夜間警備番外 東京急襲編
東京駅
日本の首都東京の主要駅
駅内には新幹線、在来線が混在し、広い敷地内には地下地上合わせて飲食店、土産物店、キャラクターショップが設置されている
駅敷地内だけでショッピング、食事と楽しめる
隣接する百貨店も含め、1日中居ても退屈はしない
しかも人混みも半端なく、様々な人種は勿論、全国から人が集まり、毎日がイベント状態だ
だが人々の往来には法則でもあるのかと思うほどに規則性がある
「噂に聞いていましたが凄まじい人口密度ですね」
キャリーケースを押しながら先輩に話しかける
「だな。修羅駅も似たような混雑具合だが、東京の方が若干上品だ」
先輩の言う通り、昼間から酔って大声で笑う酔っ払いとか、ヤクザばりの方言で喚き散らして警察に取り押さえられる現場の側を素通りする一般市民も見当たらない
「まあ、1日2日じゃ分からない部分もあるだろうが」
私と先輩は警備会社の研修で東京に来た
「仕事とはいえ若い娘が東京だなんて大丈夫なの?」
東京に行くと両親に伝えると案の定心配された
我々九州の人間にとっては東京は大都会かつ危険な場所というイメージが定着されている
東京に行く前に大阪で慣らしていけとも言われる
「先輩と一緒に行動するし、新宿とかには行かないから」
「それにしても東京研修だなんて。修羅の国でできないのかしらね」
ぐちぐちと言い続ける母に
「母さんが心配するからこまめに連絡はしなさい」
と面倒くさそうにいう父
「まあミニゴリラに手を出す命知らずはいないだろう」
余計な一言も忘れない父に少々腹立ちを覚えた
「そろそろ約束の時間だから待ち合わせ場所に行こう」
エントランスで私たちを待っていたのは、優しげな中高年の男性と右目に眼帯をつけた妙齢の和服の似合いそうな黒髪の女性
「東(あずま)さん、京(みやこ)さん、ご無沙汰しています。こちらは新人の搏田です。搏田、こちら修羅の国警備の東京支部の支部長の東さんと、主任の京さんだ」
「初めまして搏田です」
お互いに挨拶する
「所で京さんの眼帯は?」
疑問に思い聞いてみると
「ああ、ものもらいです。結構腫れているから眼帯をしています」
右目を抑えた京さんに、私はバッグから飴玉を出した
「祖母がものもらいは他人からものをもらったら早く治るとききました」
東さんにも渡す
「ありがとうございます。早速案内をさせていただきます。その前に、注意事項として危険物の持ち込みは禁止となっています」
「あ、2泊だからナイフなどは持ち込んでいません」
そう答えるも2人はその場に立ったままで
「修羅の国では標準装備かもしれませんが、
ロケットランチャーは危険物に入ります」
「持ってません」
「修羅の国のニュースでロケットランチャーの落とし物が」
「おとしものじゃねえ」
「後、手榴弾‥」
「持ってねーわ」
この人たちにとって修羅の国はどんだけ危険区域なんだ
「今回の展示は江戸時代の細工ものです。江戸時代は独特の文化も生まれた時代です」
展示室にはよく見る浮世絵の他に、細かい細工の染め物の型や、リアルな造型の動植物
「先輩の好きなカエルのおもちゃもありますね」
「大嫌っいだわ。それにこれは香炉だ。おもちゃじゃねえ」
我々のやりとりを眺める東さんと京さん
「この染め物の型紙なんかすごいですね。雲の糸が細かい」
レース編みのような細かい細工
「この時代にはハサミも機械もないから小刀などを使ったのでしょうね」
東さんの説明に
「これが出来るってことは、よほどの集中力か、変態ですよね」
どうみても途中で挫折しそうな作業ができるなんて集中力が途切れないか、ドM位だろう
「変態言うな」
「版画もそうですけど細かい彫刻技術が必要とされてますから変態でないとできませんね」
京さんも私に同調してくれる
「コラコラ。手先が器用と言いなさい」
東さんも嗜めてくれる
「こういったっものはあまり評価は高くないが、日本の文化の象徴でもあると私たちは考えています。日本の国外問わず、人類の文明史を護る我々の業務は重要なものなんです」
研修の目的でもある文化時の保護
「そういえば修羅の国警備って博物館とか美術館の警備専門でしたね」
「ちゃんと覚えていたか。美術専門警備だからこそ、文化財への理解と最低限の知識が必要になります」
いつの間にか研修ぽくなっていた
「責任感重大だよね。ものによっては億を超えたり、レプリカでも相当な値段だし、何より信頼関係が大事になるからね」
さりげに東さんが値段お話をしてくる
さりげなく置いてあるレプリカが数十万とか
「他にもとあるモノノケ君が美術品を動かしたりね?」
京さんがさりげなく先輩を見ると先輩は小さくなる
「俺のせいじゃないんですけどね。と、これを見たかったんだよな」
先輩が指差したもの
鳥籠に入った
「小鳥の剥製?剥製も美術品になるんですか?」
「いやこれも細工ものだ。からくり人形でネジを巻くと鳴いていたとか」
「へぇー。鳴いてる姿は見られないんですか?」
これだけ精巧な小鳥が作れるのだからきっと鳴いている姿も本物そのもだと思うが
「それがないのですよ」
「壊れる危険性があるので不要に触れることができませんので」
困ったように笑う東さんの首が少しズレたように感じた
「東さん?」
思わず声をかけると
「はい。どうかされましたか?」
先程ズレた様に感じた東さんの首はしっかりとくっついていて
「搏田さんお疲れですか?」
京さんも心配そうに見つめる
「新幹線で5時間の移動でしたから。少し休憩しても大丈夫ですか?」
先輩の提案により、警備室で休むこととなった
トイレを借りて警備室に戻りドアを開けようとすると、先輩達の声が聞こえてきた
「東さん、気を抜いちゃダメでしょう」
「すみません。思った以上に可愛くて孫みたいな気分になりました」
「彼女は怖がりなんだから気をつけないとダメでしょう」
先輩と京さんが東さんを叱りつけている
入り辛い雰囲気にドアの隙間から様子を覗く
空中に浮かぶ生首に、右目が腫れ上がり口から血を流す青白い女の幽霊
「ヒュッ!」
思わず息を呑む
人間のままでいる先輩は気づいているのか、平気で話している
「これで搏田に逃げられたら東さんのせいだと俺は修羅の国支部長に報告せざるを得ません」
先輩の話をせに受けながら展示室に戻る
取り敢えず深呼吸して落ち着こう
「まさか私東京の洗礼を受けている?」
東京は怨霊の吹き溜まりだからきをつけた方が良いと霊媒師でもある潮来君が言っていた
先輩は悪霊に取り込まれたのだろうか?
だとしたら一刻も早くここを抜け出さないと
彼らに気づかれないように出口に向かうと
「ピルルルルルッ」
鳥籠のカラクリ鳥が突然鳴き出した
「嘘‥モノノケ先輩の嫌がらせ?」
「なんか鳥の鳴き声がきこえました?」
「またモノノケくんの仕業ですか?」
先輩達がこちらに来る
私は立ち上がり逃げようとするも、浮世絵からぬけだした武士が刀を構えてこちらに向かう
「あわわわわ‥」
逃げようとした私の足に何かが絡まり、私は床に倒れた
振り向けば地面から生えた手が私の足を掴む
「離して!」
私の足を掴む腕を蹴るも手はびくともせず
武士がそのまま刀を振り下ろそうとするが
「ワシの大事な客人に何をする!」
雷のような怒声が響き渡る
ビリビリと空気が震え、地面が僅かに揺らぐ
「ここはワシの納める土地。ここでの無礼は許さん」
生首のみとなった東さん
「搏田さんから離れなさい」
青白い顔の京さんが私の足から手首を引き剥がす
「搏田無事か?」
腰の抜けた私を支えながら先輩が私を庇う
「せ‥先輩‥なんなんですか?お化け祭り」
震えながらも声に出す
「潮来から聞かなかったか?東京は怨霊の吹き溜まりだと」
「聞きました」
「そんなアクの強い東京の怨霊どもを抑え込める力量が警備員にも求められるんだ。なので我修羅の国警備会社の人材は人種も種族も性別も身長すら問わない」
「つまりはここの警備会社も変態の集まりということですね」
「そうだな」
「改めて搏田さん、驚かせてごめんなさい」
生首と幽霊が謝罪する
「いえ、こちらこそありがとうございます」
お互いに頭を下げまくる
「研修は本日のみなので明日は観光を楽しんでください。帰りのお際は気を付けて」
翌日
「観光ついでに寄りたい場所がある」
先輩と一緒に観光地を巡りつつ、ある神社に向かう
四ツ谷
閑静な住宅街の中に溶け込んだ神社
「お岩稲荷だ。四ツ谷怪談で有名な幽霊お岩様の燃えるある女性、田宮岩が夫の出世を願い祀った稲荷だ。悪縁を断ち切り、良縁を結ぶと言われている」
敷地内には結婚相談所の看板もあり
「何か冗談みたいな看板ですね」
「縁結びだな」
次は地下鉄の大手門で降り、ビル街を少し歩くと開けた空間に祀られた墓石の様なもの
「まさもん塚?」
「将門塚(しょうもんづか)だ。通称首塚。東京を守護していると言われている。平将門(たいらのまさかど)という人物の首が収められている」
敷地内に入るとそこだけが空気が違い、無意識に緊張するも優しい雰囲気で
「サラリーマンの守護者でもあって、単身赴任でも無事に東京に帰るというジンクスがある
そして将門塚付近のビルでは絶対にこの塚に尻を向けない様にしている」
ふたりで頭を下げる
「これで研修は終わりだ。明日は無事に帰るのみだ」
お土産リスト見ながら駅に戻る先輩の背中に
「絶対辞めてやる」
求人に節操なさすぎだろこの警備会社
終わり
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