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当たり前の幸せ

家族がいる幸せ
住む家がある幸せ
食べるものがある幸せ
着る服がある幸せ

普段意識しないけれど、
私たちの周りには
たくさんの幸せが
溢れている。

何かをきっかけに
普段気にも止めなかった
その当たり前の
有り難みに気が付き、
深く感謝することがある。


それは今年の春のこと。

これまで、
そこにあることが
当たり前で、
ほとんど見向きも
してこなかった
あるものに、
心から感謝する
出来事があった。


昨年12月の
全国的なあの大雪は、
誰もが記憶に新しいだろう。

あれは、雪国に住む
私たちでさえ、
ここ何年も
経験したことのない程の
大雪だった。

除雪が追いつかず、
交通に障害が出たり、
雪の重みで屋根の上の
アンテナが折れたり
雨樋が壊れたりと
あちこちで
たくさんの被害が出た。

我が家も、
雨樋が壊れてしまった。
南側の屋根に並ぶ
3本の樋のうちの
真ん中の1本が、
雪の重みで
大きく垂れ下がって
しまったのだ。

雪があるうちは
修理は難しいので、
雪解けを待って、
春になったら
直すことにした。

3月くらいには、
と思っていたが、
色々あって、
のびのびになり
5月の始めにようやく、
修理にこぎつけた。

その間、約4ヶ月。

冬の間は、
特に問題なかったが、
3月の雪解けの時期、
そして、
雪解けの後は、
雨が降るたびに、
私たちを悩ませる
ある問題が起きた。

屋根の上から流れ落ちた水は
垂れ下がって低くなった
真ん中の樋に全て集まり
そこから
滝のように
勢いよく真下へ落下した。

その際、1階の屋根のトタンに
一旦ぶつかってから
地面へ流れ落ちた。

そう。
トタンにぶつかることが
最大の問題だった。

ダダダダダダ

もの凄い音が、
家中に鳴り響いた。

それは、まるで
大音量でロックを
聴いているようだった。

それでも、
日中の時間帯はまだ良かった。
様々な家電の音や
家族が出す生活音が、
このロックミュージックを
いくらか、
かき消してくれていた。

問題は、夜だった。
全員が布団に入り
家中から全ての生活音が
消えると、
壊れた雨樋から
弾き出された水が
1階の屋根に直撃し
まるでスネアドラムのごとく
鳴り響いた。

ダダダダダダ

助けて~

布団をかぶり、
一刻も早く
眠りにつかなければと焦る。
眠気の機会を逃せば
夜中、あの激しいロックを
聴くことになる。

どちらかというと、
私はどこでも、
何があっても
すぐに眠れるタイプだが、
さすがの私も、
あの音には、苦しめられた。
雨が止むまで眠れなかったり、
夜中に夢から
叩き起こされたりもした。

人生でこの時ほど、
雨樋の必要性を
感じたことはなかった。

激しい騒音に悩まされる中で
生まれて初めて
雨樋の有り難みを
痛感した。



5月始めに、
雨樋の修理を終え、
ようやく
あの騒音から解放された。

これでゆっくり眠れる。
心からほっとした。

修理を終えたちょうどその日、
夜になってから、
雨が降り出した。

もう、雨が降っても怖くない。

蒸し暑かったので、
少しだけ窓を開けて、
布団に入った。

もちろん、
あのスネアドラムの音は
もうしない。

かわりに、
雨樋を流れる
チョロチョロチョロという
小川のせせらぎのような音が
微かに聞こえきた。

それはまるで、
自律神経を整える
癒やしのCDのようだった。

あ~α波、
なんて幸せな夜なんだろう


私は
雨樋の恩恵に深く感謝しながら
心地良い眠りについたのだった。

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