気づけば「好き」に囲まれていた。  〜用語ベースの通訳と思想ベースの通訳〜

昨日の通訳キャンプは僕が好きで発案・企画したものです。その「好き」に人が付いてきてくれて、一緒に好きなことをする場所が生まれました。このような好きが高じて、今では有料で通訳を教えています。

つまり、気づけば「好き」に囲まれて生活していたってことです。

本業の通訳は、学生時代からの英語好きから来ているし、講演のお仕事も元々は塾講師のアルバイトで人に教えることが好きだというところから来ています。最近ではキャリア教育で学校にお呼びいただくこともあり、今までの通訳経験を学校という教育の現場に還元するという、非常に貴重な機会をいただいています。

高校でのキャリア教育にて通訳という仕事について話しています。

YouTubeで英語講座も配信しています。周りはどう思っているかわからないのですが、これも教えることが好きなのと、英語が好きなのと、僕のことを知っている人が僕の動画を見て、何か得るものがあればいいなと思ったところから来ています。一本動画を配信すれば何円、という損得勘定でやろうとすると、特に初期はまず続かないと思いますし、そもそもそういうところが動機ではありません。好きなことは仕事で実現できているところがあるので。

通訳の仕事で好きなのは、仕事=勉強と思えるところ。最近は大学のセミナー通訳のお仕事が増えてきました。今までは社内通訳として、会社の中でしか通用しない用語がバンバン飛び交う環境で仕事してきました。こういうのを「ツーカー的通訳」と呼んでみようと思います。つまりその用語を知っていないとほぼ対応不可能(意味を理解して訳出不可能)な仕事です。

社内通訳者からフリーランス通訳者に転向した2020年。大きく変わったのはセミナー通訳のように、通訳する為に教養が試される場面が増えたことです。社内通訳だと機密情報が多いので、常日頃から読書している内容が仕事に出るということはあまりなかったのですが、フリーランス通訳案件にはそういう仕事がかなりあることを知りました。

これは僕にとってはすごくありがたいことです。日頃から読書は好きなので、その延長線に通訳があると思えるからです。例えば去年の一大イベントだったオードリー・タン氏の通訳案件では、彼女の本を買って、読書して、単語を調べて・・・という日常生活でやっている読書がかなり効いていることを実感しました。

『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』をバイブルに、通訳に挑戦しました!(2021/7/29)

来週はRCA (Royal College of Art)というイギリスの大学が開催するワークショップの通訳をするのですが、登壇者リストに京都精華大学のウスビ・サコ学長がいました。私は興味を持ち、早速アマゾンで著書『サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)という本を買って、今しがた読了しました。

なんで通訳する相手の本を読むかというと、登壇者の思考とか哲学を理解する必要があると思うからです。ずっと社内通訳をしてきたので、業界の知識が幅広くつくことにやり甲斐を感じていた一方で、ツーカー的に用語を訳出することに一種の虚しさを感じてもいました。しかしフリーランスになると、通訳案件の性質も変わってきました。そこで大事になるのは「用語ベースの通訳」から「思想ベースの通訳」へと脱皮していくことでした。

僕は昔から熱っぽく何かを語るのが好きで、それは通訳する時にも出てしまいます。用語ベースの通訳では語るというのは珍しいのですが、思想ベースの通訳ではそれができます。できますが、登壇者の思想を先に読んで勉強していないとできない気がします。だから読書するのです。

そのあたりのことは以前YouTubeに動画をあげたことがあるので、もしご興味のある方はこちらをご覧になって下さい。

このように「好き」に囲まれて生活できるようになるまでに、10年はかかったと思いますが、その年数は人によって長くなったり短くなったりします。でも大切なのは、自分の中で「こうしたいんだ」という思いを強く持つこと。そしてその思いを絶えず発信するということです。

先日、大学の卒業生で現在はエン人材教育財団で働いている方からインタビューの申し込みをいただきました。通訳者という仕事に興味を持っている学生のインタビューに応じて欲しいということで、僕は快諾させていただきました。なぜ僕に声をかけてくれたのか聞いてみるとSNSでの投稿を見て、通訳者と聞いて僕を連想してくれたとのことです。

SNSでは自分の好きなことを投稿できますし、それをずっとし続けることで「この分野なら○○さん」というイメージを確立することができます。僕はそういうふうにSNSを活用することは、コロナ禍において非常に有益なんじゃないかと思っています。もちろん宣伝っぽい投稿はすぐバレますが、幸い私はフリーランスなので、誰かの為に宣伝するとかいう必要がありません。

これからはもっとオンラインでの活動を強化していきたいなと思っています。例えば同時通訳の仕事でYouTubeで二次使用されているものがあって、そこでは僕が同時通訳しているのを聞くことができます。満足いく仕事ができなかった時の二次使用は耐え難いですが、通訳志望者にとっては「通訳者もこういうことがあるのか」というくらいの気持ちで見てもらえるのであればいいのかなと思っています。

このYouTube同時通訳動画を使って、自分の同時通訳を実況中継する動画を作ってみようかなと思っています。同時通訳は瞬間芸のように思われているところがあって、かつその同時性からなかなか分析することが難しいと思っています。そこで同時通訳をした人が同時通訳音声を使って自分に色々とツッコミを入れていこうというワケです。

こうすることでなぜ通訳が楽しいのか、少しでも通訳者志望の方に伝えることができればいいなと思っています。

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