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【第3皿】 「わたしの夏のゆくえ。」
気付いたら夏が行ってしまった。
カレンダーが9月に捲られた途端、まるで会期を終えた催し物かのように夏は夏であることをやめてしまったようだ。
窓の外の抜けるような青空を見て、回していた洗濯機からシーツと枕カバーを取り出し、ベランダに1枚ずつきっちりと干していく。心なしか真夏よりすっきりとした青い空と綺麗なコントラストとなって風に揺れていた。
まだ涼しいとは言えないけれど、もう夏ではない何かを胸に吸い込んだ。
それにしてもこの一週間はなかなかハードだった。
半分はリモートワークしながらもリアルなミーティングも当たり前になってきて、下半期へ物事が動き出すタイミングがみんな被るというか、いくつも企画が同時進行している状態だ。
今日は少人数の顔合わせということで、クライアントさんのある表参道に田園都市線で向かった。最近足を運ぶことも少なくなったけど、やっぱりお洒落な街だよね。歩いている人がみんなキラキラしてるもんね。
帰り道、東京に来た頃よく行っていたカフェを通りがかった。
わたしも今や赤提灯とかで落ち着いているけど、あの頃はロータスとバワリーキッチンはよく行ったな。なんだろう、不思議な磁力みたいなものがあった気がする。
あの時のわたしも、今すれ違う人達みたいにキラキラしていたのかな。
幸い、この一件で直帰出来ることになったので、想い出のカフェでご飯を食べることもなく帰宅することにした。
明日は土曜日、やっと休日だ。
シャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かす前に、ベランダに出る。
シーツもパリッとよく乾いている。
そういえば、知らぬまに蝉の鳴き声も聞こえてこないな。
夏フェス用に買っていたミニチェアを引っ張りだして、缶ビールを開ける。
夕暮れを渡る穏やかな風が濡れた髪にあたり、冷えたビールが喉を通り過ぎていく。
「美味しい〜!」
これだよね。
お洒落な街で着飾って人気のお店で過ごすのも良いけど、この時間から周りの目も気にせず、すっぴんの無防備な格好で飲めるのも間違いなく最高だ。
缶ビールを半分くらい飲んで、思い出したように空腹を覚えた。
そういえば最近忙しすぎてろくに買いものも行けてなかったし、何かあったかな。
キッチンに戻ると、そんな夏の忘れものかのように、棚に素麺が鎮座していた。
たしかに今年もさんざんお世話になったな。
そう。素麺の食べ方について、あくまで一個人的な見解として思うところがあるんだけど、よくネットとかで見かける"アレンジレシピ"的なのは、如何なものかと思ってしまうんだよね。
やっぱり素麺はそのままの味を楽しむ為に、つゆで食べるのが一番美味しい筈だ。(そうに違いないと大好きな揖保乃糸の公式ページを見たら公然とアレンジレシピが紹介されていて愕然とした)
ただ、ひとつだけ例外がある。
ソーメンチャンプルーだ。これだけは別の立派な料理として成り立っている。
(ちなみに最近知ったのだけど、"チャンプルー"っていうのは、琉球料理では季節の野菜と島豆腐が入らないとチャンプルーとはいえず、"炒める"のはタシヤー、"ソーメンタシヤー"と呼ぶのが正しいとのことだ。)
30秒ほど早めに、少し固めに素麺を茹でる。冷水にさらし、ぬめりを良く取る。前にも書いたけど、このタイミングで予期せず火傷をしたんだよね。シャレにならないくらい痛いから気をつけよう。
ソーメンチャンプルー改めソーメンタシヤー、うまく作るコツはひとつだけ。麺をくっつけないようにして炒める、それだけだ。これが意外とおろそかにしがちなんだけど、水気をよく切ったあと、油をまんべんなくまぶす。この時に軽く塩も混ぜて少し置いておくと、麺の通りも下味も同時に付けられて一石二鳥だ。
今日はニラが余っていたので、2、3束よく洗いザクザクと切り分ける。フライパンに油をひき、中火で根元の太い部分を炒めていく。この食欲をそそるニラの匂いがもうたまらない。(葉先部分は取っておいて後で入れる)
次にツナ缶を汁も一緒に丸ごと入れる。メーカーにもよるけど、わたしは添加物&オイル不使用のものを愛用しているので、ここで少し塩で味を調整する。
このツナから出る鰹だしが絶妙な旨味を司るというわけだ。
そして、麺を入れたら手早く炒めていく。そこにニラの葉先部分も入れ、香り付けに醤油を数滴、鍋肌から滴たらす。
火を止め皿に盛り、好みでかるく胡椒をふったら、完成だ。
この香り・・!
シンプルがゆえに奥深い旨味。
箸が止まらない。
ビールも飲み干し、思わず二缶目に手が伸びる。
そうだ、これはわりとかカンペキな金曜の夜の過ごし方かもしれない。
明日からもまた良い週末になりそうだな。
ソーメンチャンプルー 改め ソーメンタシヤー
<用意するもの>
・素麺 1,5人程(好きなだけ)
・ニラ 2,3束
・ツナ缶 1缶
・胡麻油 適量
・海塩 適量
・醤油 適量
玉ねぎや人参を入れてもOK。ただ、具材は少ない方がシンプルに美味しい。