どうしようもない自分の無力さを知ったとき、優しくなったりする
小学一年生の時、ペルテス病という足の病気で手術をしました。
病に侵されていた足の付け根あたりの骨を切り取り、かわりに鉄のボルトを入れる手術です。術後痛みが引かず、数日は泣き叫びました。
この病気のため、僕は小学生の間のほとんどを車椅子か松葉杖で過ごしていました。
面白いことに、あの頃の僕が今の次くらい人生で一番一生懸命誰かのためにいろいろやっていた時期な気がするのです。
一人じゃ歩くことすらできないし、とにかくできることは限られるけれどもなんとかして家事を手伝ったり、友達の作業を手伝ったりしていました。
人間不思議なもので、自分の身体が弱っている時って信じられないくらい人に優しくなれるんです。
申し訳なさと配慮
考えてみました。
あの頃、僕は一日中(学校でも家でもとにかくどこ行くときも)、1人ではまともに動けませんでした。なにげない生活の中に、実は思いの外段差や勾配が多くて、家の中でも外でも、車いすでは思うように移動できないのです。トイレだって一苦労でした。
そんな移動すらまともにできない僕を、クラスメイトやヘルパーの先生、母や親戚など必ず誰かがそばにいて支えてくれたのを覚えています。
さて、そんな状況で僕は何を思ったか?
申し訳ない。自分はただ日常を過ごすためだけに常に人に助けてもらう必要がある。
しかも僕の側はほとんどなんにもしてやれない…。
明らかに僕ばかりがいろいろ与えられ過ぎています。にもかかわらず、彼らは僕が少しがんばろうとすると、「無理しないでいいよ」という声までかけてくれます。なんてことだ…。
それだけじゃありません。無償で与えてもらってると感じることが山のようにありました。
段差が少ないバリアフリーな場所に行くとそれだけでめちゃくちゃありがたかったですし、エレベーターを作った人を神かと思いました笑
再び歩けるようになった時には「なんてありがたいことだ!」と思いましたし、まだ速くは走れない僕を運動会でリレーに混ぜるのを許したクラスメイト達の言葉(「りょーやも一緒にやろう」)に涙しました。
人間いろいろ与えてもらってることに気づくと無性にできる限り人の役に立ちたくなります。お返ししたくてたまらない。
当時は「強くなれなくてもいい、もっと優しい人間になりたい」と強く願いました。
僕が話を聴けば相手の悩みが晴れてきて、僕が話をするとみんなの心が軽くなるような、僕がいることが大切な人たちの心の救いになるような、そんな優しい存在になりたいと思ったんです。強くはなれないから。
この気づきと切実な願いは、僕が徹底的に弱くなかったら本当の意味で実感することはなかったんじゃないかと思っています。僕という人間はそんなに上手くできていないので。
もちろん、この経験がなくとも、
少し冷静になれば、自分は常に誰かからの支えによって生きていることは頭ではわかったでしょう。
でも、それによって自らの貢献欲をガッとかき立てられることはなかったんじゃないかと思います。僕の経験では、ですが。
たぶん人って、元気な時には自分は自分の力でなんでもやっているように思っちゃうものです。
人に助けてもらえるのも、何か手に入るのも、自分が等価交換になるような価値を相手に与えたからだとなんとなく納得してしまう。
「うわぁ、俺与えられすぎだろ」なんて実感としてピンと来ない。
だから「見返りなんてどうでもいいんだ、とにかくなにか役に立ちたい!」とか「とにかく優しい人間になりたい!!」みたいな渇望はどうしても湧いて来にくいんじゃないでしょうか。
だからと言って
僕は別に「あなたも自分1人ではどうにもならない状況に身を置くべきだ!」とか「あなたには本当の優しさなどわからない!」と言いたいわけではありません。
今苦しんでいる人に「よかったね、君1人ではどうにもできない苦痛が味わえて」みたいなことを言いたいわけでもありません。
僕は、なんとなくこういうことを書きたい、書いた方が世の中が少し優しい方向に向かいそうだなと思って書いてみているだけです。
考えとしてはむしろ、大多数の人が苦行みたいなことをしなくたって、ふつうに生きていくくらいできるような、手を差し伸べる人がいて繋がりやすい世界で僕はいいんじゃないかと思っています。
「いいじゃないですか、もっと気を抜いてふわっと生きられる世の中になっても」と思い無償で他者に与える人が少しずつでも増えたら、そんな人たちに無償で与えられた人たちも少ーしずつ増えます。
そうしたら、昔の僕が感じたみたいな内面の変化がたくさん起こって、少ーしずつ「優しくなりたい!」と真に思う人も増えて行くはずです。たぶん。
強い人がたくさん生まれるかはわかりません。でも、心から「優しくなりたい!」と願う人が増えていくような社会の方が僕は生きやすいんじゃないかと思っています。
以上、僕の自論でした。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!