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学習参考書の愉悦 第七回 ほしくても手に入らないあの教材

 みなさんがふつう参考書・問題集と聞くと、書店の学参コーナーに並んでいる本を思い浮かべると思います。ただ、教材の世界の地図というのは、もう少し広いんですね。前回記事の最後に書いたんですが、書店に足を運べば誰でも購入できる「市販品」の他に、「塾教材」「学校採用品」があるのです。ちょっと詳しく見てみましょうか。

【市販品】

 このシリーズでも紹介してきた本の数々は(前回紹介した「MEW」シリーズをのぞいて)市販品です。書店の学参コーナーに並んでいる本ですね。
 参入している主な出版社として――。
 受験ポータルサイト「パスナビ」も運営する旺文社。英単語の「ターゲット」シリーズや、各教科の内容を網羅的に収録した、いわゆる厚物参考書である「総合的研究」シリーズ、英文法の参考書では『ロイヤル英文法』などを出しています。
『総合英語Forest』を出していた桐原書店。英語・国語の教材に強いですね。英語長文の「ハイパートレーニング」シリーズが有名な他、古文単語集を何点か出版しています。
 数研出版。数学の「チャート式」シリーズはあまりにも有名。自社のブランド力を自覚したのか、近年シリーズの点数をかなり増やしてきています。また、『デュアルスコープ総合英語』など、英語の厚物参考書も出しています。
 学研プラスは「ひとつひとつわかりやすく」シリーズが有名でしょうか。他にも「やさしい」シリーズなど、苦手意識を持った生徒層をメインターゲットにしているような商品が目立ちます。一方、「パーフェクトコース」シリーズという硬派(?)な参考書も擁しています。
「シグマベスト」のブランドで知られる文英堂。ぱっと目を引く派手さはないものの、堅実で丁寧な教材作りをする会社という印象です。
 受験研究社は馬のマークで知られていますね。
 KADOKAWA……は、もう母体が大きくなりすぎて何が何やらって感じですけど、ブランド的には、旧・中経出版ですね。「世界一わかりやすい」シリーズ、「面白いほどとれる本」シリーズなど、いろんな著者のいろんな本に同じ名前を付けてシリーズ展開するのがうまい印象です。あと、「売れそうな若手」の予備校講師を見つけてきて参考書デビューさせるのも。とかく商売上手だな、というイメージ。
 書店では目立たないながら、値段が安くどっしりした内容の、いぶし銀的問題集を出版していることで知られる日栄社。出しているのはキャッチーさがある教材ではないので、生徒には知名度も人気もないんですが、私の狭いTwitterのタイムラインで観測する限り、指導者の評価はかなり高いです。
 河合出版や駿台文庫、代々木ライブラリー、東進ブックスという予備校系の本、また、Z会の本も市販されていますね。駿台文庫は書店買切のシステムで売っていること、Z会の本は特約店にしか置かれていないことから、書店によってはまったく置かれていないことも。

【塾教材】

 学習塾での使用を念頭に作られている教材ですね。主だった出版社としては、好学出版、育伸社、教育開発出版、文理、学書、エデュケーショナルネットワーク、都麦出版など。どうです、ご同業の方々以外では、ぜんぜん聞いたことがないと思います。なんせ、これらの教材は、一般の書店に並ぶことがありませんからね。
 出版社の営業所→塾という直売ルートか、出版社→特約店→塾というルートかはともかくとして、塾でしか買えないのです。出版社のサイトで商品紹介ページやデジタルパンフレットは見ることができても、定価を見ることすらままなりません。これは塾の収入モデルなんかにも理由があって……つまり、教材会社が塾に卸す「仕入れ値」に色をつけて「教材費」をとっている塾から、授業料に教材費を含めてしまう塾までいろいろあるもんですから、一般ご家庭に定価を知られると少々不都合が出てきてしまうという面があるんです、はい。
 各社のラインナップとしては、特定の教科書に準拠しているわけではない通年教材、教科書準拠の通年教材、季節講習用教材、受験対策教材などがそろっていることが多いです。
 高校生用教材になると、オリジナル教材を作っている大手予備校か、さもなきゃ市販教材かって感じで塾用教材ってあんまり充実してないんですが、逆に、中学生教材、あとは中学受験向け教材なんかは塾用教材がかなり充実してますね
 塾用教材の特徴として、問題部分は質・量ともにかなり充実しているのに対し、解説ページは非常に簡素であることが多いです。そりゃそうです。塾で講師が授業をするためのテキストとして作られているんですから。そういう意味で、「自分が教えるための本」としては非常に使いやすい、愛しい教材も多いのですが、家庭学習用としては必ずしもおすすめはできません。学校の授業で「理解」は充分できている子が、演習量の確保のために使うなら別ですが……。ただその場合も、どこで入手するのかって問題はありますけどね。
 実は、一般の方が塾用教材を入手するルートがないわけでもありません。簡単なのは、通っている学習塾がある場合、そこに頼んで買ってもらうという方法ですね。「いいけど……授業取ってよ……」って顔される可能性は大きいですけど。
 もうひとつは、一般に塾教材を売ってくれる書店で買うこと。えっ、そんな書店があるんですか? あるんですよ、実はね……。
 まずは兵庫県姫路市にある浅野書店さん。扱っている教材出版社は限られていますが、サイトで注文して通販できるのは魅力です。注文時に単価を書くように言われますけど、単価が書いていなくても、計算して返信してくれますので。
 そして、東京都にある第一教科書さん。こちらは各社の検定教科書も扱っています。棚に数々の塾教材や教科書が並んでいる様は圧巻。去年の夏に足を運んだんですが、いやー、めちゃくちゃ面白かったです。日本でいちばん楽しい書店のひとつですね、あそこは。
 とはいえこの2店舗で扱っている塾教材も、塾教材のすべてではありません。あー、自由に買えるようにならないかな、塾教材。……あ、そっか、独立して自分の塾を持てばいいんだ! などと妄想するものの、そんな資金も自信もありません。むずかしいなあ。

【学校採用品】

 出版社が、学校にしか売ってない教材ですね。『常用国語便覧』で有名な浜島書店や、とうほう正進社などの会社があるほか、たとえば桐原書店なども英語の厚物参考書を市販しつつ、準拠の文法問題集は学校専売として卸していたりします。教科書会社が補助教材として学校採用品を作っていることも多いですね。
 私とはもっとも縁薄いタイプの教材でもありますが、調べてみると、けっこう魅力的な教材が出てるんですよね……。
 たとえば、正進社が中学生向けに出している『英語のたてよこドリル』は、たてに「I, you, he, she」、よこに「like soccer, play tennis, watch TV after dinner」などと並び、交差するマスにそれらを組み合わせた正しい英文を完成させるというコンセプトの教材。英文のどのパーツを変えると他がどう変わる(あるいは変わらない)のかを練習するドリルとして、優れた副教材になると思うのです。この形式の教材は「21マスで基礎が身につく英語ドリル タテ×ヨコ」という名前で、アルクで一般向けにシリーズ展開されてはいるんですが、中学生相手に塾で教えている身としては、やっぱり中学生向けに作られた正進社のシリーズがほしくなるんですよね。
 他には、浜島書店から出ている中学生向けリーディング教材「読みトレ」、同じくリスニング用教材「聞きトレ」。教科書本文以外の英文を読む・聞くことを日々少しずつやっていこうというコンセプトの副教材です。同じようなコンセプトの塾用教材がないこともないんですが、そちらは分量が少なすぎたり逆に多すぎたり……。中学生が日常的に取り組むのに過不足のない分量が設計されていそうな教材としては、このシリーズがよさそうだと目星をつけているのですが、まあ、目星をつけたところで塾では使えないので泣き寝入りです
 文章を見て写して書く「視写」の教材として評判が高いと聞いている光村図書出版の「うつしまるくん」(小学生向け)。および、その中学版である「あかねこ名文視写スキル」。視写、という試みを塾の授業でも試してみたいと思いつつ、素材とフォーマットを用意するのがたいへんでなかなか踏み切れていないのですが、これが塾でも使えたらその問題は解決するのになー、などと夢想しています。
 こんなふうに、まだ見ぬ大地ではあるものの、それゆえに、なんだか無性にほしくなってしまうのが学校採用品の数々。ひょっとしたら、「隣の芝は青い」ってやつなのかもしれませんけれど――。

 塾用教材も学校採用品も、広く一般で買えるようになればいいんですけどね。商いとして、それは難しいってことなんでしょう。やむなし。

 このシリーズは、特に塾や学校に関係ない、なんなら受験とも関係ないみなさまに「でも、学参って面白いんだぜ」ということを伝えたくて書いてますんで、次回からはまた、市販の教材の紹介に戻ろうと思います。そうですねえ、このまえ英単語集を紹介しましたから、今度は古文単語集にしましょうか。

筆者紹介
.原井 (Twitter: @Ebisu_PaPa58)
平成元年生まれ。21世紀生まれの生徒たちの生年月日にちょくちょくびびる塾講師。週末はだいたい本屋の学参コーナーに行く。ビールと焼酎があればだいたい幸せ。

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