情事の後は、必ず金マル。002:気をつけよう 地獄を見るぞ 好奇心
蝉の鳴き声で毎朝5:30に起こされる生活が始まりました。暑いとついついビールを飲んでしまって慢性的な二日酔いになりがちですよね。蝉だって一生懸命生きてるんだから、あいつらのことで苛立ってはいけない、ラブを叫んでいるんや……ってうるせーよ!!!!! こっちとら二日酔いなんだから落ち着いて寝かせてくれや!!!!!!!!!!!!!!!
出社ギリギリの時間まで、蝉の声が少ない新宿のラブホで涼みたい。どうも、もりたです。
みなさんいかがお過ごしですか? 私は妖怪シゴトオワ・ラナイヤバイとして生きています。会社で饅頭食って、21時過ぎから酒飲んでる場合じゃねえってばよ。
セミ爆弾やら提出直前で企画書データが吹っ飛ぶやら、色々な意味で肝が冷えている今日この頃ですが、ちょっとした好奇心が引き起こした恐怖の出来事をご紹介します。
トリガーは映画とトイレタイム
時は遡ること、2015年秋。残暑の厳しい中、私と友人はとある映画を観るためだけに池袋へ向かいました。その映画とは、『心が叫びたがっているんだ。(以下、ここさけ)』。フジテレビ・ノイタミナ枠で爆発的に視聴され、いつの間にか実写化までされていたアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』でおなじみ、超平和バスターズ原作のアレです。
「とりあえず流行りに乗っかっておこうぜ病」を患っている我々は、例外なくビッグウェーブに乗っかったわけですが、映画を観終わり感想をああだこうだ言い出したところから、地獄の時間が始まりました。
もりた(以下、も)「いや~、とりあえず観たな、うん」
友人(以下、友)「泣いたわ…」
も「泣くほどだったか…?」
友「ワシ、めっちゃああいうストーリーで涙腺弱々になっちゃうマンじゃん?」
も「わかる~~~~そういうところある~~~~~~~!」
友「だからさ、この流れでラブホ行かね?」
も「は????????????」
友「さっきもりたがトイレに行ってる間に調べた。絶対あの廃墟ラブホな感じのところだから。行くぞ」
も「は?????????????????」
友「俺、この写真撮りたいねん。ここさけごっこしたいねん」
観た人はご存知かと思うのですが、ここさけってストーリーの起点がラブホなんですよね。かいつまんで説明すると、山の上にある「お城(実際はラブホ)」に憧れていた幼き頃の主人公がパパと知らないねーちゃんがgoするのを偶然目撃し、ママに「パパは王子だったんだね! だってお城に入っていくの見たの~(おめめキラキラ)」と供述してしまったせいで、家族が崩壊しちゃうというイントロダクションなのです。
山の上のお城、憧れる気持ちわかるぞ。お城系のラブホって、なぜかちょっと高台にあるもんな。何なら敷地内でも少し高台にしてる時あるもんな。無垢な子どもから見たら単なるお城で「すごい! お城だ! 私も行ってみたいな~~~~!!!」って夢見ちゃうよな、ウンウン。
かくいう私も幼少時、地元に存在するお城ラブホに憧れてお母ちゃんに「あれってすごいね! ホ、テ、ル、ホテルなの!? すごいね! どんな人が泊まるんだろう~!!!」と無邪気にキャッチャして気まずい思いさせたもん。無垢すぎてわっかんねーもんな。中学生くらいになって入口の看板に「休憩」の文字を発見して「アッ(察し)」となって憤死しましたから。ある種誰でも通る道なのです、知らねーけど多分そんなもん。
劇中に登場するお城ラブホは、主人公が高校生になった現代パートでは倒産して廃墟になっているわけなのですが、友人はその追体験をすべくトイレタイムを駆使して似た感じのラブホを調べていたらしいのです。いくら女性のトイレが混んでて待たせた時間が長かったとはいえ、行動力がすぎる!
次の予定もなく、あとは夕飯を食べて帰るくらいだったこともあり、「まあええけど…」と軽い出来心で承諾してしまったら最後、あとは転げ落ちるだけ。これから起きる恐怖を、私も友人もまだ知らない。
勘は信じろ、当たるから
「オラッ行くぞ! こっちにあるから!」と、うだる暑さで汗だくになりながら歩くこと20分。途中、完全な迷子になりながらも何とか辿りついた先は、想像の200,005,000倍廃墟でした。このラブホ、半端ないってもぉ~。あそこ半端ないって。割れた電飾看板、めっちゃ傾いてるもん。そんなん放置できひんやん普通? そんなんできる???
民家とほぼくっついているであろう立地環境、昔はクリーンな白だったはずなのにまだらな灰色と蔦で覆われた外壁、そして遠くで鳴り響く雷……アッこれやばい(本能)。
「いやマジで行くん??? 入るん??? ここゾンビ絶対出るで??? 正気????????????」という顔で全力の圧をかけたのですが、スルースキルがハイパー高い友人は無言でそそくさと入り口へ。私こいつと友達やってるの正気…? 友人よ、お前のわかっててスルーする癖、本当に良くないからな! 彼女にもそれやってたらガチでフラれるぞ!!!!!
自動ドアが開いた瞬間の感想 is 「ここ、めっちゃ高校の合宿所の匂いする…」でした。湿った仄暗い感じの空気と、埃の匂いが入ってくる感じ。人が活発に入っていない場所っぽい、独特の匂い。古びたアンティーク品とカントリー調の壁紙やら小物やらが視界に飛び込んでくる上に、入り口の目の前にあるのは木製の階段! 数多のラブホに入り浸ってきた私ですが、入り口だけでぞわぞわしたのはこの時が一番かもしれません。
ここで引き返せばいいのに、謎のアドレナリンがギュンギュン出ちゃって「こりゃネタになるな」と思って歩みを進めたのが間違いです。みんな、直感的に「やばそう」と思った時は大抵その通りだから本当に気をつけて。もりたはそれができない子ダゾ!
一応入り口横にカーテンの閉まったカウンターがあったので、人が来るのを待ちながらキョロキョロしていると「いらっしゃいませ」という声が。なぜか階段の上から。
おいいいいいいいいいい!?!?!?!???! え、カウンターじゃないの???? 清掃してたの???????? やばいラブホチェック(もりた調べ)の「受付が顔をガン出ししてくる」に即行で引っかかるのですか!!!?!?!?????!?
しかも出てきた主のおっさん、めっちゃ顔色悪いしガリガリ。あと声カスカスで声量が無。青白すぎて「お化け屋敷的なアトラクションなのかな?」と一瞬納得してしまいそうになりました。というか、もうそういうことにしてくれ。頼む。お城じゃないから高望みもしてないが、廃墟感に振りすぎではないだろうか……。
主「休憩ですが、宿泊ですか……」
友「ショートで(真顔)」
主「そうですか……」
も「(そうですかって悲しい顔するなよ、てか真顔で対応すんな友人)」
友人の財布で精算を済ませ、残念そうな顔のまま「ごゆっくり…」と鍵を渡してくれた主を背に、いよいよ本番会場へ向かいます。階段ギシギシすぎて、もはや草が生えてきた。まだ笑える余裕があったことに、今思うと感動する。
試練の部屋
階段を上がり、人がいる気配のない廊下を抜け、部屋の扉を開けると、そこはすっごく廃墟でした。もう明らかにやばい。蜘蛛の巣張ってるし、洗面台の水垢もすごい。しかもシーツが湿っぽいし、確実にダニがいそうな感じのする質感の布団。「うわあ、これもう足を踏み入れたくないしどこかに座るのもやばい……マヂ無理……ある種映画のラブホの方が明るくクリーンだよう……」と白目を向いている私と、「ウッヒョーーーーーー!」と大喜びでiPhoneのシャッターを切りまくるウキウキの友人。こいつ正気なの????(5分ぶり本日2回目)
廃墟は割と好きな方なのですが、そこは「未だに人が出入りし、使用している気配」がどことなく感じられて、怖くて仕方なかった。廃墟ってもう人の気配が乾ききってる感じがするので、どろっとした空気が残ってても他人事のように感じられるのですが、そんなのではなく。まだ人がいて、普通に使っていて、部屋が生きていて。生っぽい感じ、って言ったら伝わるのでしょうか。とにかく、私は耐えられないタイプの空気感でした。
そして極め付けがBGM。そんなこと言ったら不謹慎だな。最初はなんかボソボソ聞こえてた人の話し声みたいなものが、だんだんとボリュームが上がっていってはっきりと、耳を塞いでも聞こえるようになってきたんです。
「ママー!ごめんなさい!ごめんなさい!許して、ごめんなさい!許して!本当にごめんなさい!もうやだ、許して!許して!ママ!許して!」
これ絶対聞こえてくる位置的に、窓の外からだし、絶対隣接してる民家じゃん……何事だよう……この環境でフィニッシュワークまで持っていける男がいたらすげーよ。どんな女でも多分一撃だよ。というか、ここ連れて来る時点ですげーよ。そのチョイスについてくる女もすげーよ……。
さすがにこのBGMにはスルースキル検定2級の友人もくるものがあったらしく、「写真押さえたし出よう。これはやばい。まずい」と言ってそそくさと退散しました。「ありがとうございました……」とか細い声で鍵を受け取った主を振り払うように自動ドアを出ると、思わず深呼吸をしてしまいました。多分、無意識に呼吸制限してた。同じ埃っぽくてもアスファルトくさい雨の空気おいしい。まじ無理。腕時計を見ると、滞在時間は約15分。
友「このあとどうする? 酒飲む?」
も「いやそんな気分になれないけど、御神酒代わりになんか飲む……」
友「せやな……アルコール消毒しときたいよな……」
立ち去る間際、一応振り返ってみましたが、確かにそのホテルはありました。早足で池袋駅前に戻ってきた時、いつもどおりの雑多な人混みを見て安心したのはいうまでもありません。
これまで出来心で失敗しても「反省はしてるが後悔はない」と言い切れることの方が圧倒的に多かったのが、「反省も後悔もしてるのでもう許してほしい…」と思った一件でした。今もまだそのラブホが営業しているのかはわかりません。調べようとも思いません。ひとつ心残りなのは、あの叫び声の主があの後どうなってしまったかわからないということだけ。あの子が無事に笑顔で過ごせることを、夏が来るたびに思ってしまいます。
筆者紹介
もりた(Twitter:@minic410)
酒と煙草と綾野剛が好きな社畜OL。夏のラブホ風呂は泡よりハッカタイプ派。ブログ「東京のつらい場所」で、元カレへの未練を垂れ流しながら都内を散歩中。