君と出会ってⅢ
ピロンッ
「割となんでも読むんですけど、ミステリーが多いと思います。」
○:ミステリー…
井:ん?なんか言いました?
○:え?あ、いや。
なんでもない。
井:そうですか
○:うん
井:そうだ
今日は焼肉を予約しました!
○:お、焼肉
いいね
井:でしょ!
食べたいなぁーってずっと思ってたんです!
○:僕も久しぶりに食べられて嬉しいかも
井:よかった〜
ほら、早く行きましょ!
○:あ、ちょっと!
井上さんに手を引かれて焼肉屋に着くと僕たちは10分くらい早く席に座らせてもらうことができた
井:ふーっ、疲れたぁ〜
○:わざわざ走らなくたっていいのに
井:いいんです!
○○さんとたくさん話したかったから
○:確か相談があるって言ってたよね
井:あー、はい
けど、今はその話じゃなくて別の話しませんか?
○:いいけど、大丈夫なの?
井:お酒が進んでからの方が話しやすいので
○:わかった
井:ちなみに飲み物どうしますか?
○:うーん…レモンサワーかな?
井:ですよね!
井:すみません!
店:はい
井:レモンサワー二つとカルビとハラミと…
一通り注文を終えて店員が席から立ち去ると井上さんはメニューから視線を僕に移してニッコリと笑った。
○:ん?
井:○○さんとご飯来るの久しぶりだなーって!
○:あー、言われてみれば
確かに久しぶりかもね
井:私の教育係外れてから昼ごはんも一緒に行ってくれなくなったから結構寂しかったんですよ?
○:はははは…まぁ、井上さんには同期もいるしさ
僕なんかよりもそっちと仲良くした方がいいよ
井:ダメですよ!
私、○○さんと話するのすっごく楽しいんですから!
たまには連れてってください!
○:そこまで言うならたまにはね
井:やった〜!
○:そんなに喜ぶ?
井:喜びますよ!
だって、教育係じゃなくなってから急に距離を感じて不安だったんだから!
○:そっか
全然気づかなかった
ごめん
井:いいんです!
今日、こうして約束できたから
こうして目の前で笑う井上さんをみて昔を思い出す。
入社して間もない頃は懐かない猫みたいにずっとクールで正直ずっと話しずらいなと思っていた。
あの頃は仕事よりもどうやったら彼女に心を開いてもらえるだろうかと考える方が悩ましかったのが懐かしい。
店:お待たせしました〜
お先にレモンサワーです
井:ありがとうございます
ん?○○さん?
○:ん?あぁ、なんでもないよ
井:考え事ですか?
○:あー、いやいやそんなんじゃ
ただちょっと昔のこと思い出してただけだよ
井:昔?
○:ほら、井上さんが入社してすぐの頃
ずーっとムッとしたままで僕、何話していいか分からなくてさ
結構悩んでたんだよ?
井:そ、それは…私女子大出身だったから…その…男の人と話したことなくて…
○:そうだったんだ
井:そ、それに…○○さんが優しくするからですよ!
○:え?
井:男の人に優しくされたの初めてだったから…その…
緊張しちゃって…
○:あ、そうだったの?
井:そうですよ!
だって…
○:だって?
井:もう!なんでもないです!
急に取り乱した様子の彼女はレモンサワーの入ったジョッキを一気に飲み始めた
○:あー、落ち着いて
井:んぐっ!ぷはぁ!
よし、飲みましょう!
ね!
○:そんなに急に飲んだら酔っぱらっちゃうよ?
井:大丈夫です!
私、最近練習してるので!
こうみえて結構強いんですよ!
○:へぇ…
井:ほら!○○さんも!
○:あぁ、うん
井:かんぱーい!
○:かんぱーい
一時間後、案の定井上さんはダウン気味だった。
井:うぅ…飲みすぎた…
○:ほら、いわんこっちゃない
井:だってぇ…
○:ほら、お水
井:すみません…
○:今度は無理しちゃダメだよ?
井:だってぇ…○○さんと話せて楽しかったからぁ…
○:はい、ありがとう
とりあえず、今日はもう帰ろっか
井:すみません…
○:いいから
とりあえずタクシー呼んだから会計したらすぐに出るよ
井:はぁい…
とりあえず会計を済ませて店の前でタクシー待ちをしていると井上さんはハラリと力が抜けたように僕に寄りかかった。
○:井上さん?
井:…。
○:寝ちゃった?
井:…。
○:住所聞いとくんだった…
井:…。
○:ほら、井上さん起きて
井:ん〜むり〜
○:井上さん、住所教えてくれないとタクシー出れないよ
井:むり〜
運:どうされますか?
○:えっと…じゃあ…
仕方なく自分の部屋に連れてくることにした。
散らかり気味だし、一度も人を呼んだことないこともあって連れ込むのは気が引けたけれどこうなっては仕方がない。
まぁ、今は寝てるし彼女が起きるまでにはなんとしてでも掃除を済ませるつもりだから散らかった部屋は見られずに済むだろう。
とりあえず井上さんが起きた時のために水を用意して、掃除してシャワー浴びて…
そうだ返信!
すっかり忘れていた。
「さく」さんに対する返信を。
しかし、ミステリーの話を掘り下げるにしてもどこかで粗が出てきっと上手く話せなくなるかもしれない。
そう考えるととてもじゃないがこのままの話題では行ける気がしなかったので、仕方なくちょっと話を変えることにした。
「ミステリー好きなんですね
好きな作家さんはいますか?」
――