好きと気づいたその日からⅡ
「ただいま」
誰からの返事もない。
きっとみんな出かけているのだろう。
とりあえず荷物を置きに自室へと向かう。
ガチャ
急にリビングのドアが開いた。
突然のことで驚いた僕は一歩後ずさりをする。
中からは新しくできたばかりの義妹が姿を現した。
しかし、彼女は僕に気づくことなくイヤホンから流れる曲に夢中で自分の部屋に入っていった。
まだ初めて会ってからから数日で話したことすら数えるほど。
話すときは互いに敬語のままで顔すらまともに合わせたことがない。
当然だろう。
両親が再婚して家に義兄がいるなんて気まずいに決まってる。
現に今の僕が気まずい。
しかし、両親のためにもいずれは兄妹としてなんとか仲良くするべきだろう。
だけど僕には話しかける勇気も、話題も持ち合わせていない。
僕にもそんなものがあったら多少は互いに気を使うことなく生活できるんだろうなと考えながら僕も自分の部屋へと向かった―
夕飯は一応家族全員で食べることになっている。
話しているのは母と義父だけで僕と彼女は至って静かだ。
母:そうだ○○。
部活はもう決めたの?
〇:うん、弓道部に入る。
母:そっか、前の学校ではすっごく頑張ってたし、ね。
父:そうなんだ。
実は彩も弓道を...
彩:お父さん...私はいいよ...
父:彩、そう言わずに。
せっかく○○君と話すチャンスじゃないか。
彩:○○さんはそういうレベルじゃないから...。
〇:...。
父:そんな言い方して距離を置くのは...
彩:○○さんは中学の時に全国大会行ってるし...!!
それに..それに...
彼女は何かを言いかけて途中で黙り込んでしまった。
父:ごめんね、○○君。
彩はちょっと人見知りで...
○:いえ、僕も人見知りなのでお互い様です。
彩:...。
〇:ごちそうさまでした。
それじゃ僕先にお風呂入りますね。
父:行ってらっしゃい。
風呂に入りながら考えた。
どうやったら彼女と仲良くなれるのか。
弓道は共通の話題だけど、さっきの様子だときっと嫌がるだろうし、女の子の好きなものなんて僕にはさっぱりわからない。
どうすればいいのか悩んでいるうちに時間は過ぎていった―
少し長めに湯に浸かっていたことで多少のぼせてしまった。
少しクラクラする。
だから、今は涼むついでに近所を散歩している。
周りは前に住んでいた街に比べて何でも揃っていて何一つ不自由なさそうな場所で近くにコンビニも飲食店もそろっている。
「あ、ケーキ屋。」
思わず独り言が出た。
少し恥ずかしくなって周りをキョロキョロと見渡したが誰もいない様子でほっとした。
窓越しから見えるおいしそうなケーキやスイーツ。
彩ちゃんに買って行ったら喜ぶだろうか。
でも、何が好きとかわからないからいきなり買っていくのもなにか違う気がした。
たぶんこんなところで悩んでいてもらちが明かないし、今日のところは引き上げることにした―
「ただいま」
「おかえりなさい」
風呂上がりに廊下に出てきていた義父さんが出迎えてくれた。
父:散歩?
〇:はい。
父:そっか。
しばらくの沈黙の後、義父さんは申し訳なさそうに話し始めた。
父:さっきは彩のこと、ごめんね。
〇:あ、いや....気にしないでください。
父:彩は昔からちょっと人見知りなところがあって...。
でもね、一度心を開けば人懐っこくていい子なんだ。
〇:そうなんですね。
父:うん、今はあんな感じだけれどきっと仲良くできるはずだと思う。
だから、それまでは気まずいかもしれないけれど...
〇:僕なりに頑張ってみます。
仲良くなれるように。
義父は優しく微笑みながら頷いた―