見出し画像

初めての矯正歯科通訳

2022年5月11日。この日は初めて矯正歯科の通訳をしました。仕事から一夜明けた今、このお仕事を振り返ると色々な意味でチャレンジングでした。

まず矯正歯科という分野に全く馴染みがなく、用語を何も知らない状態でのスタートでした。資料は早めにいただいていたものの、「ここまで意味が分からない資料は久しぶりかもしれない」と思うレベルの未知でした。このウェビナーではスピー湾曲を活用して矯正治療後の安定化を目指す、という趣旨のものでした。

ですが幸いなことに、妻の友人が歯科衛生士をしていたので、色々と相談してみました。すると用語の使い方がかなり厳しく区別されていることが分かりました。

例えば咬合面と咬合平面という言葉があるのですが、「平」があるのとないのとでは意味に大きな違いが出てくるとのことで、慎重に訳さなければいけないことを実感しました。

もう一つの問題点は、会議の時間帯です。ロシアを拠点に開催する矯正歯科のウェビナーなのですが、時差の関係で日本時間の夜9時開始となっていました。これは通訳者にとっては頭がすでにお休みモードに入っている時間帯なので、結構しんどい条件です。

かつこのお仕事では同時通訳を一人で2時間やって欲しい、とのこと。これは同時通訳は15分から30分で交代するという通訳業界の常識からすると、大きく乖離していると言わざるを得ません。

これら不利な条件だったので、仕事をお受けするかかなり迷いました。しかしこのお仕事は以前一緒に通訳をした同業者よりご照会いただいたもので、これまでにも色々と良くしてくださっていたので、悩みに悩んだ挙句、「今回だけやります」と回答しました。

引き受けたのは良いのですが、矯正歯科のことを少しは勉強しないと、仕事になりません。そこでまずYouTubeの動画で矯正歯科の基本が分かるような動画を探しました。

しかしお目当ての動画は見つからず、行き着いたのはこの動画。

少しは参考になるのですが、どうしても矯正歯科に通うかどうか決めかねている人用の動画だったので、目当ての内容を講義してくれる動画は見つかりませんでした。

また書店にも足を運び、矯正歯科の本を探しましたが、なかなか見つかりません。医学系のところだと思い、色々みたのですが、なぜか矯正歯科の本はなく・・・。これはヤバいぞ、という焦燥感のみが募りました。

そうこうしているうちに会議資料が届きました。スライドは190枚越え。これは相当キツそうです。でも引き受けてしまった以上、やるしかない!逃げたい、辞めたい。ウジウジしている私に照会してくれた友人の通訳者に励ましてもらうくらい、情けない感じの精神状態でした。

資料を読んでいる時にふと、そういえば歯の名前すら調べてなかったなと。そこでまずはそれぞれの歯の名前を日英語で書き出し、歯の絵も描いて覚えてみることにしました。

「歯の勉強」と題した歯の構造と名前の日英用語集。

そしてとうとう本番の日がやってきました。ZOOMに入ってみると通訳者は私だけでなく、日本語の他にフランス語、スペイン語、ロシア語、そしてベトナム語にも通訳されることが分かりました。これはリレー通訳とは違うのですが、英語をハブ言語として、各言語に訳していくという国際会議には良くあるパターンです。

コロナ前であれば現地に行って、幾つもの通訳ブースがあるうちから日本語通訳ブースに案内されて・・・という手順だっただろうと思います。しかしコロナ禍の今、それがZOOMで完結してしまうのですから驚きです。他の通訳者と交流できないことは残念ですが。

ウェビナーがスタート。ロシア人と思われる女性がサクッと挨拶し、本日の講師にバトンタッチします。そこから2時間の同時通訳が始まりました。

最初はそこまで悪くないパフォーマンスだったと記憶しているのですが、やはり2時間近く経つと訳出のクオリティーが落ちてきます。ウェビナーが終わる頃には脳がほとんど動かず、考えることもしんどいという状態です。

何とかウェビナーは終了。しかし通訳者もZOOMで通訳音声をレコーディングしてくださいとのことでしたので、動画に変換する為にパソコンはウイーンと音を出しながら頑張って変換してくれています。

時計をみると夜の11時。いつも21:30には寝ているので流石に眠たい。布団に入るのですが、なかなか寝付けません。人間の脳もパソコンと同じで、ヒートアップした頭をクールダウンさせてからでないと、眠れる気がしません。

というわけで初めての矯正歯科通訳、とりあえずは終了しました。まだお客様からの通訳フィードバックは貰えていないのですが、もし続投をお願いされたとしても、ちょっとこの条件下では継続的にはできない気がしています。通訳の仕事をサステナブルなものとして考え直す良い契機となりました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?