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味な店

念のため断っておくけれど、この話は最初から最後まで「創作」です。

突然だけど、みんな【コンカフェ】って行ったことある?

【コンカフェ】とは【コンセプトカフェ】の略称で、つまりは「コンセプトのあるカフェ」ってこと。

お店はコンセプト=世界観にあわせたメニューや接客・サービスをお客様に提供する。客はそのコンセプトを楽しんで、非日常を楽しむ、ざっくりいうと【コンカフェ】とはそういうところだと思う。一時期【メイドカフェ】が秋葉原をはじめ、全国各地で広まったでしょ。あれも一種の【コンカフェ】だよね。

ポピュラーなものからマニアックなものまで、いまあちこちで【コンカフェ】が生まれては消えている。

でも、その裏で、カフェだけじゃなく。いろんなコンセプト飲食店があるんだ。【コンセプトラーメン屋】…略して【コンラー】っていうのもあるんだよ。

どんなものか想像つかないって?

そうだなぁ…じゃあ最近行った【コンラー】の話をするね。

まず1店舗目、異世界から日本にやってきた妖精がラーメンを提供する店…ふわふわとしたドレスを着たオンナノコたちがピンクとかブルーとか得体のしれない色をしたスープのラーメンを提供してくれるの。オプションで麺をフーフーしてくれたり、レンゲでスープを口に運んでくれたりするんだ。かわいいオンナノコが好きなひとにドストライクな【コンラー】だよ。でもね、ひとつ文句をつけるとしたら、そこの店…ラーメンがめちゃくちゃ甘いの!スィーツラーメンなんだ。甘党の人なら大丈夫かな?

2店舗目は、勇者や戦士たちがファンタジーの世界を旅している最中に立ち寄る至高のラーメン店というコンセプト。そこのラーメン店は魔法使いを引退したおじちゃんがラーメン屋に転職…という設定。ラーメンに属性があるんだ。炎系だと辛みそやハバネロ入りの辛いラーメン、氷系だと冷やし中華が出てくる。サイドメニューも変わっていて、【薬草ギョーザ】はシャンツァイたっぷりの餃子、【魔法の水】はアルコール度数の高いチューハイ…いろいろ凝ってたね。店員のキャラクターや衣装も面白かったな。そもそも【コンラー】は、ファンタジーの世界や、ロールプレイングゲームをコンセプトにしている店が多いんだよね。

3店舗目は、ちょっと変わったコンセプトラーメン店。外装も内装も年季が入って見えるように作ってあるんだ。ラーメン作ってるひとが典型的なおやじさんで、頑固・愛想なし・無口の3点セット。注文するときは、ミュージシャンを目指しているバイトの兄ちゃんとか、かわいい看板娘の「脇役店員」さんに声をかける。そう、ガード下にあるラーメン店がコンセプトなんだ。70年代のドラマに出てくるような古めかしい世界だからレトロ好きにはたまんないかもね。入店してみると、出てくるラーメンも王道の味…普通のラーメン店とあまり大差ないし、本当に【コンラー】 なのかな?って不安になっちゃうかも。でもご心配なく。この店の一番面白いところは、【10分に一回店の上を電車が走る】という仕組みがあるところ。実際に電車が走っていくわけじゃないんだ。店ががたがた揺れるっていうアトラクションになってるの。まるでコント番組の気分を味わえる。ある意味体験型【コンラー】だね。

ぼくは、非日常を味わえる体験がすごく好きなんだ。ぼくが好きなコンセプトラーメン店は、オンナノコ系でもファンタジー系でもなく、悪趣味な【コンラー】なんだ。ホラー・サスペンス・UMA・グロ…そういったものと食事ってちょっと結びつかないじゃない?でもそこに挑戦しちゃう【コンラー店】が大好き。

それでね、いまちょっと話題になっている悪趣味系の【コンラー】があるんだ。【店A(仮)】っていう店。名前からもう怪しいでしょ。

【コンラー】マニアはもとより、ラーメン好きにもうわさが広まってしまって、予約が取りにくかった。数ヶ月予約フォームにアクセスし続けて、やっと予約が取れた。

【店A(仮)】は地下にある。階段を降りると、無機質な白いドアがお出迎え。ちょって入りにくい雰囲気でゾクゾク。

ラーメンは30種類あるらしい。だけどメニューには文字しかなく、それぞれのラーメンに五桁の番号がついているだけ。事前リサーチしてきた一番人気のラーメン【37564】を注文することにした。

ゾンビ風のメイクを施した店長さんが、僕の前にドン!とラーメンを出した。

アブラたっぷりの濁ったスープに、こんがり焼かれた骨付きリブがそそり立っている。得体のしれない、食欲をそそらないこの感じがいい。プルプルとした眼球をイメージした半熟卵もついていてビジュアルは最高だ!

まずは、スープをひとくち飲む。

ドロドロとしたスープ…ちょっとえぐみがある…かな?
だが、このコクが癖になる。

「うまい」

おもわず小声でつぶやいてしまった。

そして懐かしい味だと感じる。

麺をすすり、スープをもうひとくち飲んだ。

母さんが作ってくれたラーメンの味に似ているんだと気が付いた。

人に大っぴらにお話しできる話ではないが…僕は、小さいころ実の父親に虐待を受けていた。

父は…あいつは気に食わないことがあるとすぐ暴力を振るう。僕は日常的に被害に遭っていた。母はそんなあいつを止めることができなかった。結婚前から主従関係が出来上がっていたのだと思う。あいつは気の済むまで僕に暴力を振るう…そんな日々だった。

あいつは家にろくに金も入れない、ひどい奴だった。だから、けして幸せな家庭とは言えなかったけど、母は僕にひもじい思いはさせたくないと言って、食事だけはきちんと与えてくれた。母は実家のラーメン店を手伝っていたから、僕を一緒に店に連れていき、ラーメンを食べさせてくれたんだ。僕のラーメン好きの原点はそこにある。

僕もラーメン作りを試してみたことがあるが、母が用意してくれたあの1杯をこえるおいしさのラーメンはなかなか超えられなかった。

でもこのラーメンは、母の味に相当近い!

そんなことをつらつら考えつつ
ぼくはぺろっとラーメン食べ終えた。
そして替え玉をお願いした!

母さんが作ってくれたラーメンを思い出し、少し、泣いた。

僕は、うれしくなってゾンビ大将に話しかけた

「ここのコンラー!すごいですよ!この味…おいしい!抜群です!それに、懐かしい…どんな材料を使っているんですか?」

「ふふふ…うまいのは当然だ!新鮮な骨を使ってスープを使っているからな…!」

ゾンビ大将は上機嫌だ。

「いやいや、この味はもっとすごい材料を使ってるでしょ~」

ぼくは食い下がる。原材料がしりたい。

「お客さんお目が高い。実は鹿児島県の黒豚の上質な豚骨とね極上のラード、有機農法の玉ねぎやニンジンを丸ごと使って三日三晩煮込んでいるのだ!」

「え?」

ぼくは興ざめした。

「意外と、普通の素材使ってるんですね」

大将は、ぼくの言葉にびっくりしているようだった。

本当のことを言ったまでなのに。


僕の涙をかえしてほしいくらいだ。

「ごちそうさまでした」

ぼくは、足早に店を出た。



昔、母さんが作ってくれたラーメンの味にとてもよく似ていたのに…期待はずれだったな。

「やっぱり、同じものを作ってるところを探すのは無理かぁ……」


僕の想い出に残っているラーメンは、たっぷりの硬水に、新鮮な香味野菜……ニンジン、玉ねぎ、青ネギ、ニンニク、生姜と、母さんが解体した大きな肉や骨を寸胴鍋に放り込んで三日三晩煮込んだスープをつかっていたんだよ。


あれは、本当においしかったなぁ。


でも、多少記憶補正がかかっているのかもな。

「もうお父さんに殴られない」


そう、思ったから、余計においしかったんだ。

(おわり)


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作者覚書
【味な店】
2024年4月17日 08:56 執筆スタート
結構な期間付け足したり
悩んだりしていったんほったらかしていた
2024年10月30日 
最後のあたり10行ぐらい書き足す
2024年11月4日
公開してみた。ここまで長かったね。

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駆動トモミ/工藤友美
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