言葉にする力のウラオモテ
中学くらいから、考えていることはなるべく書き起こすようにしてきた。
今は、ライターを生業としているし、人よりは自分の考えをうまく言語化して伝えられると自負している。
基本的に、言葉を尽くせばかなり正確に考えや気持ちを伝えられるし、相手と通じ合うにはそうする以外にないとさえ考えていた。
しかし、それはあまりに安直だったというのが今思うことである。
前々からも思ってはいたのかもしれないけれど、ある出来事を経たせいで、今じゃその深度が違う。
僕が育ててきた「言葉にする力」は、詳しいことは今は書けないものの、もっとも大切な人に、かんたんには癒えない傷を残してしまったのかもしれない。
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『「言葉にできる」は武器になる』という本が売れている。
その通り、言語化する力は強力な武器である。
しかし、一般的な武器と違うのは、
ひとたび携帯したら、体の一部になってしまうということだ。
そのおかげで、たとえ貧しくても、物理的な自由を拘束されても、人の心を動かすことができるのだが、良い側面ばかりではない。
強い力を持つ者は、どうしてもそれを使う誘惑にさらされてしまう。
思うことを伝える快感を知っているから、口を開くと止まらないし、書き始めるとハイになる。ちょっと面倒なやつになる。
それくらいならまだいい。かわいげがある。
問題は、激しい感情、ネガティブな感情に頭を支配されたときに起こる。
普段はやさしく、慎重に言葉を選んでいる人でも、感情的になるときはやっぱりある。イラッとしたり、不安になったり、義憤に駆られたり。
そういうとき、つい言葉を攻撃に使ってしまうことがある。
言葉にする力をフルで動員して「あなたの方がおかしいんじゃないか」と自分の論理を説明してしまいたくなる。
それは、説明のつもりでありながら、要するに「あなたが間違っている。反省すべきだ」と迫っているに過ぎなかったりする。自分がそう思っていなくても、相手がそうとしか受け取れない説明をしていることもある。
言語化が巧みであるほど、相手が話を真摯に聞こうとしてくれているほど、打ちのめす力は強烈になる。相手はその言葉に囚われてしまう。自分の存在価値すら信じられなくなってしまうかもしれない。
相手をそんな風にしてしまうのが、まったく本望ではなくても。
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自分の正しいと思うことを言葉で説明して何が悪い。
あんただって今しているじゃないか、と言われたら弱る。
だけど、あえて言わせてもらうと、そもそも説明とは一つの手段でしかない。(だよね?)
説明しようとする最終的な目的は、たとえばお互いがもっと安心して付き合える関係を目指すことであったり、相手にこちらの事情を知ってもらうことで歩み寄ってもらうことだったりする。
そういった目的のための一つの手段が「言葉で自分が正しいと思うことを説明する」というだけのことで、最善でも唯一でもないことは実はよくある。
そもそも、説明にはどうしようもない弱点がある。
考えてもみてほしい。
もし僕が「いかに自分がかわいくて、愛くるしい存在か」をすごく精密で遠大な論理で説明できても、一匹の猫の赤ちゃんを連れてこられたら絶対に敵わないだろう。
それから、僕と一緒にいても全然楽しくない人に「どんなにあなたを思っているか」を伝えても、好きになってもらうのにさほど効果はないだろう。原因は、話す内容以外にたっぷりとあるはずだ。
つまり、いかに「自分の話に耳を傾けるべきか」語っても、それだけでは相手が動く理由にはならない。相手の感性が変化することもない。むしろ、モノを見せたり、行動で示した方が伝わる場合が多い。
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まとめると、言葉で伝えられることなんて、かなり限られているし、理屈っぽい説明で心を動かされる人はむしろ珍しいということになる。
それでも、言葉はやっぱり必要不可欠だし(これを読むあなたが文字を見ない日なんて多分ない)、誰かを救うことだってある。
僕のnoteを読んで自殺を辞めたという人がいて、その方から先週手紙をいただいた。詳しくは書けないけど、僕の文章を読んで生きる意味を見出したとまで書いてくれていた。
震えるくらい嬉しかったし、そういう暖かな方向で力を発揮できるような文章をこれからも書きたいと思った。書いて、世に出すときには、「誰かに響け〜」と祈りを込めようとも思った。
祈りに効果があるかは知らない。けど、それくらい真摯でありたいと少なくとも今なら、あなたの目を見て言える。
ただ、問題なのは感情的になった時なんだよね。
身近な人を傷つけないためにどうすれば良いか。
僕がまたやらかさないために。
黙って、言うことの影響を考える。何が最終的な目的か考える。説明する以外の手段から検討する。10秒以上一気に話さない。言葉を区切って、相手の反応をしっかりみる。今言うべきか考える。
これらを守って接してみようと思う。
とりあえず、寝室の壁に手書きして貼っておく。
最後に。
言葉が大砲なら、目の前の人を守るための武器としてか、多くの人の顔を上げさせ、目をキラキラさせる花火として使いたい。