学習参考書の愉悦 第六回・その2 英単語集をさらにディープに眺めてみる
前回の記事で、よくある英単語集のタイプをその形式から「単語列挙型」「フレーズ型」「例文暗記型」「長文型」「単熟語ワンパック型」に分類しました。
今回はさらに掘り下げて、英単語集をさらにディープに眺めるための観点を3つ紹介しましょう。
観点1:単語の配列
英単語集は、その名のとおり覚えるべき英単語をリストにしたものなのですが、じゃあその単語をどう並べるのかにも特徴は現れます。
たとえば「赤尾の豆単」の通称で知られる旺文社の『英語基本単語集』。これは1942年に発売された、日本で最初の英単語集(それまでは知らない単語に出会ったときに辞書を引きながら覚えるしかなかった)として知られています。この単語集は、aからはじまるアルファベット順、辞書式の配列でした。
単語集の歴史としてエポックメイキングな一冊は、『試験に出る英単語』(青春出版社)でしょうね。通称「出る単」「シケ単」と呼ばれるこの単語集は、タイトル通り「試験に出る」順番、つまり入試での出現頻度順に単語を配列したことが大きな売りでした。この頻度順配列は、いまでも多くの単語集が採用しています。「ターゲット」シリーズもシス単も、基本的には頻度順の配列です。
どうせ覚えなければいけないのなら、試験によく出る単語を優先して覚えたいというのが受験生心理というもの。このニーズに応えた頻度順の配列には、しかし、ある弱点もあります。それは、出会う頻度が高い単語から掲載されているがゆえに、単語集の後半に行けばいくほど、覚えていない、というかそもそも見たこともない、という単語の割合がどんどん増えていくということ。前半は「あ、これこないだ教科書で見たやつだ」「おっ、この単語、こないだの模試でわからなかったんだよな~」などと思いつつ、モチベーションもそれなりのところで保ちながら取り組めるんですが、後半になるともはやなじみのない単語のオンパレード、心がくじけて最後のページまでたどり着けない……なんて悲劇を生み出しています。
では辞書式配列ならいいのかといえばもちろんそんなことはなく、こちらも品詞や意味的特徴がバラバラな単語がただアルファベット順に並んでいるだけなので、やっぱり取り組み続ける気力が削がれます。
それでは他にどのような配列がありうるのかといえば、たとえば「テーマ別」の配列。品詞でまとめたり、「時を表す副詞」「プラスイメージの形容詞」といった具合に単語をグループ化して掲載するというもの。その単語がその単語集の近い場所に掲載されている意味がちゃんとあり、好感が持てますね。この配列にしている単語帳としては「データベース」シリーズ、「VITAL」シリーズ、「EG」シリーズといった、「単熟語ワンパック型」が目立ちます。偶然なのかなんなのか。
他に配列が特徴的な単語集といえば、旺文社から出ている『高校入試 グループでまとめて覚える中学英単語』でしょうか。「同じアルファベットが続く単語」「あたまに共通するつづりをふくむ単語」など、主に綴りの共通性で単語を分類して載せているのです。似たような綴りの単語をぶわーっと見せられるとかえって混乱してしまうような気もするんですが、その辺は学習者の性格次第でしょうか。
観点2:類書がほとんどあるいはまったくないアピールポイント
例えばアルクの「キクタン」シリーズ。リズミカルなBGMに合わせて単語が読み上げられるのが特徴です。英単語は綴り・発音・意味の3点セットを覚えるのが肝心で、そのためにも音声面をセットで学習することは欠かせないんですが、他の単語集のCDって英単語と日本語訳が淡々と読み上げられるだけで、面白みがないんですよね。勉強なんだから面白みなんてなくても頑張れよ、という意見もあるでしょうが、CDを聴くことのストレスを軽減させるこの工夫は見事だと思います。
音声CDでいえば特徴的なのが同じくアルクから出ている「ユメタン」シリーズ。多くの単語集の音声で「英語→日本語」の順で読みあげられているのが、このシリーズでは「日本語→英語」の順になっています。これは著者の木村達哉先生の「単語学習は発信できることがゴール」という方針のもと、「CDを流して、CDの日本語を聴いたらCDより早く英語を声に出す」トレーニングをするため。実際の例は下の動画をご覧ください。
例文が特徴的なのが、最近(2018年10月)学研から出版された『まぜ単』。「国をdevelopさせるには社会基盤がまず必要だ。」「ヨーロッパにシリアから多くのimmigrantが入ってきた。」といった具合に、見出し語だけを英単語にした日本語の例文を通して英単語の意味を覚えようというコンセプトの本です。
前回名前を出したZ会の『英単語WIZ』も、「4文ワンセットのショートストーリー」という構成はちょっと類書が思い当たりません(見つけたらご一報くださると幸い)。
あるいは、だいぶまえに話題になった、オタクたちをターゲットにした三才ブックスの「もえたん」シリーズ。ニッチなところでは、BL漫画のキャラクターとコラボした『恋する英単語』(三修社)なんて本もありますね(ちなみにこの本、例文は先の『まぜ単』式です。「ゆっくりaccustomしてあげるよ、じっくりとね。」など)。
観点その3:日本語音声の声優さんに注目してみる
あの声優さんが英単語集の日本語音声を……!? ってパターン、実はけっこうあるのってご存知でした?
たとえばナガセの『英単語FORMULA1700』の別売りCDの日本語音声担当は井上喜久子さんですし、『英熟語FORMULA1000』の日本語音声は國府田マリ子さん。KADOKAWAの英単語集ですと、『世界一覚えやすい中学の英単語1500』で高橋美佳子さん、『センター試験に出る順英単語』で雨宮天さん、『カラー改訂版 まるおぼえ英単語2600』で小倉唯さん・石原夏織さん・西明日香さん・瀬戸麻沙美さん、『TOEICテストにでる単600語(600点レベル)』で上坂すみれさんの声を聴くことができます。
この名前にピンときたら、一冊手にしてみるのもありかもしれません。ファンアイテムのひとつとして。
実は学参分野で音声に(アニメファンや声優ファンに)名の知られた声優さんを起用する例はここ何年かで増えているので、英単語集にかぎらず、書店の学参コーナーで「声優さん探し」をしてみると、意外な発見があるかもしれません。
さて、みなさんそろそろ気になってきたのが、そんなにいろいろな英単語集があって、いったいどれを使えばいいのか、どれがおすすめの単語集なのかということだと思います。
結論から言えばですね、英単語集は、何を使うかよりもどう使うかの影響がでかいです。使わなければ宝の持ち腐れで終わっちゃいますからね。そして、単語帳への取り組み方にも上手い下手はあります。「参考書を紹介する」という連載の趣旨からはやや外れますが、次回はそのへんの話をすることにします。
筆者紹介
.原井 (Twitter: @Ebisu_PaPa58)
平成元年生まれ。21世紀生まれの生徒たちの生年月日にちょくちょくびびる塾講師。週末はだいたい本屋の学参コーナーに行く。ビールと焼酎があればだいたい幸せ。