落としたのは恋心でしたⅢ
「本当に⁉︎」
○:うん、僕でよけ..
賀:嬉しい..!!
〇:うわっ..!?
あの時の僕に飛びついてきたときの笑顔は今でも忘れられない。
その後行われたインターハイを遥香はみにきてくれた。
残念ながら一回戦敗退となったけれど彼女は試合が終わった後にかっこよかっただなんて言ってくれて僕もすごくうれしかったことをよく覚えている。
その後、付き合えたばかりということもあって、今週の一枚には僕の写真を選んでくれた。
でも、それは試合中の写真じゃなくて、アップ中に先輩と笑顔で僕が談笑しているシーンだった。
後日、どうしてその写真を選んだのかを尋ねると、照れくさそうに頬を赤らめながら「○○くんの笑顔が好きだから…」なんて返してくれて。
これ以上に素敵な彼女は他にいないだろうと思うほど僕は彼女に惹かれていた。
大学生になってからは僕たちはより仲を深めて、周囲からも羨ましがられるほどの関係になっていた。
大学でもずっと一緒にいたし、バイト先だって。
そして二人でお金を貯めて旅行にも行くようになった。
旅行に行くたびに彼女は楽しそうにはしゃいでくれて、帰り際にはまだ帰りたくないだなんて子供みたいに駄々をこねて、そんな彼女を見ていると僕も自然と笑顔が湧いてきた。
大学最後の旅先でお揃いのマグカップを買った時も「嬉しい!大切にするね!」なんてキラキラした笑顔で言ってきた彼女が今でも忘れられない。
それくらい僕たちは笑顔の絶えないカップルだったし
多分、側から見てもお似合い二人だったと思う。
それから社会人になって二年目。
浮気が発覚した―
友人からメッセージで遥香と見知らぬ男が渋谷の街を歩いていたと言ってきた。
まさか遥香が浮気なんてするわけがないと突っぱねたが悪い予感は的中した。
僕はある日ふと思い立って遥香をテーマパークに誘った。
しかし、返ってきた答えは「ごめん、今日仕事がある。」『そっか。仕方ないね。』文面ではそう答えたが僕は納得していなかった。
彼女は先週「土曜日はお休みだよ」と言っていたはずだし
たしかに、社会人である以上突然仕事が入ることもあるから嘘とは限らない。
けれど、この前のメッセージで疑心暗鬼になっていた僕は疑いを持ちながらその日彼女の自宅に向かった―
彼女の自宅の前に着くとちょうど遥香が男性を部屋に招き入れているところだった。
その時の笑顔は今でも頭に焼き付いている。
僕には見せたことのない笑顔だった。
後日、遥香を呼び出した。
「何?急にどうしたの?」と笑顔で聞いてきた。
僕にはその笑顔が作り物に見えて仕方がなかった。
○:ねぇ、遥香。
本当のことを話して欲しい。
賀:ほ、本当のこと..?
彼女はわかりやすく動揺し始めた。
僕は続けて「遥香..浮気してるでしょ?」と聞いた。
すると彼女は黙ったまま下唇を噛んでいた。
○:ねぇ、答えてよ。
そうなんでしょ?
賀:..。
○:黙ったままってことはやっぱりそうなんだね..。
賀:私..!まだ○○のこと好き..‼︎
だから..!
さっきまで黙り込んでいたのに、彼女は急に身を乗り出して僕にそう訴えかけた。
しかし、僕は冷え切った言葉で「今更何言ったって誤魔化せないよ。」と返した。
彼女は今にも泣きだしそうな表情のまま僕を見つめていた。
○:じゃあ..
賀:ねぇ..私たちやり直せるよね..?
立ち上がった僕を引き留めるように彼女は左手に必死にしがみついた。
○:ごめん、もう付き合えない。
賀:待って..!
私…変わるから..‼︎お願い..!
○:ごめん。もう、信じられない。
サヨナラ。
彼女の腕を振りほどき、店を飛び出して僕は夜の闇に消えた―
事の経緯をすべて話し終えると急に遠藤さんは僕を抱き寄せた。
それから数分後彼女はゆっくりと僕を離して目を見つめた。
遠:辛かったですよね..。
○:..。
遠:やっぱり、私○○さんの"落し物"拾ってよかった。
○:..。
遠:○○さん、本当に遥香さんのこと大好きだったんだなって聞いていてわかりました。
そして今でも好きなことも。
○:え..?
遠:今日、私と別れた後に遥香さんのとこに行ったんでしょ..?
○:..。
遠:だから、泣いていた。
違いますか..?
僕は黙って頷いた。
遠:やっぱり。
○:...。
遠:○○さん。
○:なんですか..?
遠:もう、遥香さんと会っちゃダメです。
○:え..?
遠:私、こんなに優しい○○さんがこれ以上傷つくの嫌です..。
○:..。
遠:〇〇さんは私が守ります。
〇:..。
遠:だから、約束してください。
遥香さんとはもう会わないって。
○:..。
遠:私じゃ不安..ですか..?
〇:いや..そういうんじゃ..
煮え切らない僕を見かねた遠藤さんは突然僕の頬をつかんで引き延ばした。
〇:いたたたた..!!
遠:ほら!笑って!
笑ってないといいことも逃げちゃいますよ?
そう言って彼女はにっこりと笑顔を見せた。
その笑顔を見たときなぜだか心が軽くなって僕は救われたような気がした―
遠:さて、ご飯冷えちゃいましたねぇ..。
○:すみません..。
遠:いやいや、私も歌手の話を長々としちゃったのでお互い様です!
○:いや、でも..本当に申し訳ないです。
作っていただいたのに..。
遠:大丈夫!温めなおせば元通りです!
すぐにやるので待っててくださいね!
―
○:ごちそうさまでした。
遠:えぇ⁉︎早い!
○:いや、普通ですよ。
遠:私まだ半分ですよ?
○:遠藤さんが遅いんです。
遠:ううっ..。ぐうの音も出ない..。
○:僕がお皿洗うんで食べ終わったらシンクに置いてください。
遠:わかりました!
ありがとうございます!
しばらくすると食べ終えた遠藤さんがシンクに皿を置きにきた。
遠:そうだ!○○さん!
○:ん?
遠:私、どこで寝ればいいですか⁉︎
○:あ..全く考えてなかった..。
うちはそもそも他人が泊まることを想定していないので僕のベッド以外に寝床は存在しない。
○:え..どうしよ..。
遠:あの..
○:..?
遠:○○さんが嫌じゃなければ私が布団買うお金を用意するまで一緒でもいいですよ..?
○:え..?
遠:○○さんが良ければ一緒に寝てもいいですよって言ってるんです‼︎
な、何度も言わせないでくださいよ!!結構恥ずかしいんだから..。
○:あ、えーっと..
遠:嫌ですか..?
○:あ..その..
遠:じゃあ、私床で寝ま..
○:あぁ‼︎ストップ!
いいですよ!一緒で‼︎
僕が叫ぶと遠藤さんは一気に笑顔になり
遠:必死になっちゃって〜
そんなに私と一緒に寝たいんですか〜?
○:あ、じゃあ遠藤さん床で。
遠:やだっ!一緒に寝かせてください‼︎
○:..。
遠:な、なんですか..?
○:いや..なんか今の言葉ちょっと..
今更気づいたのか彼女は頬を真っ赤にして俯いていた―