丑の刻詣りに突撃してみた
こちらは怪談朗読バー蒲田様(@kdrd_bar)に書き下ろした朗読用の物です
お気に入りのユーチューバーの生放送の時間が近づいたのでユーチューブを立ち上げた
大人気の心霊スポット突撃系ユーチューバーリリチャンネル
女性ユーチューバーのリリタンが毎回コスプレをして心霊スポットに突撃すると言うもの
前回は幽霊屋敷という噂の廃墟に突撃した
だが、そこには住人がいて、説教からの普通のインタビューという違う意味で放送事故レベルの動画になった
しかし、取材許可を貰った管理をしている自治体から本当の廃墟であることを改めてインタビューで確認する動画が流れた
自治体も不審に思い改めて廃墟を調べると白骨化した死体が見つかりニュースとなった
あの時に住人だと言った人物は本当はあの白骨死体ではないかと考察がおき、ここから一気に人気が出た
本物が出演する動画に今日も炊くっさんリスナーが待機していた
そのうちに時間になり画面にリリタンが現れる
「おはおはー！リリタンだお」
ーおはおは〜！ー
ーリリタン今日も可愛い。今日は巫女さん？ー
巫女装束らしきリリタン
上着普通の巫女装束だが、緋袴はミニスカレベルで太ももに食い込む白いソックスが色っぽい
「今日は神社での収録だから巫女さんルックだお」
ー可愛〜ー
ーミニスカ巫女さんハアハアー
ー絶対領域！ー
今日の衣装もリスナーにも大好評で
「ではまずはこの動画からどうぞ〜」
別の動画が流れる
「はい、今私は丑の刻詣りで有名なこの神社に来ております。この神社の宮司さんから詳しい話を聞きたいとお思います。では宮司さんお願いしまう」
紹介された宮司は30代くらいの男性で
「この神社は本来は縁切りの神社です。悪縁を断ち切り、良縁を結びます。しかし戦後、先先代の頃から丑の刻詣りが増えました」
いか宮司の説明が続く
神社のあちこちに藁人形が散乱し、神社の敷地内は愚か他人の所有する山木材用の木にまで藁人形が釘で打ち付けられた
そこで困った宮司は、予約制の丑の刻詣り用の神殿を作り、丑の刻詣りの作法を小冊子で作成し、配布した
宮司の指南書でその神殿で呪いをかけると確実に成功する
その噂は一気に広まり、毎日のように丑の刻詣りの予約が殺到すしているという
「で、本当に効くんですか？」
リリタンの質問に
「まあそれは個人の感想ですから。しかし全国から感謝の手紙やメールがたくさん来ています」
画面にたくさんのお礼の手紙が写る
「では神田に行きましょう」
敷地内にあるプレハブの建物に案内する宮司
しめ縄が飾られたドアを開けると
「うわー！凄い数の藁人形！」
所せましと並ぶ釘を打たれた人形の数々
「それだけ恨まれている人がいると言う事ですね」
「この藁人形はずっとこのままですか？」
異様な光景に心なしか部屋の雰囲気が重苦しい
「いいえ。ある程度藁人形が溜まったら釘を抜いてお祓いをしてお焚き上げをします」
「釘は？」
「リサイクルです」
よく見ると
『丑の刻詣りセット
祈祷付き
初穂料3万円（七日分）』
「これって神社で売っているんですね。祈祷って何の祈祷ですか？」
「悪縁の断ち切りと良縁祈願です。ここの本来のご利益です」
「へー。で、この七日間というのは御祈祷に七日間もかかるんですか？」
「いえ、丑の刻参りというのは七日間行わられます。最初は手足から始めて、最終日に心臓の部分を打って満願成就となります」
「そうなんですね」
「詳しい作法はここでは話せませんが、皆さん七日間祈願されています」
「根気のいる作業なんですね」
「それだけの覚悟が必要とします。それだけ恨みの力が強いのでしょう」
そして画面が変わりリリタンの顔が現れる
「宮司さんの話によると、今夜七日目の丑の刻参りを行う人が来るそうです」
時刻はそろそろ深夜の1時
俗にいう丑の刻だ
「あ、何か下駄の音がしてきました」
リリタンが小声で喋りながら物陰に隠れる
カラコロと下駄の音をさせながらしろ装束の女が現れる
顔を朱に染め、胸には鏡をぶら下げ、頭には五徳を被り
蝋燭を立てている
口には櫛をくわえていて
ー呪いかけにした人キター！ー
ー顔赤いー
ーコエーー
「ザ、丑の刻詣りですね」
ーてか、丑の刻参りって他の人に見られたらヤバいんじゃね？ー
ー殺されるって聞いたけど？ー
丑の刻参りに詳しいユーザーがリリタンに逃げろと忠告する
「そうだねー。でも私は突撃系ユーチューバーリリタン！この程度の危険は想定内です」
敬礼し、突撃していった
ーマジかwwwwwwwー
ースゲエwwwwー
ー大草原wー
ー洒落にならないから逃げろってー
ー命を大事にしろよー
盛り上がるユーザーと逃げろと言うユーザーに分かれる
「大丈夫大丈夫。宮司さんにもこの取材の許可を貰っているから。ではいっきまーす！」
そのまま走り出す
「おはおは〜！リリタンだお〜！」
「ぎゃー！お化けー！」
丑の刻詣りの女性が悲鳴をあげ腰を抜かす
ー丑の刻詣りの人にお化け扱いされとるwwwwー
ーリリタンお化けだおwwwwー
「ちょっとー！私お化けじゃないんですけど」
「あ、人間？」
腰を抜かしていた女性が立ち上がる
「ごめんなさい。こんな時間に人がいるなんて驚きました」
笑う女性は顔を朱色に染めてはいるが綺麗な顔立ちで
ー美人だー
ースゲー朱色美女ー
女性の容姿にさらに盛り上げる
「あ、もしかしてリリタンですか？突撃系ユーチューバーの？」
女性がリリタンの顔を確認する
「そうでうよ。私がリリタンです」
「きゃー！本物？可愛い！顔ちっちゃーい！」
リリタンがユーチューバーだとわかると途端に違う悲鳴を上げる
「私初期の廃遊園地に突撃から見てます」
ーおお、意外なところで古参のユーザーがー
ーチースパイセンー
更にユーザーたちが盛り上がっている
「ちょいちょいちょい。今日はファンの集いじゃなくて突撃系取材だよ」
リリタンが咳払いをし、女性に向き直る
「お姉さんは何故丑の刻詣りをしようとしたんですか？」
「あ、はい。でも時間が限られているので先にやってきても良いですか？」
「あ、そうですね。釘打ちタイムがありましたね。いってらっしゃい」
お姉さんの釘打ちタイムが始まり
プレハブから釘を打つ音が聞こえてくる
「お姉さんもこんな夜中にあんな格好で大変ですな」
プレハブの外のベンチに腰掛け、しみじみと語る
ーいや、リリタンの格好も大概ー
ーあのお姉さんも悲鳴をあげていたしなー
ー丑の刻詣りの女もビビるリリタン最恐だおwー
そんな雑談をしていると儀式が終わったのか女性が出てきた
「お姉さんおかえりなさーい」
ーおかえりお姉さんー
ーお勤めご苦労様ですー
「お待たせしちゃってすみません。で、何をお聞きしたいのですか？」
「お姉さんの丑の刻詣りの動機です。ここまで衣装なんかも準備してこんな時間に行くって勇気もだけど、根気が入りますよね？」
「衣装は通販で揃えて、釘と藁人形は神社で買いました。そして、呪いたい相手は元婚約者です。というか結婚詐欺の同僚です」
彼女の話によると
彼女は先月までとある会社に働いていて、同じ会社の社員と付き合っていた
その社員は他県からの単身赴任で、婚約までした
しかし、その婚約者の妻を名乗る人物から不倫の内容証明が届いた
実はその社員は既婚者でありながら彼女と婚約をしていたのだった
騙されていたことを証明し、逆に結婚詐欺で訴えた
しかし、証拠に欠け彼女は彼の妻に’慰謝料を支持払うハメになった
会社の同僚からも不倫女と罵られ
両親からも他人の家庭を壊した親不孝者だと親子の縁を切られた
「私が婚約指輪をもらったことを知っていた友人ですら私が不倫をしたと思い込んで、誰も味方になってくれませんでした」
ーひでーな！ー
ー飛んだゲス野郎だー
ー家族は信じてやれよー
ーこんな良いお姉さんを騙すなんて酷すぎるー
ユーザー達もお姉さんの味方で
「なので彼を呪うことにして、今日で満願成就になりました」
ーおめでとうー
ー不倫最低野郎に天罰が下ったなー
ー下ってなかったら俺もやるわwー
ーいや、やる気ねーだろお前wー
コメント欄を見たお姉さんが涙を拭いながら笑う
「皆さんありがとうございます。顔も知らない方達の方が優しい」
「お姉さん、今日は取材に答えてくれてありがとうございます。お姉さんのお願いが叶うと良いですね」
バイバイとてを振るリリタンに
「リリタンも皆さんも今日はありがとうございました。バイバイリリタン」
お姉さんも手を振り神社から去っていった
「今日も思いがけず凄い取材になっちゃいました。不倫野郎は許せませんね。皆は不倫なんかしちゃダメだよ。じゃあ、また次回の突撃もお楽しみに！バイバイ」
とリリタンは配信を終えたが次回は無かった
1週間後
リリタンは亡くなった
Xでリリタンの家蔵を名乗る人がリリタンが心臓発作で亡くなった事を公開した
人気のユーチューバーの突然死にネットニュースではたくさんのお悔やみコメントが上がった
最後の配信となった動画にもお悔やみコメントが上がったが
そのうちの1人がおかしなコメントを残した
ーリリタンとお姉さんが話している所よく見てみろー
ーお姉さんの手にある藁人形が2体あるなー
ー婚約者だったゲス男とその嫁とか？ー
ーいや、それより前巻き戻してお姉さんの動きに注目してみろー
リリタンに触っていたお姉さんがリリタンの髪を抜いていた
それを藁人形にそっと仕込んでいた
ー丑の刻参りって見られたらダメって言ってたよなー
ーじゃあリリタンは丑の刻参りを見ちゃったからお姉さんに？ー
その後例の神社に行ったユーザーの1人がリリタンのXにこんな動画を載せた
例の神社のプレハブを見学しにきたゆーざーが中の藁人形を写す
沢山の藁人形には名前が貼っている
勿論名前にはモザイクがかかっている
そのうちの１つモザイクなしの名前にリリタンのものがあった
藁人形の心臓部分には無数の釘が刺さっている
ユーザーの息を呑む音がして
「ちょっと気分が悪くなった。ごめん。もう出る」
外に飛び出し画面がブレる
焦っていたのか風景が回る
その時一瞬写った人物
顔を朱色に染めた白い着物の女
心なしかその人物は嬉しそうに笑っていた
終わり