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好きと気づいたその日からⅠ

青春はいつだって残酷だ。
誰もが望み通りに生きることができるわけじゃない。
それでも僕たちは夢を見る。
どれがどんなに儚いものであっても。

雨音に包まれた公園の一角にある東屋で連絡したきり既読のつかないトーク画面をぼんやりと見つめていた。

「話があるから公園で待ってる。」

メッセージを送ってから2時間は経っただろうか。
今日は土曜日で普段であればすぐに返信が返ってくるはずの時間なのに未だに既読すらつかない。

告白をするつもりだった。
決めたのはつい数日前。
両親に離婚を告げられた日のこと。
僕は母に付いていくことになっているらしく、あと二週間もしたらここから出ていくと言われた。
だから別れの日が来る前にフラれたって構わないから気持ちだけは伝えるつもりだったのに。

明日は引っ越しの日。
担任の先生以外には誰にも言っていない。
つまり、彼女には告白どころか別れの言葉すら伝えることなく僕は消える。

「さようなら」

ひとりでに呟いて僕は彼女の連絡先を削除した。
これが僕の初恋だ―

時は流れ僕は高校二年生になった。
今ではすっかりあの頃を忘れて中学から続けている弓道に打ち込む毎日を送っている。
そんなある日、母が引っ越しと再婚の話を持ち掛けてきた。
引っ越しは過去に何度かあったものの再婚は初めてで多少は驚いたけれど、引っ越しについては特に気にすることなく準備に取り掛かった―

「初めまして、小川○○です。弓道やってました。よろしくお願いします。」

人生で二度目の転校。
ようやく馴染んできていた制服から真新しいものに変わる感覚は二度目とはいえどやっぱり変な感じだった。

「○○君は...」

「○○君って...」

前にも経験した質問攻めの一日を終えてドッと疲れを感じていた。
早く家に帰ってゆっくり過ごしたい。
そんなことを考えていた時、誰かに呼び止められて振り返った。

?:○○ 〇〇君ですよね?

〇:そうですけど...

突然旧姓で呼ばれたことに驚いていると間髪入れずに彼女は僕が前にいた高校を言い当てた。

?:やっぱり...

〇:あの...どちら様ですか...?

和:あ、えっと申し遅れました。
私は弓道部の井上 和です。
一応同学年で隣のクラス。

〇:あぁ...。

和:休み時間に話しかけるチャンスがなかったから。
急に呼び止めたりしてごめんなさい。

〇:いえ。

そういうことだったかと納得していると彼女は話を続けた。

和:それで、お願いがあるんだけど...

〇:お願い?

和:そう。お願い。

〇:僕が応えられるものなら。

和:じゃあ...

「私と一緒に弓道しませんか?」






「好きと気づいたその日から」

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