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交代する童神

こちらは12月14日に大分県で行われたあめや怪談会で配布した小冊子の加筆版です

座敷童と言う妖怪がいる
東北地方の昔話が有名で、家に福をもたらすが、出て行くとその家はあっという間に滅びると言う
有名なものであれば岩手県の緑風荘の亀麿様
幼くして亡くなった家の長男であった亀麿様が座敷童として家を守っていると言う
主に家を守る座敷童は幼くして亡くなったその家の長男もしくは後継者が死後に神となり、家を守る
この家を守る子供の神様には他にも障害児を外に出さずにそのまま神様として隠す
生まれて来た赤ん坊を口減しで殺して神様として祀って隠すなど裏の面も持っている

知り合いの拝み屋が兄弟子に当たる人と一緒に遭遇した話も座敷童に纏わる話だ
拝み屋の師匠の元にはもう1人の弟子がいた
拝み屋の兄弟子にあたる田口さん(仮名)は難聴だが視力が優れており、神様から目を借りて拝み屋をしていた
普段は会社員をしていた田口さんは休みの日限定で拝み屋の仕事をしていた
拝み屋も得意ジャンルがあり、他の拝み屋や霊能者と一緒に仕事をすることもあるので田口さんともたまに一緒に仕事をしていた
田口さんが得意としていたのが除霊関係
霊と対話し、時に霊を癒し成仏に導き、時に強制的に祓った
「兄(あに)さんはそう言う力技が得意だ」
とは拝み屋談
田口さんが苦手なのは神様系
視力が良過ぎて余計な物まで見えてしまい神様から敵視される事もあるらしい
そんな田口さんが拝み屋に協力を求めてきた
「もしかしたら神様絡みかもしれない」
田口さんの筆談にはそう書いてあった
田口さんは難聴なので主な会話は手話か筆談
拝み屋は全盲なので付き添いの人が代わりに読んで教えた
依頼人は代々続く商家
その家の跡取りである長男が急に神に憑かれたと言う
長男は子供の頃から優秀で、有名な国立大学を卒業し、有名な企業にも入社した
数年の会社での経験の後に実家の稼業を引き継ぎ、経験を重ねる予定だったが
「原因不明の高熱にかかり、熱が引いた後奇行を繰り返す様になった」
いきなり髪を伸ばし、耳の下で切り揃え、前髪も眉にかかる所まで揃えるいわゆるおかっぱ頭にした
そして衣服も白い木綿の着物で死装束の様な物をのみ着た
食事はろくに取らず、子供の好む様な菓子を食べ、時にはおねしょをしたりとまるで子供の様だった
優秀な跡取り息子のあまりの変貌に両親は驚き霊能者や僧侶、神主に頼ったが
皆が
「これはお宅の神様の仕業だから私にはどうしようも出来ない」
と断られた
そこで困った両親は取引先の会社の社員で拝み屋をしている田口さんに相談に来た
田口さんが得意とするのは除霊と言った霊相手のもので神様や呪い関係は苦手だった
「これがもしも神様関係だったら神様系に強いお前がいてくれると助かる。ちゃんと礼はするから」
と頼まれた
「兄さんとはお化け退治で協力して貰ってるから」
という事で条件付きで拝み屋はこの案件を請け負った
その条件は田口さんの通訳
田口さんは言葉が話せず代わりに手話や筆記でコミュニケーションを取る
全盲の拝み屋には指点字と言う技法がある
手のひらに指で叩いて点字を表すが、それでは時間がかかるので通訳者が欲しいと言った
その通訳者と共に行った先は大きな屋敷だったと言う
田口さんの介助で室内に入った拝み屋はすぐに室内の異常に気づいた
「兄さん、俺たちは神社に参拝に来とるんか?」
それほどまでに清浄な空気だったと言う
しかも人間が動いている音がしているにも関らず、静けさが際立っている
「いや、普通の家、というかお屋敷です。でも僕も霊感はないけどこの空間に入ってからきっちりとしないといけないという気持ちになります」
何故か通訳の人が答え
「俺も正直神社に入ったような気分になる。神聖な空気で気持ち良いけど居心地が悪い」
と田口さんは答えた
奥の部屋に通されるとそこには見事な神棚がある座敷だった
そこにはヘラヘラと笑う長男とその両親である依頼人
そしてその長男の弟
『いらっしゃい。よくきたねえ』
いきなり頭に響く子供の声
「誰か子供がいるのか?」
その声に拝み屋が尋ねると同時に拝み屋のサングラスが落ちた
誰かにサングラスを叩かれたような感触
その方向に振り向くと小さく悲鳴を上げる子供の声
田口さんがそれを拾い、拝み屋に握らせる
「小さい子供の幽霊がお前のサングラスを盗んだがお前の顔に驚いた」
「いやそれは分かってる。だがあれは人間のくせに神様と同じ匂いがする」
その子供の霊は人間の匂いに神様の匂いが重なっていたという
田口さんの目にはおかっぱ頭の光に包まれた子供に見えた
「ああ、その子は家の神様で座敷童です。イタズラはしますが悪いものではないです」
依頼者の話によると、何代か前の長男が6歳の若さで事故で亡くなったと言う
それ以降家の中で子供の話す声や走り回る音
その子のお気に入りのおもちゃが誰も触っていないのに勝手に動くと行った事象が起きた
そこで家人は拝み屋を呼んだ
拝み屋の話によるとその子は亡くなった長男

その家の繁栄を司っていた神様が飽きたのでこの家を出ることにしたが、この家に自分がいなくなると困るだろうからこの家の後継者だった長男に神様の代わりを務めるようにと言ったという
「俺もこの家を出ていくときはこの家の長男に神様の代わりになってもらうから」
その子の言う通り、その家の繁栄は変わらず、たまに長男が幼くしてして死ぬことが起きるようになった
それも数十年に一回程度だったので、その年の長男は仕方ないとして次男や三男に跡を継がせたという
「今回は長男は無事に成人したので次の子供世代だろうと思っていました」
田口さんは改めて座敷童に向き直った
「あなたは何故この人にこのようなことをされたのですか?代代わりは子供でないといけないのでは?」
子供に好かれやすい田口さんが座敷童の相手をしている間、拝み屋はだされた茶をすすって暇そうにしていた
「それは僕がもう神様の仕事に飽きたから。でも子供が生まれるのはまだ先だからこの人の頭の中身を空っぽにして子供に戻してあげたんだ」
田口さんは神様の話をどう伝えようか迷ったが
「兄さんが言えないんだったら俺が代わりに説明する。あんたの息子さんがほうけになったのはおたくの神様の仕業だ。神様が交代したいからこいつの頭を空っぽにした。このままじゃあんたの息子さんは殺されて神様にされる。嫌ならこの家を潰して神様にお礼を言って神様の国に帰ってもらえ」
とかなり乱暴な言い方で説明した
この方法は神主や専門の拝み屋に任せるのみなので、田口さん達は帰るのみだった
「僕はどうでも良いよ。自分がこの先行く場所は決まっているし」
座敷童はそう答える
しかし
「神様がお決めになった事だから仕方ありません」
長男の両親でもある依頼人はこう答えた
「今この家が潰れたらこの家で雇っている者達や会社の従業員まで、何百人もの人間が路頭に迷うじゃないか。これはこの家に生まれた長男のお役目だ。仕方ない」
つまりは長男を見殺しにすると言うこと
「じゃあ俺達は何もすることはないな。兄さん帰ろうや」
拝み屋は田口さんに話しかけて立ち上がった
田口さんの様子は汗の匂いが強くなり、空気の震え具合から田口さんが震えているのが分かった
「田口さんが顔色が悪いです」
話を聞いていた手話通訳も声が震えていた
「兄さん、いい加減にしろや。俺は目が見えんのぞ。あんたが手を貸してくれんと俺は家に帰るまでに何回転ぶと思う?」
流石に田口さんが気の毒になった通訳が代わりに肩を返した
「ここまでご足労いただきありがとうございました。これはお礼です」
カサカサと言う音は紙のようで
いつものように謝礼を受け取ったのだろうと思っていた
「兄さん落ち着いたかい?」
「ああ、爺さん(拝み屋たちの師匠)から相手に感情移入するなとよく言われていたが今回は酷かった」
「そんなもんだろ。神様関係で人が死ぬことはよくある」
田口さんは首を振った
「お前は目が見えなくて良かったな。あいつら笑っていた」
神様がまだ残っていることに
今度は融通の効きそうな大人が神様がなってくれることに
「あれは人間じゃない。自分の大事な家族が生贄になるのにちっとも悲しんでいない」
「兄さん、あんた耳が聞こえなくて良かったな。あのほうけの弟がこんな事を言っていたぞ。ああ、兄貴がこうなったからには俺が跡取りだ。やっと俺の時代が来た。俺がこの家の主人だ」

「俺は目も耳も見えて聞こえていたからあなたがたより気分が悪かったですよ。あんなん鬼の住処ですよ。子供を犠牲にして笑えるんですから」

そして数日後
長男は川で亡くなったと田口さんに話が来た
取引先の不幸なので葬儀に参列したが、長男の様相は異様だったという
川の浅瀬で溺死したと言うことだったが
「顔が恵比寿さんみたいだった」
と田口さんが話した
長男が死亡した状況は浅瀬にうつ伏せになった状態で朝の散歩をしていた人が発見したという
警察も死亡時の顔を見て絶句したと言う
「ずっとこの表情のまま死んでいたんですよ」
あの日に出会った家人の1人が田口さんに話しかけてきた
「溺死ってきついみたいだね。でもあの子の顔をご覧よ。どんなに顔を直してもらってもあの笑顔のまま固まっているんだ。きっと神様が苦しまないようにしてくれたんだろうね」
葬儀の場とは思えないほどの満面の笑みを浮かべた両親は自分も死ぬ時は苦しまずに死にたいものだと語っていた
田口さんは後日、拝み屋に礼の食事を奢りながらその話を語ってくれた
「その葬儀の夜な、あの神様が挨拶に来たんだ」
夢枕に立った座敷童はニコニコとしていて
「僕も代替わりが終わったから次の場所に行くね。話を聞いてくれてありがとう」
改めてお礼を言われた
「あの人の笑顔ってなんですか?」
気になった田口さんは座敷童に聞いてみた
「事故か病気かで亡くなってもらうんだけどきついの痛いのって嫌でしょ?だからおまじないで痛くないようにしてあげたんだ。これから楽しい場所に行くよって言って」
子供らしい無邪気な笑顔の座敷童は去っていった
それ以降田口さんは拝み屋をやめた
「俺みたいな人間は割り切ることができんのよ」
日本酒を土産に持ってきた田口さんはそう言った
神様から借りた目も神様に返そうとしたがn
「まだ使うかもしれないから貸したままにしておくよ。必要な時は使いなさい」
と断られたという
田口さんは表向きは拝み屋を辞めたが、どうしてもと言うときは依頼を受けているという



私はこの話を聞いた時、遠野物語の座敷童に対する考察を思い出した
遠野物語の座敷童は実は子供ではなく、低身長の大人ではないだろうか?

生まれつきの低身長か日本の先住民か
特殊な技術を持ったその人達は人間でない証として髷を結わずおかっぱ頭にし、人外としていた
しかし、その人物によってもたらされた恩恵に感謝を忘れた当主により、粗末に扱われた
それを不服とし、その人物達はその意を出て別の家に行ってしまった
今までその人物から与えられた様々な知識は失われ、本来ならば避けられた危機も回避する事ができず、一家は全滅した

その話のように今は大人の座敷童がその家に幸福をもたらしているが、大人故の気まぐれや機嫌によってその家を出て行ったら?
弟との折り合いが悪くなったら?

きっと遠野物語のようにその家はあっという間に没落するのだろう


終わり

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