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太陽の王と氷の女王

今は昔とある国の話
勇猛果敢な王がいた
太陽の王と称される栗毛の勇ましい王は各国との戦いで領土を広げていた
しかしある国とはこう着状態となっていた
氷の女王と称される美女が時期王となる国
暗殺術を得意とする民族を統率する国王の一族も暗殺術を身につけており、その異才に正統な武道の主である太陽の王の部隊は翻弄された
しかしその危機をも太陽の王は怯まなかった
異才の者達への敬意は忘れぬままに正統なる攻略で相手を追い詰めた
その勇気と礼節に感銘を受けた暗殺の王は自分の娘を嫁がせた
暗殺の技を恐れた太陽の王の側近は
「姫君は身一つで来られよ。全てを我々が用意します」
慇懃無礼とも言えるその挨拶に
「仰せのままに。ただし、わたくしが
生まれた時からわたくしの世話を任せていた侍女を1人。たった1人連れて行くことをお許し下されば」
生まれてから一度も切った事のない氷の女王の長い長い髪を床に着けまいと掲げたままの侍女が頭を下げる
白髪の老女に使者も受け入れた

氷の女王の輿入れの日
事件は起こった
国中の屈強な武人が集まり、厳重な警備の中、太陽の王の国が用意した輿に乗った姫君が現れた
輿の扉が開き、姫君が現れると集まった貴族からどよめきが現れる
長い銀髪を体に巻き付けドレスのように身に付けた裸足の氷の女王の姿
そばには侍女1人のみ
化粧もなく体には装飾品も無いが
「美しい‥」
全員が感嘆の声を上げる
透き通る白い肌に、青く輝く瞳
絹糸のような銀の髪
冷たい眼差しは氷の女王の名のまま
その美貌に誰もが魅了される
しかし
(確かに身一つとは言ったが全裸で来るか?普通)
王は違う意味で見入っていた
(てかあれドレスっぽいけど髪の毛じゃねーか。解けたら全裸じゃんあの女。露出狂か?変態か?)
(先ほどから不躾な視線を。あの王は女の裸を見たいのですか?)
王からの鋭い視線に姫もまた心の中でお喋りだった
(てか身一つで来いと言ったくせにドレスの一つすら用意していないのですか?この国の者は王をはじめとして皆私に全裸で来いと?私に衆人の前で全裸で歩くと言う変態プレイをやれと言う事ですか?あのヒゲ面の王はムッツリですね。ああ言うタイプは特殊性癖でもあってもおかしくはありません)
心の中は多弁でありながら沈黙を保っていた太陽の王と氷の女王だったがその沈黙を破ったのは太陽の王だった
「そなたの身に付けている衣装は見事だ。飾りも無くそこまでの美貌を保っているのはそなた自身の美しさであるな(露出プレイが好きなのか聞いてみたい。だがそうなった場合余も付き合わされるのか。2人で全裸でスキップなんかしたら後世まで変態国王と女王と歴史に刻まれるのか?)
「はい。痛み入ります。我らに敵意はないと見せるためです(まさかこの男わたくしが露出癖があると思い込んでいるのではないでしょうね?だとしてもさっさと新しい衣装を用意しなさいよ。こっちは寒くて仕方ないのよ)」
お互いに礼を尽くす
「姫よ。今宵は長旅で疲れておるだろう。夕餉は我々のみで行う部屋に案内させる故、まずはお寛ぎ頂こう(部屋にはドレスを用意してるから流石に着てくれるよね?ね?ね?)」
「お気遣い痛み入ります。着替えて参ります(氷の女王なんて言われてるけれどわたくしは人間でしてよ。平気な顔をしているけれどクッソ寒いんですのよ。サッサと案内しなさいよ)」
挨拶が終わり、太陽の王と配下の者は下がったが、氷の女王の迎えは来ず
氷の女王の侍女もじっと立っていた
「んっん!」
氷の女王の咳払いに我に返った侍女が辺りを見渡す
「この国では輿入れしたとは言え一国の王女を蔑ろにするのがこの国の流儀なのですか?」
侍女が辺りを見渡しよく通る声で話す
「姫様の部屋への案内役がいないと言う事は姫様のお部屋が無い。これは姫様への更には我が国への侮辱として捉えて宜しいか?」
侍女の鋭い眼差しに皆がざわめく
「ワザワザ出迎えて下さった国王陛下には申し訳ありませんがこれは宣戦布告として捉えて宜しいのですね」
氷の女王の名に相応しい氷の眼差しに臣下達が恐れ慄く
しかし
「申し訳ありません妃殿下!」
女中が慌てふためき姫の前に立つ
「部屋を案内するお役目を頂いた者です。殿下のお美しさに見惚れて役目を忘れてしまいました」
頭を下げる女中に
「このような粗忽者を寄越すとは余程我らは下に見られているのですね」
侍女が更に何かを言おうとするも
「この娘は貴族の娘です。貴人のお世話をさせる程の身分であるため殿下の案内にさせました。これ以上の身分の者が居りませんでした」
年配の女中が現れ、更に謝罪を繰り返すも
「飽きた」
氷の女王が呟いた
「姫様」
「我夫となる国王陛下がご用意され部屋にも入らないのは非礼という物です。そこな下女。陛下の真心を無下にしたくなければ早急に案内なさい」
「はい!寛大なお心使いいたみいります」
「全ては陛下の御為です」
氷の女王の新たな部屋に案内され、侍女と2人きりになった
「あー!寒い寒い寒い寒い寒い!」
「姫様,取り敢えずこちらを」
肌を擦り合わせる氷の女王に侍女が部屋に飾ってあったマントをかける
「あの者達はわざとわたくしに全裸で過ごさせるつもりではなかったでしょうね(てかあなたもとっとと対応しなさい)」
マントで暖を取る氷の女王に紅茶ポットを運んできた女中からポットを受け取った侍女が紅茶を入れて差し出す
「いいえ、ただのうっかりでしょう。私もあのバカ娘‥いえ若い女中の頃はああ言ううっかりはよくありました。こういううっかりに寛容になれるのも王の器です」
「(バカって言ったバカって)そうですか。てっきりお前がわたくしが子供の頃に聞かせてくれた姫君が嫁ぎ先で嫁いびりに遭って相手に復讐して真の王子様と結ばれる話に似ていたのでgてっきり嫁いびりかと」
「(ノンブレス。というかそれは私がこっそり読んでた恋愛小説)それはあくまで創作物です。それにこの国の民は王を筆頭に単純バカ‥純朴です。姫様の美しさの前ではsどんな英雄も陥落するでしょう。それに‥」
解いた髪から落ちた短剣
「流石の賢明な太陽の王もこれには気付きませんでしたね」
氷の女王父王が授けた短剣
「この短剣には我が国の呪術師が最高技術の粋を尽くしたこの呪術を込めた短剣を授ける。これににもかすりでもすれば相手はたちまち呪いに全身を蝕まれ死ぬだろう」
「我が父ながらエゲつ無い事この上ありませんわ」
「(政敵を倒す為ならばどんな手段もy問わないのが我らが偉大なる王です)可愛い娘が心配なだけのただの親バカです」
「本音と建前が真逆になってましてよ」


衣装を着替えた後夕餉の時間となり食堂に呼ばれた
「ここは余とそなたのみだ。と言っても給仕や側用人はおるが」
食堂は王家の物にしてはこじんまりとしており、向かい合って座っても十分声が通っている
「重ね重ねお気遣い痛み入ります。この距離であれば(暗殺出来る)心を打ち解けることが出来ますわ」
「(何か変な行間があった気がする)そなたとは政略結婚とはいえ縁あって結ばれるのだ。お互い少しでも理解し合えれば良いと思っている」
「光栄に存じます(ですが‥)」
テーブルの食器類を見つめる
「見事な銀食器の数々です。姫様を歓迎されている真心を感じます」
(お前のその目を入れる穴に詰まっている物はガラス玉か何かですか?)
太陽の王の皿の上に綺麗に折り畳まれた布ナプキンが置かれていたが氷の女王の皿には無い
(幼い頃から礼儀作法を叩き込まれたわたくしはこぼすこともありません。布ナプキンは不要といえば不要。ですが無礼にも程があります)
睨みつけられた太陽の王はビクリと震える
(あ、余の人生詰んだ?夕餉は双方の国の郷土料理を用意させておるがまさかそれが気に入らない?イヤイヤ、まだ食事は運ばせておらぬ。銀食器も綺麗に磨かせた。もしかしてこの磨いたナイフで余は刺される?いやあのフォークでプスプスと頬を刺される?いやこのスープ用のスプーンで目玉を抉られる?)
心の汗を噴き出される太陽の王は表情を崩さず氷の女王を見つめる
(この男!わざとですか?わざと布ナプキンを用意させなかったのですか?)
肩を震わせる氷の女王に
(武者震いか?武者震いなのか?余を暗殺する手数を考えて勝利の武者震いか?)
太陽の王の背中は汗で衣服を濡らしていた
「んっん!(これだけ従者が居るんだから気付きなさいよ。それともこれは嫁いびりなの?)」
静寂を破るのは氷の女王の咳払い
「姫様、先程から咳が酷いようですがお身体の具合でも悪いのですか?心無しか震えておりますし。お風邪でも召しましたか?やはりあの全裸プレイは無理がありましたか?」
「おだまりこのおバカ。ちゃんと皿をご覧なさい。お前の顔についている物はガラス玉ですか?」
「いいえ眼球ですが?」
「だったらちゃんとご覧なさい」
氷の女王が指した先
「あっ!」
「あっ!」
「ヤベッ!」
太陽の王の従者が声を上げる
「これはどういう事でしょうか?この国では嫁いで来た王族にこの様な歓待を重ねるのですね」
氷の女王の侍女が太陽の王の侍従を見つめる
「申し訳ございません!こちらの不手際です」
従者が謝罪する側で青ざめる女中
(どこかで見た様な間抜け面ですわね。というかこの娘が嫁いびりの犯人)
「我らへの侮辱行為はこれで2度目です」
(マジでか!もうそんなに氷の女王に無礼働いちゃってんの?てかうちの部下ドジっ子ばっかり!)
太陽の王の手のひらには汗が滲み足も汗で靴がびしょ濡れ状態になっていた
「も‥申し訳無い。余は誠意を持ってそなたをもてなしたつもりであった」
頭を下げる太陽の王に
「お顔をお上げ下さい。わたくしはこの不手際が嫁いび‥故意で無いならば不問に処したいのです。ですが主人にこの様に頭を下げさせた責は負わせねばなりません」
「寛大な御心に感謝する。姫に不手際を行った者どもをここへ」
呼ばれて表れたのは
「そなたら姉妹か‥」
そっくりな2人の女中
「はい。私達は双子の姉妹で御座います」
「(双子だけでよかった。こんな粗忽者がこれ以上いなくて本当に良かった)その方らには追ってわたくしが陛下に代わり罰を下します。しかし先ずはお食事といたしましょう。折角用意してくれた料理人達の気持ちを無下には出来ません」
「そなたの心遣いに感謝する。では食事を」
太陽の王の命令により互いの国の料理が出される
「ここの料理人は見事な腕前です。我が故郷の料理をここまで再現されるとは」
「ああ,そなたがここでも快適に暮らせる様に采配した。他に不自由があれば何なりというが良い」
「御心遣い痛み入ります」
「‥‥」
「‥‥」
急に静寂が襲いフォークやナイフが動く音のみが部屋を支配する
「(クッソ気まずい。女の扱いは書物でしか知らぬ。姫も話をする気もないみたいだし。‥そうだ!)姫、そなたの国では髪には不思議な魔力が宿ると聞いた」
「はい。仰せの通りです。髪には神聖な力が宿ると言われております。王族の女は生まれた時から髪を一度も切ることなく過ごします(まあ他にもあるのですがこの王には必要のない話です)」
「そうか。そなたのその絹の様な髪も生まれてからずっと伸ばしておるのだな(手入れが大変そうだ。だが髪を褒めれば喜びそうだ)そなたのその髪に口付けをしてみたい物だ」
ガチャン
「‥ウェ?」
いきなり氷の女王がナイフとフォークを落とし声を上げる
「(何だ今の鳴き声は?何かの術式か?呪いでもかけているのか?)どうしたのだ姫よ。身体の調子が悪いのか?(もしかして先程の裸体プレイが物足りなかったとか?)」
「あの‥陛下‥」
側で控えていた侍従が耳打ちをする
「姫君の国では髪に口付けしたいはあなたの下着を脱がせたいという意味にも繋がります」
「何でだ!余はその様な意味で言ったわけではない」
「聞いているこちらも赤面物でした。まあ結婚する相手なので問題はありませんが」
「大アリじゃい!ひ‥姫今のは失言‥」
顔面を真っ赤にした氷の女王は何事もなかったかの様に食事をしていた
(気にしてはいない様だな。もしも気にしていたら余の命は無いな)
(あの王なんと言う‥なんと言う‥情熱的な告白を)
氷の女王は平静を装いながらも告白にときめいていた
(あの王は姫様に対してなんと言う破廉恥かつ情熱的な告白を。かような告白は初代の国王様が王妃様に行ったきりです。ああ生きてて良かった)
侍女も密かにときめいていた
「今宵は大変楽しゅう御座いました」
「うむ。明日から三日間婚姻の儀がある。今宵はゆるりと休め」
互いの寝室に向かい
氷の女王はベッドに戻ると激しく転がり始めた
「ああああああ!なんてこと何て事!あんなヒゲモジャがわたくしに!このわたくしにあんな情熱的な告白を!ヒゲモジャが!胸毛もモッシャモッシャしてるだろうに!」
「姫様。それは偏見という物です」
「わたくしの好みは金髪碧眼の細身の王子様でしてよ!」
「そうですね」
「かような男は虫ケラ‥いえ存在すら許してはならないのです!」
「そうですね(酷い言われよう)」
「なのにわたくしにこの氷の女王に‥」
「そうですね」
「お前も大概無礼ですよ」
「そうですね。しかし明日からは三日三晩続く婚姻の儀がございます。今宵は昂る思いもお鎮め下さい」
「余計なお世話ですわ」

翌日
「姫よ。今日の結婚の儀のためにそなたの髪置きを用意させた」
氷の女王の座する椅子の隣に置かれた台座
その上に置かれたのは豪奢な宝石が散りばめられた箱
中には絹のクッション
「そなたが大事にしている髪を床に着けさせる訳にはいくまいて(姫の国の者に聞いて作らせた代物だ。間違いはあるまい)」
「ヘァッ!」
またもやおかしな悲鳴をあげのけぞる氷の女王
「どうした姫君よ(ヤッベ!また何かやらかしたか?)」
「いえ大変嬉しゅうございます」
またも顔面を真っ赤に染め氷の女王は控え室に戻った
「余はまた何か失態を行ったのだろうか?」
「いいえ陛下。彼の国の王族の女性に髪の毛置きを贈るのは私の選んだ下着を着て寝所に来て欲しいという意味です」
「面倒くせえなあの一族!どんだけ髪フェチなんだよ!余は下着を贈る変態じゃねえか!」
「陛下お声が大きいです」

国王の結婚の儀は国を挙げての大規模なイベントである
貧富も老若男女も問わず希望する国民が集まる
皆が輿入れする花嫁を見に来た
「まるで見せもの小屋のようですわ」
「それ程に姫様が美しいと言う事でございます」
金細工を施した輿に乗った氷の女王が呟く
皆が花嫁衣装の氷の女王に感嘆のため息を漏らす
しかし違うため息も漏らす者も居る
長く伸びた氷の女王の髪を抱え双子の女中
「お姉様‥重くて腕がちぎれそうです」
「我慢なさい。私達は2度も失態を行ってしまったのですからこの程度の罰で済んだだけでもありがたいと思いなさい」
(わたくしの髪は罰ゲームの道具ですか?失礼な)
ヒソヒソと話合う双子の女中
「本来であれば私達が行った失態は首を刎ねられてもおかしくはないのですから」
十分に氷の女王の耳に入る距離で遠慮なく話す双子の女中に
「そなた達。その程度の罰で済んだ事に感謝も無いのですか?」
見た者を凍り付かせる眼差しで氷の女王の侍女が声をかける
「はっ!はい!王妃様の寛大な処置に感謝しております」
身を固くし謝礼を述べる双子
「本来であれば斬首されても文句は言えない立場であるのを忘れない様に。姫様の髪は宝石より貴重な神聖な物です。生まれて一度も切ることなく、丁寧に手入れをしこの美しさを保っているのです。この神聖な髪をうっかり床にでも落としてごらんなさい。そなたらだけでなく一族郎党全てが磔にされるでしょう」
侍女が冷たい視線を送る
「はいいぃいいいい〜!」
「肝に銘じます!」

氷の女王を乗せた輿は玉座のある階段の元に着く
輿から降りた白い衣装に身を包んだ氷の女王に皆が息を呑む
「何と言う美しさだ。何も身につけていなかった頃も美しかったが」
「ああ、更に美しい。氷の女王そのものだ」
皆が賞賛の意を示すが
「やはりニコリともしないな」
「冷たい表情のままだ」
氷の女王の表情に追求された
「下賤の者どもは口さがありませんね。姫様を拝顔出来る栄誉を何だと思っているのでしょうか?」
「やはり育ちというものは致し方ありません。身分問わず王族の婚姻にこれだけの人数が集まるというこの王家の力押して知るべしです。我が国が武力でこの国支配しようとしなかった原因がこの国民達の統率力です」
「流石姫。様慧眼です」
「それよりもお前、わたくしの事を姫様と言うのはおやめなさい。わたくしはここの王妃になるのですから」
「失礼しました妃殿下」
「よろしい。それとここまで用意して下さったヒゲモジャ‥陛下には労いを差し上げなければ」
太陽の王の前に着いた氷の女王はお辞儀し
「おお‥」
「丸で大輪の花の様な笑顔だ」
溢れんばかりの笑顔を見せた
(さあどうですかヒゲモジャ。このわたくしの眩しい笑顔は。そなたの様な無骨な性欲に塗れたそなたのマヌケヅラ‥何ですのその表情は)
「妃よ。我が国民にもその笑顔は何よりの褒賞である」
優雅に微笑み話しかける
(な‥何ですのこのヒゲモジャ。その余裕は!そなたの様な野卑な下郎はもっと面白い顔をして貰わなくては興醒めですわ。もっと面白い顔を見せてわたくしの美貌に跪きなさい)
(危なかった!一瞬妃の美しさに意識が飛んだ。余はそんなに女に免疫がある訳ではないのだぞ。なのにあの様な笑顔を見せるとは!咄嗟に手の甲の毛をむしって助かったぞ。毛深い特性が防寒防塵以外に役にたつとは思わなかった)
お互いの動揺をひた隠しにしたまま婚姻の儀式は終了し、宴と挨拶のみとなった時に事件は起きた
「陛下!北方の異民族が国境の近くに攻めて来ました!」
兵士からの報告に祝いのムードは一変
「かような無粋の輩は余が蹴散らそう」
玉座から立ち上がり、氷の女王に語りかける
「すまぬ。そなたの元に必ず戻る。そのごはゆるりお互いについて語り合おう」
「はい,ご武運をお祈りしております陛下」
そのまま太陽の王は戦場に向かった
半年後
「全くあのヒゲモジャ。人を何年待たせる予定ですか」
縫い物をしていた手を止め呟く
「相手も強大な国です。今までの様に容易い戦ではないでしょう。後何年かかることか」
「そうですか。そんなにわたくしを待たせようとは思わないでしょうが」
立ち上がる
「あのヒゲモジャに喝を入れなければ」


国境近く
「もう半年も経ってしまったか」
侵略にかけては近隣国一と謳われる北方の異民族の攻防は拮抗していた
「いかんせん相手は人数を武器で補っており、ましてや流民も引き込んで戦力の増大に努めています」
「敵ながらあっぱれといった所か」
自嘲し、テントに飾ってある肖像画を見つめる
「あの気の強い妃は相当苛立っておるだろうな」
「何をもたついているんだ。わたくしを後何年待たせる気ですの?とか言ってそうですね」
やってくる手紙には差し障りのない日常の様子のみで
「余も新婚の身。早く決着を‥何やら騒がしいな」
外の兵士のざわめきに立ち上がると味方が飛び込んで来た
「伝令!味方の兵士と思われる少人数の兵士が北方の異民族の軍に立ち向かっています」
慌てて外に出て様子を伺う
敵兵に向かい槍を持った騎士が仲間を引き連れ馬で駆け抜けていく
あっという間に幾ばくかの兵士を倒し、首を持ち帰ってきたら
「何者だ?同盟国からの支援か?(妃の実家からの援軍か?いや既に合流している)」
騎士は馬から降り兜を脱ぐ
「半年前に会ったきりとは言え妻の顔すらお忘れですか?」
「妃!」
「妃殿下!と言う事は側に居るには?(物語的にはあのばあさんか?)」
「この者はわたくしの護衛の兵士です。わたくしが戦場に向かうと言ってので護衛に付いてきて下さいました」
「(あの強さなら護衛要らねえじゃん)いつものばあさ‥侍女殿は?」
「国で留守を守っておりますわ。常識的に考えて老婆に戦場について来い何て非道な女ではありませんでしてよ」
「(ですよね)そなたもここは危険だ。もう少ししたら帰る‥と言うか髪はどうした?」
あの床まで伸びていた髪は氷の女王の肩まで綺麗に切られていた
「あれほど大事にしておったのに(今更鬱陶しくなった?)」
「王族の女が髪を切るのはこのためです」
馬の腰につけていた袋から取り出す
(余をその髪で作ったロープで殺す気か?)
太陽の王は思わず身構える
「陛下にこちらを献上いたします」
周りの者達がおおと歓声を上げる
真っ白な長いマント
「陛下の戦勝を願ったマントです。髪には神通力が宿ると申します。なのでそのマントにわたくしの髪を編み込みました」
「(キモっ!)ありがたい早速身につけよう」
マントを翻す太陽の王
マントは日の光を浴び幻想的な輝きを映し出す
「そのマントを敵の血で全て染めて下さいませ。真っ赤に染まったマントで、そのむさ苦しいヒゲも綺麗に剃った凛々しいお姿での凱旋帰国をお待ち申し上げております」
氷の女王はそのまま顔を近づけ口付けを交わす
「わたくしはそんなに気の長い女ではございません。後1か月後に勝利の帰国がない場合,そのヒゲごとあなた様の顎を切り落とします」
(余の命が風前の灯!)
太陽の王にしか聞こえない声量で脅す氷の女王に太陽の王は硬直する
「約束です陛下」
いつも以上の満面の笑みで離れて行く氷の女王に
「そなたに約束しよう!必ず1か月で戻ると!」
馬に跨り戦場に向かう王に
「ご武運を」
氷の女王は笑った


一か月後
「本当に一か月で帰ってきやがりましたわ」
研いでいたナイフを残念そうに鞘に収める
「勝利の凱旋に皆が沸き立っております」
報せを受けた護衛が嬉しそうに報告する
「ええ、約束通りマントを赤く染めてのご帰還ですわ」
返り血を浴びたマントは錆びた赤銅色ではなく瑞々しい赤い色で
(どうなっておるのだ?このマント。妃の呪いでもかかっておるのか?)
太陽の王は半ば怯えていた
「お帰りなさいませ陛下。無事のご帰還心よりお喜び申し上げます(チッ、惜しかったですわ)」
「おお,妃よ。そなたのマント(の呪い)のおかげだ」
氷の女王の元により、兜を脱ぐ
「そなたの言う通り髭を剃ってみたがどうだ?」
精悍な青年の姿に
(ヤダイケメン!何て事?あの髭は呪いのアイテムでしたの?詐欺レベルの変貌ぶりですわ)
氷の女王の頬が赤く染まる
「素敵です陛下。ますます惚れ直しましたわ(他の部分も剃ったら呪いが解けて細身の美青年に変身するかしら?)」
キスを交わし、
国民が盛り上がる


こうして色んな意味で危機を乗り越えた太陽の王と氷の女王は政略結婚とは思えない程の仲睦まじい夫婦として一生幸せに


暮らせる訳もなく

太陽の王の髪以外の全身脱毛の危機
新婚初夜における知識不足の2人へのおせっかいな重臣達の指南
その後どハマりした2人の愛の結晶が多すぎて
「こんなに子供を産ませて。うちの娘は犬じゃない」
と娘を溺愛する父親からの凶器込みのツッコミ事件
勝手に妄想を爆走させた氷の女王の嫉妬による太陽の王暗殺計画等
波瀾万丈の物語が続くがそれはまた別のお話


終わり

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