかった!やだ!」
水?汗?なんだろう、この液体は!
人体に影響はないみたいだけど。
ほんのり甘い香りがする。
「つまり……わたしには見えなくて、皆さんに見えていたってことなんですか?その、なにかが?」
自分でも何を口走っているのかよくわからない。
だって、そもそもその「あいつ」がわからないんだもの!
”ついてきたやつ”って、何?!
なんだかわからないものほど怖いものはない。
わたしは思わずまくし立ててしまう。
「あいつとはなんなんですか?……みんなに見えて、わたしには見えない?なんでですか?お化け?幽霊ってことですか?」
「幽霊なのかな?妖怪の類かもなぁ?」
Bさんが考え込む。
マスターが、わたしのほうを見て、やや深刻なトーンで話し始めた。
「駆動さんが、あのお客さんに話しかけるまで、”彼”の気配はありませんでした」
「え?」
「駆動さん、あのお客さんに自分から話しかけたでしょ…話しかけた、というよりも、情報を与えた。隙を与えた……といった方がいいかな?」
「情報を与えた?隙?」
「駆動さんはあの人が誰なのか思い出そうと一所懸命にコミュニケーションをとったよね?」
「ああ……カバンを見たことがあると言って……そこから、記憶を手繰り寄せて……赤いブーゲンビリアの花のアイコンだっていった……あの時?」
「誰かもわからない、初めてあう男の人にコミュニケーションをとった。そのやり取りをみて、ああ、この人は初対面の男性でも話を聴いてくれる女性なんだな、どんな人にも優しくしてくれる人なんだなって判断したんです。だから”彼”は姿を現した」
「よく、来るんですか……その”彼”…は」
「最初、ぼくの大ファンだというお客様についてきたんですね。ファミ通連載時代のころからのファンだという方に」
STさんがピンときていた。
「ああ、渡辺浩弐作品のベスト10を凄い熱量でバーッとしゃべり倒していった人でしたね?あのひと凄かったな!俺も忘れてるような作品まで覚えていた。先生、凄くじっくり聞いてあげてて、俺も一緒になってしゃべったんだ」
「そう、だからまず、ぼくが最初に姿を認識した。そして、次に、STさんが認識したんです」
「突然すごい形のあいつが見えて、びっくりしたな」
「SBさんやBさんは、違うお客さんにくっついてきたときに接触したんでしたよね?」
SBさんが思い出したように言う。
「そう、なんか作家志望の男性が来た時だな。渡辺先生のような作家になりたいです!ってわーっと質問したんだ。渡辺先生じっくり聞いてあげるタイプなんだけど、俺、ところどころ突っ込んでいきたいタイプだから……その時に、みえた。その作家志望にくっついているあいつが」
「そのくっついている”彼”?”あいつ”?……さんはいつも同じ”あいつ”さんなんですか?」
「たぶん同じじゃないかな~、見た目がなんとも説明できない恐ろしいかたちだからよくわかんないけど」
「おそろしい、かたち…」
想像がつかないから恐ろしい。思わず身震いする。
そして、疑問が沸いた。
「なんでわたしは見えなかったんだろう?」
マスターが即答する。
「ホットコーヒーを飲んだからですよ」
「そうなんですか?」
「何度か遭遇するうちに、なにか法則はないかと研究したんですけどね。どうやら、”彼”はあったかい苦い珈琲が嫌いみたいなんです」
意外な話だった。
「駆動さん、1杯目ホットコーヒーだったでしょ。Oさんもロム王さんもホットコーヒーだった」
「言われてみれば、そうでした」
「ぼくの淹れたホットコーヒーを飲んでいれば、見えない。でも、常連さんは最近すっかり一杯目がアルコールだし……STさんはこれから勤務だからオレンジジュースだった。ホットコーヒーのんでなかったお客さんにはばっちり見えていた、というわけ」
なんでホットコーヒーが苦手なのかな?猫舌?こども舌?なにかコーヒーにトラウマがあるのだろうか?
Bさんがぽつりとつぶやく。
「あれは……なんなんでしょうかね?」
STさんは、あっさりという。
「あれは、あれじゃないですか?」
「先生は、どうお考えになります?」
SBさんがマスターに訊ねた。
「ぼくはねぇ、中野ブロードウェイに集まった、”残留思念”が具現化したものなんじゃないかって思ってます」
「残留思念?」
「そうです。例えばまんだらけで懐かしいおもちゃを見て、ああこのおもちゃもってたけど捨てられちゃったなぁ、このおもちゃ欲しかったけど買ってもらえなかったなぁ、あの漫画全巻持っていたのに手放してしまったなぁ、あのアイドルのサイン欲しかったとか‥‥‥‥とか思うことあるでしょ?」
「はい‥‥‥毎度‥‥‥」
「そういう気持ちって、結構根が深いじゃないですか?」
「確かに…」
わたしは、まんだらけのショーウィンドウで観た『魔法のアイドルパステルユーミ』の【パステルステッキ】を思い浮かべていた。
母さん、あのステッキどうしたんでしょうね…
ぶんぶん振り回して折ってしまった
あのステッキですよ。
母さん、あれは満を持して買ってもらった
大好きなものでしたよ……
わたしはあのときずいぶん悔しかった…
……おっと、ついどこかで聴いたようなポエムになってしまった……
ともかく、ショーウィンドウに【パステルステッキ】の未開封デッドストック品が飾ってあった時には狂喜乱舞したものですよ。なかなかでないのです。ただし、買えるような値段ではなかったのであきらめたけれど。
あの時は1時間くらい眺めていただろうか……嬉しさ、なつかしさ……いろんな思いがよみがえって、その場を離れがたかった。
自分の中のこどもが、騒いでいるのがわかった。
マスターは静かに語り続けた。
「中野ブロードウェイには、新旧問わず魅力的なものがあちこちにある。それを求めてやってくるひとたちがたくさんいる……つまり、そう言ったひとたちの欲望、憧憬、思慕、執着、後悔といった強いパワーがこのビルには自然と集まってくるわけじゃないですか」
「たしかに」
「そして、その集まる想いの中に、ひときわ強烈なパワーがあるんですよ」
「それは、なんですか?」
「あの当時、それが欲しかったという怨恨です」
「怨恨!!」
「昔、親から買いませんといわれどんなに泣いても手に入らなかったおもちゃ。友達がもっていてうらやましかったファミコンソフト。コア構想にしびれたけど高価でなかなか手が出なかったPCエンジン。貧乏な時にあこがれたきらびやかなロレックス……そんな指を咥えてみているだけだったいろんな宝物。いまの財力をもってすれば、簡単に手に入るかもしれない……けれど、本当に欲しかったのは”あの時”なんです。あの時欲しかったのに手に入れられなかったという気持ちは強いと思います」
マスターの話をみんな静かに聴いていた。
「宝物に限らず、憧れの人、美しい景色、大好きなお店……自分の心が欲するものは、いつまでもあるわけじゃないし、形あるものは崩れていく……後になって、大好きだった人も景色もお店もなくなって、あの時手に入れておけばとか、行っておけばと後悔するのはつらい。仕方ないねって諦められるならいいですけど、そういう気持ちは”得体のしれないもの”になりやすい。中野ブロードウェイに来るお客さんは、そういった強い思いを連れてやってきて、そして、このビルにおとしていく。その残された行き場のないパワーが融合し、混然一体となって、”彼”が生まれた、そんな感じがします」
いつもクールなマスターだが、口調はやや熱を帯びている。
「いつも、Kカフェもぼくも、いつどうなるかわからないからね~なんて、よく冗談のように言ってしまうけれど、結構本気なんです。なくなるときはあっというまになくなる。それをよくわかっているから、開いているうちに来てね、と言うんです」
わたしは、マスターの話を体内に吸収するような感覚で聴いていた。
後悔するくらいだったら、行動していきたい。あらためてそう思う。
その話を聴いて、ふと、”彼”を形どっているパワーについて気になった。
「清濁入り混じったパワーが生み出したと思われる”彼”に、善悪の意識はあるんでしょうか?これまでなにか実害はないのですか?」
マスターは答えた。
「”彼”は、勝負をかけてるひとによくついてくるんですよ。そして、ついてきた人の”好き”や”憧れ”が爆発したときに出てくる。つまり、後悔しないように行動しようとするひとについてきて、その様子を見て喜んでるんですよ。”彼”は願いを果たせなかったがわのパワーが集まっているから、そういう、”成し遂げたい人”を応援したいのかも。きっと悪い奴じゃないですよ」
常連の3人が感心して「おおー」と声を上げる。
「でも」
Bさんは首をかしげた。
「駆動さんにあんなにくっつく必要、ないですよね?」
妙な間があいた。
「そうだ、わたし、姿が見えないのに……なぜ肩の感触だけあったんですかね?そんなにくっついていたら気配くらい感じそうなんですが?」
疑問に思って、マスターに訊ねてみる。マスターは「うーん…」とうなり、考え込んだ後、こう結論付けた。
「女の子と肩を組んで写真を撮りたい、という……かなり強い”残留思念”のなせる業、だったのかも?」
STさんがなぜか興奮していた。
「今日の”あいつ”は、下心があったってことかな?」
みんな、思わず笑った。
怖い体験をしたはずなのに、なんだか胸がすっきりして、大きな声で、笑った。
スマートフォンの時計を見る。
22時50分、そろそろお開きの時間。
不思議な、楽しい夜だった。
だからKカフェって好きなんだよね。
「先生、今日のエピソードも中野ブロードウェイ怪談にしちゃったらいいんじゃないですか?」
お会計をしながら、SBさんはそう言った。
だが、マスターは即答した。
「いや~それはできませんねぇ。ダメです」
「なぜです?」
わたしがマスターに訊ねると、優しい口調でこう言った。
「ある意味”彼”もカフェのお客さんだもの。怪談ライブの日にたまたま”彼”がカフェに来て、自分の話をされていたら、恥ずかしいかもしれないでしょ?」
(おわり)