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こんな悪魔は間違っているⅡ

部屋で僕のお気に入りのクッションを抱きしめてゴロゴロとくつろぐ悪魔。

?:○○の匂いがするぞ‼︎

○:僕の匂いって…

つい数分前のことだ。

○:えぇ⁉︎

?:何だ?不服か?

○:不服ですよ‼︎
急に今から夫婦だなんて‼︎

?:そうか?
ならば人間で言う"コイビト"でもいいぞ。

○:だ、だから…‼︎

?:だから?

○:だから…その…

?:人間にはセキニンというものがあるのだろう?

○:え?

?:お前は私に好きと言った。
そしてかわいいとも。

○:そ、それは…

?:ここまで言っておいて今までの言葉は全て嘘だとは言うまい。
ならば、これらの言葉を私にかけたセキニンを取るのが人間の男の役目なのではないか?

○:…。

?:さぁ、どうする?

○:わかりました…。

?:よかろう。
では契りを交わそう。

彼女は僕に小指を差し出した。

○:え?

?:ほら、お前も指を出すのだ。

○:え?あ、はい。

言われるがままに差し出すと彼女は小指同士を絡めあい指切りをした。

?:契約成立だ。

○:そ、そうですか…

?:そうだ。
お前に名を名乗っていなかったな。
私はナギ。
お前たちの使う漢字とやらでは和と書く。

○:和さん…はい。

?:さん?
さんとは何だ。

○:え?

?:名前によくわからぬものを付けるな。
和と呼べ。

○:わ、わかりました…。

和:あとその畏まった言葉も好かん。
もっと砕けて話せ。

○:えぇ…?

和:あと…

その後も半ば強引にさまざまな要求を飲まされて仕方がなく家へと連れ帰ってきたのだ。

和:○○‼︎お腹が空いた‼︎
何か食べさせろ。

○:何かって…今ちょうど何もないし…

和:何もないのか。

○:基本的にコンビニ弁当ばっかりだから。
部屋に食べ物はほとんどないんで…s…

和:ないんで?

○:買いに行くしかないで…

和:ないで?

○:…しょう‼︎

危ない。
ついつい敬語が出てきてしまう。
もし敬語を使ったらわがままな和は不服だと駄々を捏ねてまた面倒なことになる。

○:そ、そういえばその格好…!

和:ん?

○:コンビニにその格好は不釣り合いというか…なんというか…

和:ダメなのか?
そのコンビニとやらにこの格好は。

○:いや、ダメってわけじゃないけど…その…目立ちそうで…

和:ふむ…目立つのは確かに良くないな。

○:でも、女性物の服なんて持ってないし…どうすれば…

ガタンッ

いつの間にか目の前にいたはずの和は寝室にあるクローゼットを開いて僕の服を漁っていた。

○:え?

和:ふむ、どれも地味だ。
目立たなくて済む。

○:いや⁉︎え⁉︎

和:なんだ?

○:僕の服着るの⁉︎

和:ダメなのか?

○:いや、ダメってわけじゃ…
けど、こんな地味なの嫌じゃないんですか…?

和:…。

○:…?

和:その敬語とやらはやめろと言ったはずだ。

○:あ…

和:はぁ…構わぬ。
目立たないために着替えるのだからむしろ地味な方がいいのだろう。
それにコイビトの服を借りて何が悪い。

○:まぁ…

全くもってごもっともな指摘に何も言い返すことができず僕は素早く別の部屋に移動しようとした。

和:どこへゆく?

○:え?

和:どこへ行くのだ?

○:どこって…和、着替えるんでしょ?
だったら、僕いない方が…

和:なんだ。
人間の女はそんなことを気にするのか?

○:え?逆に悪魔は気にしないの?

和:普通は気にする。

○:でしょうね…

和:しかしだな。

○:え?

和:コイビトである私たちが気にする必要がどこにある?

○:へ?

和:さぁ、とくと見よ。

○:あー‼︎ちょっと…‼︎ストップ‼︎ダメっ‼︎ダメだから‼︎

必死で止めに入ると彼女は不満そうな表情で僕を睨みつけていた。

和:そんなに見たくないのか?

○:うん‼︎

和:恥ずかしいのか?

○:うん‼︎

和:ならば、○○が恥ずかしがるのを見たいから…

○:あー‼︎ストップ‼︎ストップ‼︎

和:チッ…

○:し、舌打ち⁉︎

和:何だ?
舌打ちは可愛くないか?

○:えっ…ま、まぁ…

和は突然ショックを受けた様子で顔を押さえて倒れ込んだ。

○:あの…

和:○○‼︎どうすれば可愛くなれる⁉︎

○:うわっ…⁉︎

和:私はどうすれば可愛くなれるのだ⁉︎

○:い、今でも十分…

和:世辞など要らぬ‼︎
どうすれば!

○:とりあえず舌打ちはあまり…

和:うむ。

○:それだけで今は…

和:それだけなのか⁉︎

○:多分…

和:舌打ちをやめれば可愛くなれるのだな⁉︎

○:多分…

和:よし、やめよう。
金輪際舌打ちはせぬ。

○:…。

和:では、脱ぐぞ。

○:え⁉︎あ、ストーップ…‼︎

何とか説得して部屋から出ることに成功した。
最後まで彼女は不服そうだったけれど、こういうことに対して免疫のない僕にはそれはあまりにも重たすぎる。

ガチャッ

和:どうだ?

○:…。

それはどう見たって可愛かった。
はっきり言って全く地味なんかじゃない。
しかし、本人はこれを地味だと思い込んで着ている。

和:どうした?

○:あ、いや…

和:なんだ。勿体ぶらずに地味だと言ってみよ。

○:かわいいです。

和:かっ…かわいい…⁉︎

○:あ。

本音というものは簡単に漏れるものらしい。
いつの間にか口から可愛いという言葉が飛び出していた。

和:ぐふふふ…

○:あ、えーっと…

和:もっとだ‼︎
もっと言え‼︎

○:えぇ⁉︎

和:ほら‼︎

これは長引く。
そう確信した時にはもう時はすでに遅かった―


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