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呪物に魅了された拝み屋 実話怪談

パンドラの箱という有名なギリシャ神話がある
神の火を盗んだプロメテウスが神から与えられた人類最初の女性パンドラ
決して開けてはいけない禁忌の箱を好奇心に負けて開けてしまった
そこからは病気や戦争といった災厄が溢れ出たという
現代においても呪物や封印したものを開いてしまったという事象が起きている
何故そうしてしまうのか?
封印を解いてほしい悪霊が自分を封印しているものを魅力的に好奇心を持つように導いていると考えていたりもするが、それには好奇心を持つ人間の心も必要となるのだろう

知り合いの拝み屋は全盲で、生まれつきらしく物心がついた時から見えないのが当たり前で、物は便利道具だったり、必要なものにしか興味を持たない
娯楽はテレビ番組や落語
テレビ番組は主にトーク番組などを聞いたりするそう
そして呪物に対する扱いが酷い
とにかく怪しい物は焼却に回そうとする
「いちいち物に執着するから落としても戻ってくる。戻らせようろする。だからパッと燃やした方がいい。祟りとか気にするなら俺以外のやつに頼ればいい」
時にはそれが呪物だと思い込み、自分に呪いをかけるパターンもあったという
「嫌ならとっとと燃やせ。未練を持つな。俺もそれで失敗した」
拝み屋がまだ師匠であるご隠居のもとで修行をしていた頃
目が見えないからものの価値もわからないから盗まれる心配もないし、物に対する恐怖もないだろうとご隠居の元に呪物が持ち込まれていた
かなり失礼な話だが、ご隠居は全部を鑑定し除霊できるものとできないものに振り分けていた
その作業を拝み屋も手伝わされていた
物についた呪いをそのまま消す作業は正直拝み屋は面倒臭いと思っていた
目の見えない拝み屋に取っては無価値なもので
「とにかく臭かった」
と言う
物に対する人間の執着や想いが臭いとなってこびりつき
それを乱暴に触る拝み屋たちへの敵意となって襲ってくる
「ある意味呪いだなありゃ」
とは拝み屋
その呪物たちの匂いにうんざりしつつ放り投げていたが、そのうちの一つに惹かれた
その呪物は桐の箱に入った櫛で、持ち主が手放したいといった物だった
「それはもう捨てるから欲しいならやる。だがお前どこに使うんだ?」
普段から坊主頭にしている拝み屋に女性向けの装飾用の櫛はまさに無用の長物
花柄も描いてはあるが、拝み屋は見ることもない
「いいじゃねえか。俺はこれが気に入ったんだ」
櫛からは執着の嫌な匂いはしない
むしろ女性独特の良い匂いがしていたという
「何か手触りも良くて懐にいれて仕事もしていた」
夜は枕元に置いて寝ていたが、その日から拝み屋は不思議な夢を見るようになっていた
夢の中であの櫛らしきものを頭に飾った綺麗な女性と一緒にいる夢だ
目の見えない拝み屋はこれが皆が言う物が見えると言うことかとなぜか納得した
しかも夢の世界では自分の目が見えるという異常な光景を当たり前のように受け入れて、彼女の夫として生活していた
幸せな夢を見させてくれるこの櫛は呪物ではなく幸運の宝物だ
そう思い込んだ拝み屋は肌身離さず持ち歩き、寝るときは枕元に必ず置いていた
しかし
「按摩さん、顔色が悪いよ。しかも体重が異常なくらいに減っている」
体重測定をしていたなじみのヘルパーさんに心配された
付き添いの人にも説明がされ、病院に行くと栄養失調と診断された
拝み屋はいつも近所の人や付き添いの人に食事を作ってもらい、三食きっちりと食べている
同じ物を食べているご隠居は健康状態に異常はなく、拝み屋のみが点滴を施された
「ただでさえ痩せ型なのにこれ以上は骨と皮だけになってしまうよ」
と主治医医に冗談まじりで怒られたそうで
「俺は特に断食なんてしなかった」
と釈明した
付き添いの人から見ても普段通りに食事をとっている拝み屋の姿を見ているので、何が原因なのか不思議になっていた
「お前ー、ちょっとあの櫛どうした?」
特に原因のない突然の拝み屋の栄養失調にご隠居が櫛が原因ではないかと疑った
「じいさん、物は祟らんよ」
普段から言われていたセリフを真似する拝み屋に
「物は祟らんが人間は祟る」
といって懐の櫛を取り上げた
「これはうまく化けたもんだ。お前ー触ってみろ」
ご隠居が何かを呟き、再度拝み屋に櫛を渡すと
「うわっ!」
と声をあげて拝み屋は櫛を落とした
あんなに芳しい女の匂いがし、しっとりとした肌触りだった櫛は異臭を放ち、粘ついたコールタールのような気持ち悪さを生み出していた
「こいつ俺達に隠れてコソコソとしてやがった」
ご隠居いわく悪霊が自分の姿を隠すために辺りを漂っていた浮遊霊を使い、自身をコーティングし、油断させていたとの事
「もっと歳をとったお前なら騙されなかったかもしれんが、俺たちも舐められたもんだ」
ご隠居は大きく深呼吸をし、歌のようなものを唱え始めた
(ああ、こいつは張り手がくるな)
そう覚悟した拝み屋は目を瞑り衝撃に耐えようとするが
「ああ、これはダメだ」
ご隠居の残念そうな声が漏れる
(じいさんもダメか)
諦めて体の力を抜いた瞬間、背中に激しい衝撃を喰らった
まるで自分の魂ごと吹き飛ばされるような衝撃
拝み屋は衝撃にしばらく放心していたという
「安心しろ。奴は吹き飛んだ」
というご隠居の声で拝み屋は正気に戻った
「お前、俺に叩かれるからって意識するな。相手も警戒するだろうが」
わざとフェイントをかけたというご隠居に抗議をしたかったが疲れて声が出なかった
「かなり厳しい相手だと思っていつもより気合を入れたんだが、お前に世話になった神様たちが力を貸してくれて粉砕できた」
豪快に笑うご隠居に拝み屋は文句を言いたかったが、その場で失神してしまった

それからあの櫛は寺に持っていき、お焚き上げをしてもらったとの事だった
「俺はじいさんみたいにお祓いなんてできないからな。じいさんが死んでからは物を預かって供養なんてしてない。すぐに捨てるようにしている。ものの価値なんぞ知るか。俺は目が見えないからな」
そう笑う拝み屋に一番気になったことを聞いてみた
「やっぱり除霊の時の歌って聖子ちゃん(松田聖子)?」
ご隠居は除霊で精神を集中させたいと子は歌を歌っているといっていた
「俺も気になって聞いてみた。聖子ちゃんか百恵ちゃん(山口百恵)かおニャンコか?」
そうするとご隠居は不機嫌そうに答えた

「静香ちゃん(工藤静香)だよ。そんなんでも知らんのか」

ご隠居のアイドル好きにも驚かされるが、呪物の騙すテクニックも元人間なだけあって小狡いと感じた

「まあ騙された悔しさとか恐怖もああるが、一生見えんものを見せてくれたことは感謝している」
そういった拝み屋は少し寂しそうだった


終わり

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