受講生の通訳学校の進級試験エピソード〜通訳を絶対に諦めない〜
昨日は通訳勉強会の社会人レッスンの日でした。基本的には一対一で教えているので、受講生の近況をまず最初に伺い、そこからどんな通訳力をつけていくかを相談しながら進めています。
受講生Oさんは先月、通訳学校で進級試験を受けられました。その時のことをOさんは感情たっぷりに伝えてくれました。
まず体調不良で学校を休んでしまうと、他の受講生に遅れを取ってしまい、それが焦りになってよりマイナス思考になってしまう。この時点でOさんは不利な状況で試験を受けたということになります。ですがそれだけではありません。
これがどれだけ悲惨な状況かは、通訳のトライアルを受けたことのある人でなくても分かると思います。英検の面接で4つ質問をされたけれども、ZOOMの接続が切れて3つは答えられなかった、みたいなものです。これは精神的に相当大きなダメージを食らいますよね。
ですがここでOさんの幸運が舞い降ります。
この姿勢ですよ。Oさんの負けん気は、私たちプロの通訳者も見習わなければいけないと思いました。毎日の仕事でも全力で通訳しているつもりですが、どれほど悲惨な状況下においても通訳することを諦めなかったOさんの姿勢。頭が上がりません。
放送通訳者で神田外語大学専任講師の柴原智幸先生は、通訳合宿でよく「一矢を報いる」という表現をされていましたが、まさにOさんの通訳は一矢を報いたのではないでしょうか。
試験終了。通訳学校ではOさんを合格とするかどうか、侃侃諤諤議論されたようです。そして結果は、進級!これは完璧にOさんの気持ちが勝利をもたらしたと断言できます。
英語教育でも学習の動機付けという分野で研究が行われていますが、今回の進級という成功体験が動機付けに大きな影響を与えることは研究結果を待つまでもありませんね。進級後のOさんは、これまでの自信なさげな雰囲気から、少しづつですが、自分の通訳に自信を持てるようになったのではないでしょうか。少なくとも訳出を聞いている僕の目にはそう映ります。
Oさんはほぼ時を同じくして、会社の仕事でも嬉しいお知らせがあったようです。
ここまでくれば、私からもう言うことはありません。Oさんは私が課題として出した通訳教材を毎回誠実に取り組み、「今日も私を谷底に突き落としてください」という口癖の通り、レッスンで私から改善点をたくさん指摘されても、墜落することなくレッスンを続けられています。その成果が、進級という成果につながったのだと思います。
あとこれは憶測でしかありませんが、Oさんの真剣な姿勢を通訳学校も見ていたからこそ、1つしか通訳できなかったにもかかわらず進級を決めたのではないでしょうか。当たり前のことかもしれませんが、通訳においてはどんなに逆境に置かれたとしても決して諦めない。これはプロとして経験を積めば積むほど、忘れてはいけないことなのだと自戒を込めて思います。
僕は通訳者養成をライフワークとしています。それは通訳者になるための努力がどれほど大変か、身にしみて理解できるからです。そんな受講生がまた一人、一つ階段を上がる瞬間を見届けることができることほど、幸せなことはありません。
Oさん、改めて進級おめでとうございます!
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