イタリア語 単語の話(5)
読んで楽しいイタリア語の話
単語で覚えるイタリア語
41.doccia (どっちゃ)とgoccia (ごっちゃ): “日本語もイタリア語も、語感は同じ”
docciaは「シャワー」。何度聞いても、関西弁の「どっちゃ?」に聞こえる。gocciaは、雨や涙のしずくのこと。お酒を飲むかと聞かれて、una gocciaといえば、「一口だけ」の意味。そういって、沢山飲むかどうかはわからないが。そこら辺は、日本語と同じ。「酒飲むか?」「少し」というのに限って、キリが無いくらい飲む。a goccia a gocciaと続けていえば、「すこしづつ、一口づつ」という意味の熟語になる。だんだん、ごちゃごちゃになってきた。
イタリア語には、accia(アッチャ)とかboccia(ボッチャ)とか、「~チャ」が多い。「アッチャ」と「ドッチャ」があれば、洒落として日本人なら「コッチャ」はないかと思うでしょう?探してみた。実はあった。coccio(コッチョ)は「陶器や瀬戸物またはそのかけら」の意味で、cocciaioは「焼き物職人」のことである。悪乗りして、soccio(ソッチョ)を探すと、あった!soccioとは、「家畜類を預かって飼育する人」だそうだ、soccida(ソッチダ)というのもある。意味は「家畜の委託飼育」のこと。まあ、覚えても意味はないかも知れない。第一coccioも辞書で引いて調べたものだが、これはイタリア人に聞いても多分解らない。
42.magro (マーグロ):“マーグロは太っていない?”
日本の漁船が地中海まで出かけてマグロを捕獲しているから、イタリアの南の漁港ではtonno(イタリア語の鮪=トンノ)のことを、「マグロ」で通じる。しかし、これはもともとイタリア語にmagro(マーグロ)という言葉があるからであって、彼らはその言葉を鮪に当てはめているのだろう。magroは細い、痩せているという意味だから大きい鮪とは全く正反対の言葉になる。Tonno non è magro, ma si dice MAGRO(o MAGURO) in giapponese.「鮪は痩せてはいないが、日本語では「痩せている」という」。だからこの言葉はイタリア人には覚え易い。magro の反対はgrasso という。これは「脂肪」の意味で、太っているという意味にもなる。Tonno è grasso, ma si dice magro in giapponese.
43.ne (ネ): “日本語を話しているのかな、って思うイタリア語の「ネ?」”
これは多分初めて耳にすると「エッ」驚く。使い方は、~ね?という様に相手の確認を(同意を)得るためにつける。例えば、Oggi, fa bel tempo ne?「今日はいい天気です、ね?」の様に使う。えっ、それって日本語の「ね」と同じ!? そうです。これは、主としてミラノやトリノで使われる方言。一般にはミラノ弁と言われる。私がいた事務所の門番の女性は、よく使っていた。Neには代名詞もあり、「~について」「そのことについて」などの意味があるが、ここでの使い方は全くの方言。
これのもとはラテン語にある。現代イタリア語の疑問文は、肯定文を尻上がりに言えば済む。例えば、Lui è il presidente. 「彼は社長である」も、Lui è il presidente?「彼は社長ですか?」も、最後に?が付いているかどうか、そして尻上がりに言うかどうかだけの違いである。しかし、Lui è il presidente ne? と言えば、「彼は社長ですよね?」という、付加疑問文のような疑問文になるので、neがあればその方が便利である。ラテン語は単語の格が変わるだけで、並べる順序は、動詞+主語(または目的語)+目的語(または主語)となったり、動詞が後に来たりする。この文形で、動詞にneをつけて疑問文にしていたのがラテン語の形である。これがミラノ弁に残っているのだろう。Salve (サルベ)は挨拶言葉の、「やあ」「こんにちは」で、これも元はラテン語である。
44.seno (セーノ):“「セーノ」って、掛け声はちょっとやばい?“
格調高いコラム(そうでもないか?)の品を少し下げることになるかも知れないがお許し願いたい。これは「胸」のことである。この発音は、日本人が一斉に何かをするときに発するあの、「セーノ!」と同じなので、日本人はあちこちで「オッパーイ」と叫んでいるんだと、実はこれはTwitterからの頂きものです。
これはなかなか面白い発見で、私も感心したが、実は同じ様なことがイタリア語にもあるではないか!それは、「カンパーイ」というときにイタリア語で、「CinCin」(チンチン)ということだ。かなりのイタリア人はこのことを知っていて、日本女性の前では、この言葉を使うのを遠慮する。返って、日本人女性の方が堂々とこの言葉を発することが多いようだ。まあ、子供用語ですからね。さて、Cin Cinとは、中国語の請請(chingching)から来たものだというが、一説にはイタリアのCinzano(チンザーノ)のコマーシャルで Cin Cin Cinzanoという言い方をして広まったともいう。乾杯の最も一般的な言い方はSalute!であろう。“fare un brindisi” は「乾杯をする」という意味。
第四章 日本でも知られているイタリア語
日本でも一般によく使われているイタリア語は多い。
45.alto (アルト) と basso (バッソ):“女性の低い音は「アルト」、でも意味は「高い」”
日本語でも知られているのは、音楽の音の高低を表すアルトとバス。アルトは女性の最も低い音で、バスは男性の最も低い音。ただイタリア語では、bassoは「低い」が、altoは「高い」の意味である。voce alta、voce bassaはそれぞれ「高い声」、「低い声」だが、音程が高いという意味とともに、声が大きいという意味でも使う。
l'alta Italiaといえば、北イタリアを指す。alta modaはハイファッション。布地の幅のことは、altezza(altoの名詞)という。従い、生地がaltoといえば、生地幅が広いこと、本がaltoなら分厚いという意味である。
さて、イタリアの昔の町は、主に山の上に都市を作る。ミラノはpianura padana(ポー平原)というイタリア最大の平野の中にあるので、平地に町があるが、ローマも古代ローマは、Palatinoの丘という、ローマの中の丘の上に町を作った。Umbria州や、Abruzzo州は、小高い丘が沢山あるが、昔の町は皆丘の上に作られている。
日本は、農耕民族だからだと思うが、町は平野に作る。農業が日本に入ってきて以来、それまで狩猟で生活していた地域も農業を始めた後は、敵が攻めてきても守れるように、平地に城を建てるのが普通だ。
イタリアが町を山や丘の上に作るのは、狩猟民族であることと、外敵からの侵入に備えるためかと思っていたが、実はそうでもないらしい。町を丘の上に作ったのは、マラリア対策だそうである。マラリアをもたらす蚊は、平地の湿った場所に発生する。Malariaは、Malo(悪い)+aria(空気、場所)の合成単語で、湿った場所の「悪い空気」がマラリアの原因だと思われていたようだ。
従い、イタリアの町には、Città alta と呼ばれる場所があり、それは古い町(旧市街=città vecchia)のことである。新しい町は、住宅地や工場、商店街など平野の方に広がっており、こちらはCittà bassa(平地の市街)であり、città nuova「新しい町」になる。Lombardia州でも、Belgamoへ行けば、altaとbassaの町に分かれており、Abruzzo州のChietiもこのように新市街と旧市街が分かれている。
話を戻して、altoは高いだがそれよりも高い女性の音はsopranoという。これは、sopraというラテン語期限の接頭辞で、意味は「最上」「上に」「上に位置する」などの意味を持つ。
46.amico (アミーコ):友達のこと。“アミーコの複数変化は不規則”
日本で知られているとはいっても、殆どの人がイタリア語かスペイン語か認識はしていないだろう。amigo(アミーゴ)がスペイン語で、amico(アミーコ)がイタリア語である。似たような例としては、signore (シニョーレ:イタリア語)、señor(セニョール:スペイン語)などがある。
さて、amicoの複数形はamiciである。実は、これは複数形としてはイレギュラーな単語なのである。イタリア語の-co(コ)で終わる単語は、複数になるときに語尾が“-chi”(キ)になるか“-ci”(チ)になる。一般にイタリア語は、語尾から2番目の音節にアクセントがあるものが、最もイタリア語らしい。従い、語尾から2番目にアクセントがある単語は、音(ca音)を変えないように co(コ)をchi(キ)にする。例えば、par-co(パルコ)/par-chi(パルキ)(太い部分がアクセントのある音節)、scac-co(スカッコ)/scac-chi(スカッキ)など。一方、アクセントが語尾から3番目にある単語は、co(コ)をci(チ)と変化させて、カ音を別の音(ci音)にしてしまう。このことを、音を変えるという。つまり、これが-coで終わる単数形を複数形にする場合のルールである。例)me-di-co(メディコ)/me-di-ci(メディチ)、sto-ri-co(ストーリコ)/sto-ri-ci(ストーリチ)など。
しかしながら、amicoは、a-mi-co(アミーコ)と語尾から2番目にアクセントがあるにもかかわらず、amici(アミーチ)となる。これは例外として説明をしているが、最もよく使われる単語のひとつが例外だと困るのである。
実は、ラテン語では“ci”は「キ」と発音する。従って、元々はamiciと書いて「アミーキ」と言っていたのだろう。それが、現代イタリア語の読み方に従って、「アミーチ」と呼ぶようになったのだと思う。ciであろうと、chiであろうと、元々は「キ」だったということになるのだが。反対に、下から3番目にアクセントがあるのに、ciではなくchiに変わるものもある。その例は、carico(カリコ)(「船積み」「積み荷」などの意味)で、これはca-ri-co/ca-ri-chiと変化する。どちらもラテン語に戻ってくれれば、ひとつの音「キ」で済むのですがね。
47.calcio (カルチョ):“蹴球か足球か?日本はイタリアと同じ数少ない蹴球の国?”
サッカーのことである。日本でもサッカーファンなら知っているだろうが、もともとトトカルチョというサッカーくじの方が有名だったのではないだろうか。
これは、「蹴る=キック」という意味もあるので、dare un calcio a~で「~を蹴飛ばす」、とか prendere~a calcioも「~を蹴飛ばす」と使う。また、「キック」という意味から、calcio di rigore=ペナルティキック、calcio d'angolo=コーナーキックがある。calcioのことは、詳しい人も多いでしょうから、細かい説明は遠慮しておきます。イギリスで発祥したとされるサッカーは、世界では概ねfootballと呼ばれます。大体その国の言葉で、足+ボール、若しくは、footballを外来語として自国の言葉にしているようです。例外は日本とイタリアぐらい。日本語は「蹴球」と言って、蹴ると言う言葉を使っているのが、イタリアと同じです(中国語では「足球=football」という)。イタリアと日本の共通点のひとつです。ただ日本語で、「蹴球」といっても、ピンとこない人の方が多いかもしれませんが。また、アメリカ、カナダ、そしてオーストラリアでは、footballは夫々American FootballとAustralian Footballのことを指すので、soccerが使われます。soccerは、その昔イギリスでサッカーが球技として確立した時に作った協会 Football AssociationのAssocから来たそうです。英語の事はいいとして、Football(足球)-Calcio(蹴球)-Soccer(サッカー)と3つの呼び方があるということです。calcioは、カルシウムの意味もあるので注意しましょう。
尚、フットサルという競技がありますが、この名前はサロンフットボールから来ています。当然イタリア語ではありません。1990年頃にイタリアでは既に結構盛んだったようでが、私にはFOOTSALと呼んでいた記憶がない。確か、mini-calcioとかcalcio a cinque(5人制カルチョ)と呼んでいたように思う。調べたらmini-calcioではなく、calcettoが正しいらしい。mini-calcioはひょっとしたら、日本人同士で呼んでいた呼称かもしれません。海外に住んでいても、日本人だけでつけた名前がたまにあるので、これは注意が必要。
さて、calcettoに移ると、欧州や南米に行くとBarなどに置いてある昔からのサッカーゲームを見たことがあるでしょう。左右に取っ手がついていて、台の上で勝負するもの。これもcalcettoといいます。calcettoとは勿論、calcio+ettoで縮小辞をつけたものですから、そのままミニカルチョの意味です。このcalcettoは、彼ら(イタリア人やスペイン人など)の強いこと。私は歯が立たないどころか、どうにもなりません。彼らはあの機械を自由自在に操って得点をします。2対2で勝負を始めると、大人であろうと子供であろうととても真剣で、それに観客が集まってとても白熱します。全く歯が立たなかったけど、あれは、結構面白いゲームでしたね。なぜ、日本で流行らないのかと思うくらいです。
追記:Calcetto(giocoの方)は、またcalcio Barillaとも言います。
48.carpaccio (カルパッチョ):“カルパッチョとカラバッジョ”
carpaccioは、肉や魚の刺身料理として日本でも使われています。だからあえてここに取り上げる必要はないのですが、carpaccioというと他の事をも考えてしまう。-accioと言うのは、接尾辞のひとつで「軽蔑」や「悪いもの」を意味する言葉なのです。例えば、vitaccia (ヴィタッチャ)といえばvita(生活、人生)への軽蔑語で、「ひどい人生」「苦しい生活」を意味する。tempaccio(テンパッチョ)は悪天候(*tempo=天気)であり、Accidentaccio! は間投詞accidenti! (クソッ!、ちくしょう!)を、更に大げさに表現した言い方になる。だから、carpaccioというと、どうも何か辛いものの様な気がしてしまう。
尚、carpaccio は画家の名前から取ったといわれているが、画家がそういった料理を好きだったからではなく、たまたまオリジナルのcarpaccio(これは肉の薄切りにマヨネーズを掛けたもので、赤と白のイメージがあった)が、この画家が好む色合いと似ていた為だとも言われる。時代は少し後だが16-17世紀の画家にCaravaggio という有名な画家がいて、このCaravaggioとCarpaccioの名前が似ていて間違う人が多いのだが、Caravaggioは日本でも展示会などで有名になっているらしい。
49.conclave (コンクラーベ): “根比べのコンクラーベ”
コンクラーベ(教皇選挙枢機卿会議)。面白いイタリア語としては、この言葉は絶対に欠かせない。コンクラーベは、バチカンで法皇を選ぶための会議の事(またはその場所)である。最近では2005年のGiovanni Paolo Ⅱの逝去後に開催された。Con claveはラテン語の Cum Claveで、claveはchiave(鍵)のこと。そして意味は(Chiuso)con la chiave(鍵で閉められた)=「閉じ込めて協議する」ということである。この歴史は1270年までさかのぼり、Viterbo(当時ここに教皇庁があった)にて、教皇の空白が長く続いたのにしびれを切らした民衆が、枢機卿を閉じ込めて早く次の法王を決めるように促したことに源を発する。しかし、この言葉が日本で特に知られているのは、「根比べ」と音がほとんど同じであることによるだろう。実際に、100人以上の枢機卿の中から、2/3+1人以上の票を集める人が決まるまで何度も投票を、締め切った部屋の中で繰り返すのだから、根比べに他ならない。この状況は、Dan Brown著の「Angels and Demons」にも良く書かれているので、本を読まれた方は臨場感があることでしょう。映画では大分省略されていたようだが。
コンクラーベに参加する「枢機卿」の事はcardinaleという。これを聞いて、Claudia Cardinaleを思う人は、かなり古い人だ。私もそうだが。ちなみに、アメリカの大リーグの 名門セントルイス・カージナルスは、勿論スペルは Cardinals で同じだが、これはショウジョウコウカンチョウという赤い色の鳥のことであって、枢機卿とは関係がない。
50.coppa (コッパ):“カップを争うからカップ戦、盾を争えば盾戦=scudetto”
cup(カップ)のことである。訳せばそれで終わりだが、この言葉はよく聞くので、覚えておいて損はない。Coppa Mondiale(コッパモンディアーレ)「ワールドカップ」、Coppa Italia(コッパイターリア)「イタリアカップ」などの優勝杯の争奪戦、アイスクリームの紙カップ(コーンではない、コーンはconoという)、またブラジャーのカップのこともこれを使う。
サッカーなどのカップ戦は、coppaを使うが、年間を通して戦うリーグ戦のことは、scudetto(スクデット)と言う。こちらは、「盾」のこと。また、コーヒーやティーカップは、tazza(タッザ)を使って、una tazza di caffè (tè) 「コーヒー(紅茶)一杯」といいます。ちなみに、una tazza da caffèと言えば、一杯のコーヒーではなく、「コーヒー碗一客」のことなので、diとdaは間違えないように。小さいコーヒーカップ=デミタスのことは、イタリア語ではtazzinaとなります。