見出し画像

英語の授業でSDGsを教え始めた二つのきっかけ

最近はnoteに書いた記事をスキしてくれる方が少しだけ増えてくれて、これまで全く人の目を気にせず書いていたものに読者の目を意識するようになりました。もちろん何十もスキをいただいているわけではないので、まだまだ独りよがりの文章の域を出ませんが、今日も書いていきたいと思います。今日のテーマは、僕が大学で英語を教えている際に感じている、二つの危機についてです。

地球の危機

堅達京子+NHK BS1スペシャル取材班著『脱ブラスチックへの挑戦〜持続可能な地球と世界ビジネスの潮流』(山と渓谷社, 2020年)を読んでいます。1,500円するところを、ブックオフで200円でゲットしました。かれこれ3週間ほど、他の本に浮気しながらもマイペースに読んでいます。

脱ブラスチックに向けて、世界はこんなに動き出しているのに、日本は何でこんなに遅いんだ。しかも日本の経済団体はなんて保守的なんだ。まだ読了していませんが、これが著者の一番伝えたかったメッセージではないでしょうか。

スウェーデンのロックストローム博士が提唱したSDGsウェディングケーキとプラネタリー・バウンダリー。それを日本の某経済団体に紹介し、行動を促そうとしたところ、ひどく不興だったと書かれています。世界の他の国は当たり前のこととして行動を起こしているのに、日本では「一つの研究に過ぎず、権威がない」とはね返されたそうです(pp. 161-163)。

こういう現象は経済団体だけではないのかも知れません。日本は世界がやっていることにいつも一歩遅れているというか、「何でそこで動かないんですか?」と思うような腰の重さがあります。

ケニアではレジ袋を使用すると禁固刑か罰金刑になることもあるようです(pp. 144-145)。じゃあケニアの人が日本にきたら、犯罪者ばっかりに見えるのでしょうか。

この本を読んでいるのは、神戸のとあるスタバです。店内は暖房でとても暖かくされています。でもこれもCO2を出している。何も悪いことをしなくても、地球を傷つけている・・・。どうしたらいいのか。

こういう迷想は今に始まったことではありません。昔から環境のことは気にはなっていました。それでも脱プラの本書を手に取ってみると、知らなかったことのオンパレードです。僕が知らないのなら、大学の学生はもっと知らないかも知れない。週一だけど、英語の授業で大学生に何かを教えられるチャンスをもっている僕に、何ができるだろう。

答えはSDGsという枠組みを活用することでした。先ほどの脱プラの話も当然出てきますし、他にも文理横断型の知識を網羅できるSDGsは、学生が社会に出る前に是非とも身につけておいてほしい国際教養だと思いました。

外国語教育の危機

もう一つは、外国語教育の危機です。昨今、生成系AIや機械翻訳が飛躍的に進歩し、もはや大学で英語を一生懸命学んだ学生よりも良い翻訳をするものも珍しくなくなってきました。このような状況を前に、外国語教育はどのようにあるべきなのでしょうか。

例えば立命館大学の山中司教授は、「教師が英語を教えることはもういらなくなる」と発言されています。

僕の研究関心もこのあたりから来ています。学生時代に英語をしゃかりきに勉強したものとして、大学で英語を教えることは長年の夢だったのです。ですが晴れて採用されて教壇に立った時、教師が英語を教えるという従来の構図はもはや崩れかけているのだということに気づきました。

従来の英語「を」勉強するだけでは、ダメだ。じゃあ英語教師として、何ができるだろう。多くの英語教師が、僕と同じような悩みを抱えているのかも知れません。英語教育には大きな穴が空いてしまったのです。これが二つ目の危機、外国語教育の危機です。

ではこの穴に何を入れて塞ごうか。この問いは英語教師が100人いれば、100通りの答えが出てくるところだと思いますが、先述の通り私はこの穴にSDGsを入れようと思いました。

私は本業が会議通訳で、シンポジウムなどでも同時通訳をすることがあります。その中で印象的なのが、どのような分野の会議でもほぼ毎回SDGsに触れているということです。ビジネス通訳はもちろんのこと、官庁、大学など、あらゆる組織の話を通訳する中で、SDGsの出現頻度は日々増えていくのです。

「これだけSDGsが議論されている。それを通訳するだけでは勿体無い」と感じた僕は、自分のSDGs関連通訳経験をエッセイ風にまとめた文章を書くことにしました。そしてそれを大学の授業で使うことにしました。これが僕なりの英語教育に開いた穴の塞ぎ方です。

自作テキスト:Understanding the SDGs in English - An Interpreter's Take 2 -

脱プラの本にはグレタさんをはじめ、多くの若い世代が気候変動の対策を求めてデモをしています。「若者がここまでやっている。僕には何ができる?僕には授業がある!僕はここで貢献したい。」そういう想いで今も教壇に立っています。

もちろん、若者だけに教えても全ては解決しません。先述の通り、次に変えていくべきは意思決定者である上の世代なのです。ではどうやってそれを成し遂げるのか。僕は考えました。もしかすると、若い世代が上の世代に僕のメッセージを伝えてくれたら、上の世代も変わっていくのではないか。そんなことを考えだしました。

実際、岩崎・佐々木(2022)は「幼児を介して保護者への環境教育効果が期待できる」ことを示しました。もちろん、私が教えるのは幼児ではなく学生ですから、ここに書いてあること全てを鵜呑みにはできないでしょうが、これはとても強力なエビデンスになりうると思います。

教師から学生へ、そして学生から上の世代へ。SDGsを英語で学んだ学生が上の世代を変えていく原動力になってほしい。博士課程の学生として、その仕掛け作りが僕の研究だと、今は考えています。

参考文献
Iwasaki, S., and Sasaki, H. (2022). Effects of environmental education program on their parents via preschool children: a case study of eco delivery lecture by Fukuoka Center for Climate Change Actions. In Bulletin of the International College of Arts and Sciences and Graduate School of Health and Environmental Sciences : human and environment : research articles, 53, p. 1-7, 2022-03. 
堅達京子+NHK BS1スペシャル取材班著(2020)『脱ブラスチックへの挑戦〜持続可能な地球と世界ビジネスの潮流』(山と渓谷社).
ワールドファミリーバイリンガルサイエンス研究所(2023)『AI時代、大学英語教育や教師に求められる「変革」とは 〜立命館大学 山中教授インタビュー(後編)〜』2023年12月24日アクセス
https://bilingualscience.com/english/2023100301/


いいなと思ったら応援しよう!