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学習参考書の愉悦 第六回・その4 「新・英単語学習システムMEW」シリーズ

 前回の記事の最後で、「英単語集はただ単語を集めただけの本になっていて、練習できるドリルになっていない。ドリル本がほしい」という旨のことを書きました。
 で、今回紹介するのは、現在日本で出版されていて手軽に購入することのできる、おそらく唯一の(やって意味のある)英単語ドリル本です。
 それがどんな教材かというと、英語教材を中心に作っているいいずな書店という出版社の、「世界にはばたくための新・英単語学習システムMEW」シリーズ。MEWとは、Map your English Wordsの略だそうです。シリーズは以下の6冊。

①『MEW Exercise Book Core 500 英語のコアをつくる英単語ネットワーク』
②『MEW Exercise Book Days 1200 日常生活を語る英単語ネットワーク』
③『MEW Check Book Personal 1700 自分を語るための英単語編』
④『MEW Exercise Book Expansion 1400 表現を広げる英単語ネットワーク』
⑤『MEW Exercise Book Frontier 1600 話題を広げる英単語ネットワーク』
⑥『MEW Check Book Global 3000 世界を知るための英単語編』

 ③は①②、⑥は④⑤にそれぞれ対応した新書判のいわゆる単語集なんですが、①②④⑤はB5判のワークブック教材です。シリーズ監修の田中茂範さんによる「MEW -Map your English Words-シリーズがめざすもの」から引用しましょう。

 プロジェクトの出発点として、「語学学習には、単語集だけでは不十分である」という認識をメンバーの間で共有していました。語彙習得には、適切なエクササイズが不可欠となります。しかし、従来のリスト型の単語集では、単語をどう学べばよいのかといった「学び方」の提示は難しく、学習者は自己流で、やみくもに単語集に出ている単語を覚えていくという方法をとらざるをえないのが実情です。それで、私たちは、ワークブックが「主教材」、単語集は「副教材」という考え方を採用しました。つまり、学習者は、ワークブックで実際に作業を行いながら単語を学び、その学習状況の確認を行うために単語集を利用する、と位置づけたのです。(太字原文)

 どうですか。私が前回挙げた旧来の単語集の不満が、ここでは解消されているでしょう。
 ワークブックはDAY1からDAY6を1WEEKとして構成。聞き取り問題などの音声面のエクササイズも交えながら、単語を学んでいきます。順番に、中身を紹介していきたいと思います。

『MEW Exercise Book Core 500英語のコアをつくる英単語ネットワーク』

 「Core500」では、英語の語彙のcore=核となる単語を練習していきます。基本動詞や前置詞・副詞のコア・イメージを習得するWEEK(奇数週)と、テーマ別にまとまった基本単語を習得するWEEK(偶数週)が交互に出てきます。

 奇数週のレッスンに対応したYouTube動画もアップされていますので、内容をイメージするのにお役立てください。

 偶数ウィークの例を挙げますと、たとえばWEEK10のDAY1では、「視覚をもとにつかむ感覚」として「big, large, little, small, flat, round, sharp, dull, straight, tight, loose, red, blue, green,…」といった単語が並んでいます。
 練習問題としては、英文和訳や穴埋めなどがメイン。また、CDを使ったディクテーション(聞いた英語を書き取る)の問題もあり、どのDAYにも必ず音声面のトレーニングが指示されているところに好感がもてます(これはシリーズ通しての特徴)。

『MEW Exercise Book Days 1200日常生活を語る英単語ネットワーク』

 「Days1200」では、使用場面を想定した4, 5行程度の短い英文とセットで単語が示されます。たとえばWEEK5のDAY3「出かける前に②」にはこんな英文が載っています。

Good morning. Here’s the weather report for today. It’ll be sunny in the morning. However, it’ll rain in the afternoon. It might snow in some areas of the region. So don’t forget to take your umbrella or raincoat when you go out.

 で、このページでは天気を表す単語や天気予報で使われる単語を学習するというわけですね。英→日の練習をした次の日には、日→英の練習をします。DAY6のまとめのページでは、「本を見ずに音声を聞き、日本語は英語で、英語は日本語で言えるか確かめよう。」という指示も。

『MEW Exercise Book Expansion 1400表現を広げる英単語ネットワーク』

 「促進・援助/抑制・禁止」「知覚・認識」「領域を仕切るラベリング」など、テーマ別の配列という点では「Core500」「Days1200」と変わりませんが、扱われている内容はいくぶん抽象的で“高級”なものが増えてきます。イラストも交えながら語義を確認、例文を音読するところからはじめて、DAY6では例文の英作文まで持っていきます。

 「Core500」のような解説動画ではありませんが、フラッシュカード形式で単語を確認できる動画がアップされています。

『MEW Exercise Book Frontier 1600話題を広げる英単語ネットワーク』

 「Frontier1600」になると、まとまった量(B5判で30行程度)の英文の中で単語を練習するようになります。単語のリストを確認したら、まずは日本語の文章を読んで、下線の施されている語を英単語に直す練習。最終日に英文を読んで問いに答えるという構成になっています。単語を覚えるためだけでなく、英語力を向上させるためにも英文のインプット量を確保することは非常に重要なのですが、この教材でインプット量をある程度確保することができるという寸法です。

 ……いかがでしょうか。
 単語集だけでは、とてもここまでのエクササイズはできません。
 強いていうならば、1WEEKあたりの単語数がもう少し多くてもいいのかな、とは思いますが(このあたりは前回記事を参照してください)、シリーズにはワークブックに対応した単語集である「Personal1700」と「Global3000」があることですし、これらを使って短期記憶のブーストをしつつ、ワークブックで定着させていくという方略をとるのがいいのかなあ、と。
 唯一、この教材を使用するにあたっての注意点を挙げるならば、それは「2年かかる」ってことでしょうか。ワークブックが4冊。それぞれが20WEEKで構成されているので、すべて終えるには80週間かかります。まあ、外国語の語彙をちゃんとものにしようと思ったら、それぐらいかかって当然といえば当然なのかもしれませんが、たとえば『ユメタン1』なら1UNIT一週間でUNIT 10まで、『キクタンBasic』も10週構成でとにもかくにも一冊仕上げることができることを思うと、時間はかかりますよねえ。
 ですから、主なターゲットは高校1、2年生ということになるでしょう。私がもしも「次の春に高校入学する生徒」を相手に英語を教えることになったら、単語の教材として「Core500」を買ってもらいます。高1で「Core500」「Days1200」と「Personal1700」を、高2で「Expansion1400」「Frontier1600」と「Global3000」に取り組む計算ですね。高3では、必要に応じて『速読英単語 上級編』などに接続してもいいでしょう。
 実はこの教材、本来は学校採用品なのです。だから、高校生が、学校の先生の指示にしたがって2年かけて取り組む教材としてデザインされているんですね。したがって書店では流通していないのですが、いいずな書店がAmazonに出品しているので、出版社から新品を購入することができます。ほんとは「紙面をご確認ください」と言いたいところなんですけど(そうすれば他の英単語教材との差がはっきりわかるんですよ!)、うぅん、この連載をお読みのハイセンスなみなさまには申し訳ありませんが、ここは僕の文章での説明でわかった気になってください。さもなきゃレッツ・バイです。

 一般の学習者が取り組むには……うぅ~ん、どうなんでしょう。効果はあると思うんですが、やっぱり「80週間かけますか?」というところでしょう。もっと短期間でのボキャビルがお好みの方は、たとえばZ会が一般向けに出している「速読速聴・英単語」シリーズであるとか、そちらの方がいいのかもしれません。私も、さっき高校生には買わせたいと書きましたけど、いま自分が何か単語の教材に取り組むとして、このシリーズと同じレベルの単語を覚えようと思ったら、たぶん別の教材を使うと思います。
 それでも、こんな単語の教材を作っている会社があるのだ、単語集は「単語の羅列本」だけではないのだ、ということを知ってもらいたくて、今回紹介したのでした。

 ……で、上でさらっと「学校採用品」って書いたんですけど、これは「学校専売品」とも呼ばれ、その名のとおり、出版社が学校相手にしか売ってない商品なんですよ。学校で一括採用して、同じ学年の生徒に購入させるやつですね。教材は、売られる場所で分類した場合「市販品」「学校採用品」「塾用教材」の3つに分けることが可能なのです。
 次回は番外編として、そのあたりについて書いてみようかと思います。

筆者紹介
.原井 (Twitter: @Ebisu_PaPa58)
平成元年生まれ。21世紀生まれの生徒たちの生年月日にちょくちょくびびる塾講師。週末はだいたい本屋の学参コーナーに行く。ビールと焼酎があればだいたい幸せ。

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