大好きな弟
オホーツク海に面した寒い街だが、この日は暑かった。
海風に揺れて、ハマナスの実が赤く熟れている。
この街には、二つ下の弟が住んでいる。
少年時代
遠い山里の村で、二人は駆け回って遊んでいた。
学校を卒業すると実家を離れて、別々の道を行った。
以来50年間、何度も往来はあったが少年時代のような濃密な交流はなかった。
波の音
昼下がりには街に着いて、「浜辺でキャンプするから・・・」とメールをした。仕事中なのは承知の上だ。
テントを建てていると、近づいてくる一人の青年が・・・。
「伯父さん! ひさしぶり!」
弟の息子だった。伯父と甥の関係だ。
大型漁船の機関長。肌は日に焼け、髪の毛は潮焼けで茶色になっている。
「父は仕事中で、終わったらこっちに来るから」
近況を手短に話して、そう言って帰っていった。これから出航の準備があるという。
たくましく、頼もしい青年になっていて嬉しい。
弟と飲む
やがて、軽トラに海産物とビールを積んで、弟の登場。
弟は私よりも強健だ。
少年時代は喧嘩をしても私のほうが断然強かったが、社会に出て体力勝負の建築業界に入ってからは、すぐに私を超えた。
酒も強い。
「血圧がずっと高いままだ」と言いながら、毎晩飲んでいる。
「お前がいなくなったら寂しいから、先に逝くなよ」
「それはこっちもおなじだ」
子供のころから夢だった弟とのキャンプ。
焼肉、バーベキュー。
あの頃はそんな悠長な生活はできなかった。
日々、食うことに憂慮していた父と母の姿を見て育った。
今ここにある幸せをともに感謝する、そんな一夜だった。
(旅日記:8月2日夜)