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もう一人の拝み屋に出会った話 前編(実話怪談)

この話は大分県で行われたあめや怪談会で語った座敷童の話を読んでから読んで下さい


12月、大分での怪談回後激しい疲労に見舞われたのでしばらくは実話会談を書くのをやめようと思っていた
兎に角神様系は体力気力を削られる
ましてや特殊な神様の話だったせいか、普段よりもその疲労感が酷かった
しかし語って欲しい神様もいるのか、こういう機会が訪れた
年末に正月用の酒と普段お世話になっている拝み屋にお歳暮として日本酒を買って拝み屋に連絡した
拝み屋は予約制の鍼灸あんま院を経営しているので他のお客さんに迷惑をかけないように必ずアポを取っていた
普段は昼休みなどにきて欲しいとのことだったが、今日は朝からで
不思議に思いながらも拝み屋の家に行った

拝み屋の家の前ではお客さんが拝み屋と何か話しているようだった
まだ来客中じゃないかと思い引き返そうかとしたら
「待ってたぞ。こっちに来い」
と呼ばれた
拝み屋のそばにいたのは二人の男性
一人は優しそうな風貌の体格の良い中高年男性と細身の若い男性
「これ、俺の兄さん」
いきなり指を刺さす拝み屋に中高年の男性が指を叩く
「お兄さんがいたのね。しかも似てないね」
正直な感想を述べると
「ばか、こいつは赤の他人じゃい。これは座敷童の時の‥」
そこで改めて彼が噂の拝み屋の兄弟子の田口さん(仮名)だと分かった
隣にいた若い男性は手話通訳のボランティアの方だった
改めて頭を下げ、スマホのメール機能で挨拶をした
田口さんはうんうんと頷き、手話で何か話していた
私は手話ができないので、一緒にいた若い男性が通訳をしてくれた
「初めまして、あなたのことはそこのアホから聞いています。妖怪に詳しい人とか」
兎に角何を話しても黙って聞いてくれる人だと話していたそうで
吐き出したいことがあるということだった
私はこのサイトで拝み屋の話を書いていること
聞いた話は怪談として書くことを説明した
「それも大丈夫です。ただ、俺は拝み屋は引退しているので、俺が住んでいる場所や依頼人の住所や名前が知られないようにしてくれたらなんでも書いて良いです。例えば俺が福山雅治に似ているとか、斎藤工に激似とか」
という冗談も交え、田口さんに気になっていることも聞いてみた
まずは田口さんの除霊方法
田口さんは神様から目を借りているので、取り憑かれた人には黒い影が張り付いているそうで、その影がもがき苦しみ、助けを求め、生きている人間に張り付いているのが見えるという
「あの人達(霊)は恨みつらみなどが張り付きます。磁石が砂鉄を集めるような状態を想像してください」
そこで田口さんはその霊から黒いものを引き剥がして、本来の姿に戻すという
実際に行ってくれた
私では異性なのでセクハラになるからと、モデルは拝み屋
背中を拳の背で軽くノックするように叩く
見た目は軽く叩いているようだが、魂の方では握り拳で激しく叩いているという
その時には自分が考える最強の仏像の姿を思い浮かべ、その仏の力を借りる
主に不動明王や愛染明王などの武闘派の仏だそうで、それで普通の霊は綺麗な姿になり、成仏する
しかし、時にはサイコパス殺人犯のように悪意そのものが黒い影として取り憑くこともあるらしい
そういう時は黒い影は粉砕され跡形もなくなる
つまりは除霊というよりも浄霊や浄化に近い技術と思われる
そしてこのノックのような実演中、拝み屋は
「うわあー!いたい!あー痛い!」
とわざとらしく叫び悶えていたので田口さんに殴られていた
「これ(拝み屋)は悪ふざけばかりするからご迷惑をかけます」
と謝罪された

そして気になっていた鬼の家と呼ばれた山田さん(仮名)
https://note.com/kudan2022/n/nfeab40b7de9c


たった一人の人間に一族が呪われ続けている話だが、この話の時に田口さんが関わっていないことが不思議だった
「あの時は俺はじいさん(拝み屋達の師匠)と俺が喧嘩していたから俺に頼りたくなかったんでしょう。俺は拝み屋の仕事で金をもらうのがじいさんは嫌っていましたので。それがなくてもこの仕事は断ります。あれ(拝み屋)が返せない呪いなんて見るだけでも嫌だし、呑み込まれたら俺が死ぬ」
なるほどと納得していると話題は座敷童の話になった
田口さんは表立って拝み屋を辞めていたが、それでもあの家から依頼が来ることがあった
会社経営を行っている以上嫉み恨みも浴びるし、後ろめたいこともある
なので秘密裏に拝み屋や占い師を頼る企業もいる
しかし、田口さんは断り続けた
「あの家の家族が嫌いなのもあるけれど、大人の座敷童から忠告を受けた」
夢枕にあの殺された長男が現れたという
先代の座敷童に奪われた頭の中身は元に戻され、引き継ぎをされ、今は長男としてあの家を支えてはいるとのこと
「やはり家族の情もあるし、今まで自分が何不自由なく育ったのもあのワラシ様達のおかげだから」
と語った
「あなたは無関係の人間だからあの家の人間の頼みなんて聞かなくて良いです。むしろ引き摺り込まれる」
大人の座敷童が言うには、あの家の人間達が田口さんに頼りたいことは呪詛が絡んでいるという
「あの家の人間は今、原因不明の痒みに悩まされています、それは背中に無数の虫が住み着いているから」
座敷童が見せた光景には、あの家の家人の背中の皮膚の下におぞましい虫達が蠢いている姿
「私が今は押さえているから、今はかゆみだけで済んでいる。いずれ虫は取り除いて誰かに押し付けないといけない」
「それって無関係の人間にですか?」
田口さんが尋ねると
「いいえ、あの家族によくない影響を及ぼす物です。同じ穴の狢といった関係でしょうか。あなたは良い人だから巻き込みたくない。だからもうあの家に関わらないで下さい。私の力が及ばなくなったら、その虫は身近な人間を見境なく襲います」
そう警告を受けた田口さんは連絡を断ち、会社側にも連絡を回さないでほしいと頼んだ
「たかが一社員の言うことだけど、会社側は聞いてくれました。取引先ではありますが、社員のプライベートまで売ることはしません」
大きく成長した会社故に恨まれることもあるし、妬みも半端ではないだろう
ましてやリーマンショックやコロナの影響を受けながらも成長し続けた大企業ならば
だが、座敷童はそれだけではないという
「あの家は生贄を無理に作りすぎた。子をなくした母親や、周りの神様がおとなしくその事実を受け入れるわけがない」
つまりは理不尽な神様の交代に怒りを覚えるものもいるのだ
愛する我が子を突如奪われ、神様になったと言われても納得できるわけがない
その念が凝り固まり、呪詛として降りかかる
「座敷童の役割にはそういった呪詛からも守る大事な役目があるのでしょうね」
田口さんはそう締めくくり
私もお礼にと自分用に買っていた日本酒を差し出すが
「すみません、僕は下戸です」
と断られ
「もう一つ、呪いの神様って見たことはありますか?」
と話だした

後編へ続く

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