君と出会ってⅣ
翌朝を迎えた。
とりあえず昨日するべきことは全部してから眠った。
井上さんをベッドに寝かせていたこともあって昨晩は床に眠ったせいで体がガチガチに痛い。
起き上がって伸びをしてから机の上に置いておいた水を確認したが減っている様子はない。
今も彼女はぐっすりと眠っている。
だから井上さんが起きた時のためにインスタントの味噌汁でも作ることにした。
――
○:熱くない?
井:はい…大丈夫です…
○:よかった
井:すみません…
○:いいって
仕方ないよ
あんなに飲んだんだし
井:私から誘っておいて迷惑かけちゃうなんて…
ダメダメですね…
○:そんなことないって
楽しんでくれただけでも僕は満足だよ
井:すみません…
○:ほら、味噌汁冷めちゃうよ?
井:はい…すみません…
○:…。
井:あの…
○:ん?
井:昨日からあんなに迷惑かけておいて烏滸がましいんですけど…
シャワー…借りてもいいですか…?
○:いいけど、うちで入るの?
井:実は…昨日飲む時に首にちょっとお酒が垂れちゃってベタベタなので…
○:はははっ、案外そそっかしいね
わかった
着替えになるようなもの適当に用意して脱衣所の前に置いておくね
井:すみません…
○:いいって
ベタベタのままじゃ確かに嫌だもんね
井:すぐ上がるので
○:大丈夫、ゆっくり入っていいよ
井:すみません…
それから味噌汁を飲み干して井上さんはそそくさと浴室へ向かった。
○:このジャージじゃダサいしな…
これしかないか…
ピロンッ
「おはようございます。
かなえさんが好きです。
○○さんはどんな本を読むんですか?」
○:どんな本…⁉︎
どんな本…漫画も読まないし…小説も読まないし…
どう返信すれば…
ガチャッ
井:○○さーん!
○:あ!は、はい!
今持ってくから中で待ってて!
井:すみません!
とりあえず返信は保留にしてすぐに着替えを彼女の元に運ぶことにした―
井:おおきいですね
○:まぁ、身長差それなりにあるからね
井:ふふっ、○○さんの匂いがします
○:え?もしかして臭い?
井:違います!
○○さんが使ってる柔軟剤のいい匂いです!
○:柔軟剤か
市販のだけど
井:なんか他の人とは違う匂いがします!
○:え?やっぱり臭いってこと⁉︎
井:違いますって!
○:ほんとに本当だよね?
井:本当です!
私、○○さんに嘘ついたことないでしょう?
○:え?いや、昨日…
井:あー!ダメ!
あれは嘘じゃなくて思い上がってただけです!
○:はははっ、冗談だよ
とりあえず、こんなものしか用意できなくてごめんね
井:いやいや、こちらこそ
昨日からずっと迷惑かけっぱなしで服まで貸していただいて…
○:全然気にしないで
スーツだと疲れるだろうし
井:ありがとうございます…
○:いえいえ
井:そういえばせっかくの土曜日なのに半日終わっちゃいましたね
○:あー、うん
まぁ、いつもだったら寝て過ごすだけだし
こういう土曜日も楽しいよ
井:変わらないですね
○:ははは、まぁそう簡単にルーティンは崩れないよ
井上さんはお出かけする派だよね
井:はい!
といっても最近はおうち時間も増えました
○:へぇ
なんかあったの?
井:実は溜めっぱなしだったアニメを一気見し始めまして!
そこから止まらなくて!
○:あー、確かに言ってたね
アニメ好きだって
井:はい!
○○さんはアニメとか全然見ないんですか?
○:うーん、見ないね
井:そうなんですね
○:おすすめとかある?
井:おすすめですか?
うーん…これなんてどうでしょうか!
○:へぇ、絵が綺麗だね
井:そうなんです!
絵も綺麗だし、音楽もすごくて!
とにかくこれ見たら絶対泣けますよ!
○:そっか
あとで見てみるね
井:はい!
感想待ってます!
感想…
このままトークが続けば「さく」さんにも聞かれるかもしれない。
この作者のこの本がおすすめだなんて言われて買ってはみたものの読まなかったら会話が成立しない。
そうなったらマズイ。
とりあえず、井上さんに言われたアニメを見始めてオススメを見る癖をつけよう。
そう心に決めて井上さんの熱弁を聞いていたのだった―