小話①
変な名前、というのはよく言われていた。
大人になった今は
出来る限り名前を教えないでいても、
しつこくされないから良い。
小さい頃は名前が嫌だったし
自己紹介する時なんて最悪だった
「見目…ゥ…ヲです…」「見目です」とかなんとか
誤魔化そうとしていた時もあったけど
結局先生に促されて「見目ウルヲ」とハッキリ言わなくちゃならなかった。
子供は面白いものに食いつくから
クスクス笑う声と「ナルシストかよw」とか、
微妙にズレた内容の揶揄う声が聞こえて
俯いていた。
その後、名前のおかげで嫌な思い出がたくさんできた。
小学生の頃を思い出すのは苦手だ。
中学生にあがる前に
ネーミングセンスの欠片もない
見た目と外面が良い両親から
「私たちは綺麗な顔してるんだから
何があっても微笑んでいれば良い。
微笑んでいなさい。
苦手なら練習しなさい。
泣いてたってなんにもならない。」
なんて言われて、
頑張って笑顔の練習をした。
人を馬鹿にしたような微笑みじゃなくて
引き攣った微笑みじゃなくて
見た人が好感を持ってくれるような微笑み
練習の結果、
中学生になってからは
概ね良い感じで「ウルヲ〜!」と呼ばれる事が多くなった。
(揶揄われる事はなくならないけど)
何か楽しい思い出があったかと言われると、とくにない。
思い出を分別すると
不快か何もないか少し楽しかったになる。
いろんな事がどうでもよくなった。
微笑んでいたら、だいたいなんとかなっているし、
いちいち気にするのもめんどくさい。
この頃、微笑んでもどうにもならない事は
物理でなんとかしようと思うようになった。
そのままとくに反抗期もなく高校生になって
大人になって自分なんてどうでも良くて
適当に働いて休日は安いアパートの一室でネットゲームか
ダーツバーで1人で遊ぶ
見た目と図太さ以外は普通か普通以下の
27歳になっていた。
友達も特に作らず
(だいたいが名前に食いついてくるから
その時点で候補から外す)
親族とも距離を置いているから、
スマホの連絡先帳は
バイト先
店長
管理会社 の3件。
LINUは登録だけして全く連絡をとってない人達と企業の公式アカウント。
メールは未読が13,000件を超えた。
自分はこんな感じで生きていたら
気づいたら死んでいるんだろうなと思う。
そっかぁーぐらいの感想しか出ない。
実際死ぬ前には焦ると思うけど
”死ぬ前”に何を思っても死ぬことは決まっているんだから
いろいろ考えたくない。とも思うはず。
微笑んでいたらなんとかなる
こんなどうでも良い人生の中で
いつか本当に楽しいと思える何かがあるのか。
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