イタリア語 単語の話(10)
読んで楽しいイタリア語の話
単語で覚えるイタリア語
91.Biancaneve (ビアンカネーヴェ):“「白い雪」が「白雪姫」に”
イタリアのFirenzeにいた頃、下宿のおばさんとは家族の様な付き合いをしていた。ある日、おばさんに頼まれて子供のAlessandroを映画につれていった。映画の間中サンドロ(Alessandroの愛称)は私の膝の上で飛び跳ねて、ディズニーの歌を歌っていた。この映画のタイトルがBiancaneve(ビアンカネーベ)。白い雪だ。日本では「白雪姫」。しかしイタリア語のタイトルには姫と言う言葉がない。英語の現題でもSnow Whiteである。姫は、日本で勝手に付けた名前だと言うことが分った。要するに、原題は「白い雪」なのだ。これを誰かが姫をつけたのだ。だから、最初にこの童話に名前を付けた人が、「白雪ちゃん」だったり、「白い雪の少女」「雪の白子」だったりした可能性もあるのだ。
では、赤頭巾ちゃんはどうなんだろう。Cappuccetto rosso(カップッチェット ロッソ)である。Cappuccettoはcappuccio(帽子、頭巾)に-ettoという縮小接尾辞が付いた言葉だ。これも「赤い頭巾」と言っているだけだから、「ちゃん」は日本でつけたもの。「赤頭巾」でも良かったわけだ。ちなみに、cappuccioに-inoをつけたものがcappuccino(カップッチーノ)と言う飲み物となる。これは、コーヒーのうわずみにミルクをたらしてふんわりさせた形が、僧侶が被る帽子=カップッチーノに形が似ていることによる。
親指姫はどうだろう?これは、Mignolina(ミニョリーナ)となる。Mignoloは小指のことで、小さい接尾辞-inoを繋げてmignolinaとなったもの。つまりイタリア語では「小指姫」だ。しかし、原題はどうも日本語と同じ「親指」のようだ。
92.braccia (ブラッチャ):“複数になると性転換。「短い腕」や「腕を組む」とは?”
この単語は、単数形はbraccioと男性名詞で、複数になるとbracciaとなって女性形になるという変わったものである。同じように、指(dito-dita)、唇(labbro – labbra)、膝(ginocchio – ginocchia)などがある。体の一部だけでなく、壁(muro-mura)(これは、家の壁なら複数はmuriだが城壁ならmuraとなるという変わり者)や卵(uovo- uova)また、叫び(grido – grida)(動物の叫びならgridiだが、人の叫びならgrida)など、沢山ある。さて、braccia(腕)は日本語でも、彼は私の右腕だとか、腕が立つとか、この単語を使った表現はいくつか見られるがイタリア語でも同じような意味も含め良く使われる単語のひとつだ。avere le buone braccia は良く働くの意、avere le braccia lungheは力(影響力)があると言う意味で使われる。
avere le braccia corte はどういう意味だと思いますか?腕が短いと、手が届かない。何に手が届かないかというと、財布です。つまり、財布に手が届かない程腕が短いので、お金を払えない。これは「ケチ」という意味です。面白いでしょう。
braccio destroは、そのまま「右腕」で、意味は日本語と同じ。また、incrociare le braccciaは腕を組む(交差させる)ことを言いますが、意味は「仕事をしない、ストライキをする」です。腕を組んで何もしないという訳です。腕を組んで何もせず、腕が短ければ払えないと、なんとも腕は良く働きますね。
braccio di ferro ferroは鉄、だからbraccio di ferroは鉄の腕ですが、これは「腕相撲」のこと。鉄は強い意味を持つので、強い腕の勝負ということなのだろう。鉄の事を元素記号ではFeというが、これはFerroから来ている。鉄は上述のように強い意味を持つので、stomaco di ferro と言えば、「頑丈な胃袋」となる(stomaco di bronzo(青銅)という言い方もあるが)。鉄道はferro+viaでferroviaという。地下鉄は、前述のsottoを使って、ferrovia sotterraneaである。一方bronzoは、厚かましいという意味がある。厚かましい人を「鉄面皮」というが、それは、faccdia di bronzo「青銅面皮」という。金属には冷たい意味もあり、occhio d'acciaio (鋼鉄の目)は、「冷徹な(冷たい)視線」の意。
93.buco nero (ブーコネーロ):“「黒い穴」とは?”
黒い穴、つまりブラックホールのこと。宇宙(spazio)にはbuco neroが沢山あるそうだ。しかも、超巨大なものになると、想像を絶する大きさらしい。それは、何億光年かの先にある。何億光年という距離はピンとこないが、それは光が届く時間で測った距離だということは習った。であれば、何億光年先の天体の話は、何億年前の話である。つまり天体をみて、何億もの星が見えるが、それは過去を見ているのであって、今それがそこにあるかどうかは、分からないということだ。1万光年先の星がまだそこにあるのか、100万光年先の銀河がまだそのままあるのか、1億光年先の巨大ブラックホールは今どうなっているのか、分かるのだろうか。もし宇宙が光よりも速い速度で膨張していたら、アッという間もなく、地球を飲み込んでしまうことになる。光より速ければ見えないので我々は気づくこともない。宇宙で宇宙を観測しているハッブル望遠鏡が、1光年先くらいから、1年かかって映像を送ってきても、映像が届くよりも膨張が速いと、やはり知らない間に飲み込まれることになる。
天文学のことはastronomiaという。astroはギリシア語起源の言葉で、星や、天体の事を言う。物理学は、これまで3人の偉人によって確立されてきた。勿論、この3人だけでなく、多くの偉人が関与して築き上げてきたものだが。Galileo Galilei - Issac Newton – Albert Einsteinの3人である。Galileoはイタリア人で、天動説(teoria geocentrica)に対して、地動説(Eliocentrismo=太陽中心の)を唱え、批判されても「それでも地球は動いている」と述べたということである。この言葉は、“E pur si muove.(またはEppur si muove.)と言い、よく見るとこの文章の中で、「地球は」とは言っていないのだが。
さて、Buco neroとは、女性の財布のことも言う。いくら中にお金を入れても知らない間になくなるから。つまりBuco neroは、「知らない間になくなる」というのが、キーワードのようだ。ちなみに、avere le mani bucate(手に穴が開いている) という熟語は、浪費癖があるという意味。
また、ビッグバンは、イタリア語でも、そのままBIG BANGという。昔から夜空にある星の数がどれくらいなのか、気になっていたが、これは3次元(tre dimensioni)では説明できないということがなんとなくわかる。宇宙は4次元(quattro dimensioni)なら、時間(時空の概念)までは何となく理解できる。しかし、科学者のいう5次元とか10次元は、さっぱり描くことができない。ただ、宇宙を見ることは、現在と過去を見ているとすると、少し面白い。いや、ET(extraterrestre)(地球外知的生命体)がいるとしたら、彼らにとって、今の我々地球人は未来人である。なぜならもし今地球を眺めているとしたら、まだ恐竜しかいない地球を見ているかもしれないからである。つまり、宇宙は未来も過去も共存しているということだ。
94.cacciavite (カッチャヴィーテ):“動詞+目的語で作られた合成語”
ねじ回し(ドライバー)のこと。cacciareは捕獲する、猟するの意。viteはネジである。「ねじを捕まえる」がねじ回しになる。このように「動詞+目的語」で作られた単語は多い。
例を挙げると、Aprire(開ける)を使った言葉には、apribottiglie(栓抜き=開ける+ビン)や、缶切のapriscatole(開ける+箱)がある。Tagliare(切る)では、ペンチ(または針金切り)のtagliaferro(切る+鉄)、ペーパーナイフはtagliacarte(切る+紙)、爪きりのtagliaunghieがある。stuzzicare(つつく)を使って、stuzzicadenti(スツッティカデンティ=つつく+歯)とユーモラスな音は、つまようじだ。schiacciare(押しつぶす)を使って、schiaccianoci(くるみ割り=つぶす+くるみ)、schiacciamosche(はえ叩き=叩き潰す+ハエ)。asciugare(乾かす)で、asciugamano(タオル=乾かす+手)、asciugacapelli(ドライヤー=乾かす+髪の毛)など。尚、歯ブラシ(歯+brush)は、spazzolino(小さいブラシ)といい、歯+磨くとは言わない。attaccapanni(掛ける+衣類=衣服掛け)も同じ種類の造語だと言える。
アッ、大事なものを忘れていました。cavatappi(カーバタッピ) cavareは引き抜く、tappoはコルク栓(tappoはコルク栓に限らず一般のふたのことですが)。そうです、これはワインオープナーのことです。イタリアでは重要ですから、忘れないようにしましょう。
95.catalogo (カタローゴ): “ロゴは「録」に”
catalogoは日本語で「型録」とも書きますが、これは全くの当て字。「背広」なぞも、サビル・ローというイギリスの地名から採ったものだそうですが、これらの漢字はなんとなくイメージを出そうと当てたものでしょうね。
それはともかく、catalogoは、cata-logoという合成語です。-logoは、monologo(独白), prologo(序言)、epilogo(終章)、dialogo(対話)などの意味では、「論議」「談話」を意味します。前につけて、会社の「ロゴ」は、logotipoと言います。logoは他には、学者や専門家を意味し、meteorologo(気象学者)、astrologo(占星術師)などと使われます。
さて、logoの前の方についている、monoはひとつ、proは前、epiは後ろを意味します。そしてdiaは通過とか媒介を表わします。dialogoというのは、言葉が通過するまたは媒介するから、対話になるということでしょうね。こういう接頭辞や接尾辞は、漢字でいえばヘンやツクリに相当するもので、こういうものを調べてみても結構面白いものです。
cata-が何かと調べてみましたが、cata-はギリシア語では「下」という意味があるそうです。例えば、catacombe「地下墓地」。catalogoのcataは違うようです。 カタマランという双胴艇がありますが、イタリア語ではcatamarinoといいます。しかしこれも、「下」とは関係がなく、もともとはタミール語(スリランカ)だとのこと。
まあ、今のところcatalogoのcata-が何かは分からずじまいですが、ご存じの方がいらっしゃったら教えてください。また、catalogoというのは、目録ということで全てのデータが載っているものを指し、一枚や数枚で宣伝用に作ったパンフレットのことは、catalogoとは呼ばずdepliant(デプリアン=フランス語)と言います。
96.mantide religiosa (マンティデ・レリジオーザ):“カマキリは信心深い”
「こおろぎ」のことはgrillo(グリッロ)といいます。昔Gigliola Cinquetti(ジリオラ・チンクエッティ)の歌に”Gira l'amore"(愛は回る)というのがあって、その歌詞が次のように始まる。“Il grillo canta solo per amore.La pioggia cade quando un fiore muore. È bello il fiume quando l'acqua è pura ,ma questo l'uomo non lo pensa mai.”(こおろぎは愛の為だけに鳴く、雨は花が終わるときに降る、水が澄み切った川はきれいだ、でも男はそんな事考えもしない)これで、grilloという単語を覚えましたか?日本では昔から花鳥風月を愛でるという風流さがあります。ある本には、西洋人は鳥や虫の鳴き声をただうるさいと思うと書いてあり、これを直接或る西洋人に聞いたことがあります。そうするとその人は、たしかに「そうだ」と言いました。じゃあ、鶯の鳴き声をうるさいと思うのだろうかと、どうしても信じられません。
確かに、日本でもヒヨドリか何かが沢山集まって、夕方にとてもうるさいことがあります。またセミ(cicala)やカエル(rana)の鳴き声も一斉に鳴かれるとうるさいという感じは分かります。しかし、先に上げた歌詞にもありますが、「コオロギは愛の為に鳴く」のように、見方は違っても何かを感じているのだとは思います。また、秋の虫の鳴き声を、楽しく聞くという習慣が日本にはあります。マツムシ(チンチロリン)、スズムシ(リーンリーン)、コオロギ(コロコロ)、その他スイッチョとかガチャガチャも含めて歌にありますね。実はイタリアでこれら昆虫の名前を探すのが大変です。辞書を引けば載っていますが、あまり知られていません。恐らく、秋の虫と言う感覚はなさそうです。ちなみに、バッタはlocusta(イナゴも同じ、キリギリスも同じ。学術的には知らないが、一般には区別されていない)、カマキリはmantide religiosa(またはmantide)と言います。両手(鎌)を上げている姿が祈っているように見えるところからreligiosa(信心深い)となっています。面白い見方ですね。
97.marcantonio (マルカントーニオ):“アントニウスはやはりイケメンだった”
長い単語だなと思われるかも知れません。これは、「背が高くカッコいい男」と言う意味です。この名詞は、ローマ時代の政治家、軍人であるMarco Antonio(マルクス・アントニウス)から取られています。シェークスピアの戯曲「クレオパトラとアントニー」でも有名です。Antonioは、クレオパトラの魅力に引かれ、ローマに残した妻と離婚して、エジプトでクレオパトラと一緒になったといわれます。
「背が高くかっこいい」「イケメン」のような代名詞で呼ばれるからには、当時を代表するいい男かと思われますが、キケロが彼を評して、「肉体が頑丈なだけが取り柄の無教養人で、酒に酔いしれ下品な娼婦と馬鹿騒ぎするしか能のない、剣闘士並みの男」と言っていたり、クレオパトラと一緒になった後はローマ市民からは、「エジプト女に骨抜きにされ、ローマ人の自覚を失った男」と言われている、などの言い伝えがあり、どうもあまり評判は芳しくないようです。従い、marcantonioという意味は、揶揄的に「かっこいい(だけ)」というニュアンスがあるのだろうと思われます。同じように人の名前で、"casanova"があります。これは、Don Juan(ドンフアン:イタリア語ではDon Giovanni)の代表と言われる男の名前からとったもので、意味は勿論「女たらし」です。
98.montagne russe (モンターニャルッセ)、zuppa inglese (ズッパイングレーゼ)、generale svizzero (ジェネラーレズビッツエロ):“国名の表現”
夫々、「ロシアの山」、「イギリスのスープ」、「スイスの将軍」ではありません。これは、前から順に「ジェットコースター」「ケーキの名前=イタリアのデザートの定番」そして、最後は「とても厳しい(人)」の意味です。国名を使った表現は、別項にも述べていますが、ここは形容詞版としておきます。
イタリアは自然の遊び場にはすごくめぐまれていて、自然と共に暮らし楽しむ施設は多いと思いますが、日本からみて人工の遊び場は少なく、ジェットコースターなどの遊戯具がそんなに多いとはいえないでしょう。日本人の一般的な感覚からすると娯楽が少ないと感じるかも知れません。ただ、小さい施設としてはLunaparkと呼ばれる移動遊園地があって、carosello(メリーゴーラウンド)や小さなmontagne russeはあちこち見かけます。しかし、イタリア最大のテーマパークといえば、GardalandというのがLago di Garda(ガルダ湖)の近くにあり、リゾートやホテルもありディズニーリゾートの様です。このGardalandには、どういうわけか、日本庭園があって確か鳥居まであったと記憶しています。興味ある方は是非一度訪れてみて下さい。1975年開業でいまでは年間300万人が訪れる大テーマパークとなっているようです。
99.portafoglio (ポルタフォリオ):“動詞+目的語で作られた合成語2: portare”
portareは持っていく、foglioは紙のこと。この言葉は英語のportfolioとなって、書類カバンや、有価証券目録の意味となる。また日本語でポートフォリオというと、投資運用資産の組み合わせ(portfolio mix)や資産構成分析(portfolio analysis)のことまでも意味するようだ。オリジナル(イタリア語)の方の意味は、「財布」である。portareは英語のホルダーにあたる用語に良く使われるので、覚えておくと便利である。portacenere(灰皿)、portachiavi(キーホルダー)、portafortuna(お守り)、portabagagli(荷物を持っていくことから、ポーター)、portavoce(メガホン)、portaombrelli(傘立て)など。
100.scacciapensieri (スカッチャペンシエーリ):“動詞+目的語で作られた合成語3: scacciare”
これは日本語では、口琴と呼ばれる楽器のこと。イタリアでは主としてシチリアで使われる民族楽器。鉄製で口に挟み、口の中を音源としてこの楽器を振動させ音を出す。メロディーを奏でることも出来る。私はこれをイタリア人からプレゼントで頂いたのだが、音は良く出せない。
scaccia(scacciare)のように、caccia(cacciare)の語頭にsをつけると、その反対の意味をもつ。cacciareには「捕まえる、捕獲する、狩る」と言う意味があるが、scacciareの方は、その反対の「追い出す、追放する」の意味を持つ。pensieriは、「考え」「思考」「心配」「懸念」の意味。従い、scacciapensieriの意味は、「考えを追い出す」または「心配を追放する」の意味になるが、これもまた当然ロマンティックな意味をもつはず。
当然ながら、心配は「悩み」で、「悩み」とは普通イタリアでは「恋の悩み」だろう。つまり、恋の悩みを追い出す、ためにこの音色を奏でるということ。日本語、英語ではJaw harp(顎ハープ)とも呼び、大分昔から日本も含め世界中で使われていた楽器らしい。ただ、scacciapensieriの方が、名前としては良いとは思いませんか。scacciaを使った言葉に、scacciamosche(はえたたき)と言うのもある。(schiacciamoscheともいう:cacciaviteの項参照)。