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落としたのは恋心でしたⅡ

遠藤さんと別れてから街をひたすら走って
気づけば元カノの家の前に来ていた。

○:ハァッハァッハァッ…。

?:○○…?

○:遥香…?

賀:どうしてここに…?

僕はなにも言わずに抱き寄せた。
ただ、その温もりが僕の心の傷を癒すと信じて。


賀:き、急にどうしたの…?

○:ごめん…なんでだろ…

心の中ではきっと求めていたんだろう。
遥香という存在を。
そして同時に気づくんだ。
自らの愚かさに。

「いこっ…?」

促されるがまま彼女の自宅に足を踏み入れた。

賀:ごめんね。
ちょっと散らかってて。

全くそんなことは感じない。
むしろ、整然としたその部屋に生活感を感じないくらいだ。

賀:座って

〇:うん

賀:昼間のあれ…結構傷ついたんだからね

○:ごめん…

賀:ちなみにあの子誰なの…?


同居しているなんて言い出せなくて咄嗟に幼馴染だと答えた。

賀:そっか...

〇:...。

賀:あのさ…。
私、もう一度やり直したい…。

どこかでその言葉を待っていたのかもしれない。


○:僕も…

賀:○○…‼︎

彼女が満面の笑みで飛びついてくる。


賀:ねぇ…○○?
こっち向いて?

言われるがまま彼女と目を合わせると彼女は目を瞑った。

?:遥香?いるんでしょ?
ねぇ、遥香?

見知らぬ男性の声が鳴り響いて僕はすぐさま彼女と距離をとった。

○:遥香…まさか…

賀:違うの…!

○:なにが違うんだよ‼︎
やっぱり、君を信じた僕が間違いだった‼︎

賀:ねぇ…○○‼︎思い出して、私たちずっと一緒だったじゃん‼︎

○:あぁ、思い出したよ全部‼︎
君は最低だ‼︎
一体どれだけ僕を傷つければ気が済むんだ!

賀:違うの…!
お願い…信じて…!

○:サヨナラ。

ガチャ

?:えっ…⁉︎

僕は玄関で待つ彼氏らしき人物のことを気にすることなく家を飛び出した。
すると雷と共に雨が降ってくる。
すでに涙は枯果てた。
僕の代わりに空は涙を流し続けていた―

雨はどんどんと強さを増していく。
もう視界には何も映っていなかった。

ひたすら歩いた先、ポツンとドアの前でしゃがみ込む遠藤さんの姿があった。

遠:おかえりなさい。

○:…。

遠:心配しました。

○:すみません…。

遠:ねぇ、○○さん。
私が拾った落とし物、ちゃんと受け取って元に戻せましたか?

○:…。

遠:私は何度でも拾いますよ。

○:遠藤さん…。

遠:だって、○○さんは私を拾ってくれた命の恩人だから。

何が理由だろうと今の僕にとってはどうでもいい。
ただ、目の前にいる優しい人の腕の中で泣き続けることしかできない。
そんな僕を遠藤さんはなにも言わずに優しく包み込んでくれていた―

雨が止む頃には落ち着きを取り戻した。
僕が離れると遠藤さんは少し寂しそうな表情を見せた。

遠:もう、大丈夫ですか…?

○:はい…ありがとうございました…。

遠:いえ。

○:あ、鍵…開けないとですよね…。

遠:お願いします。

玄関に入ると彼女はシャツの袖をきゅっと掴んで僕を引き留めた。

遠:○○さん。

○:なんですか?

遠:びしょびしょのままだと風邪ひいちゃうからすぐにお風呂入ってくださいね?

○:え...?

遠:昨日の私みたいになったら大変ですからね!

遠藤さんは笑顔でそう言った。
彼女の優しさに触れるたび少しだけ心が満たされる気がした―

風呂から上がると遠藤さんが料理をしていた。

遠:あ、そういえば○○さんが私の着てた服濡らしちゃったので勝手にジャージ借りました‼︎

満面の笑みで彼女は冗談を言った。

○:あれ?
確か部屋着買ってましたよね?

遠:えっ…⁉︎
あれ?そうだっけ⁉︎

彼女は調理を一旦やめて買ってきたものの袋の中を確認すると、ものの数秒でそれは出てきた。

遠:あは…あははははは…

○:遠藤さんって天然ですか?

遠:え⁉︎違いますよ!
違います‼︎絶対に違う!

○:…。

遠:だいたい、私が天然に見えますか⁉︎

○:はい。

遠:○○さん、夕飯抜きにしますよ‼︎

○:えっ⁉︎
それは嫌です

遠:じゃあ、私天然じゃないですよね⁉︎

○:えっ、あ…はい。

遠:ん?なんか歯切れ悪いなぁ…
りぴーとあふたーみー
「さくは天然じゃない」

○:遠藤さんは天然じゃない。

遠:違う!違いますよ!
ちゃんと復唱してください!
「さくは天然じゃない」
さん、はい!

○:さ、さくは天然じゃない…。

遠:よくできました!
じゃあすぐに夜ご飯用意するのでちょっとだけ待っててくださいね!

――

「いただきます‼︎」

遠:ん〜!
美味しい!

○:美味しい…

遠:ほんとですか⁉︎

○:すごく。

遠:よかった〜
久しぶりに人に食べてもらって美味しいって言ってもらえて嬉しいです!

彼女の屈託のない笑顔を見るたびに心が安らぐ。
僕も自然と笑顔になれる。
そんな気がした。

遠:ねぇ、○○さん?

○:なんですか?

遠:私、○○さんのこと知りたいです

○:え…?

遠:だって、同居人のこと知らないと今後色々と大変でしょ?
ほら、好きなものとか好きなこととか!

○:あ、あぁ…わかりました。
なにから話せばいいですか?

遠:まずは好物!

○:好物?
う〜ん…海鮮丼ですかね?

遠:海鮮丼…

○:ん?なんですか?

遠:若いのにお肉じゃないんだなぁーって。

○:いや、若いからって誰でもお肉選ぶと思ったら大間違いですよ

遠:そうですかね?
私は断然お肉派ですけどね‼︎

〇:昼も食べてましたもんね

遠:じゃあ、好きな歌手は⁉︎

○:歌手は特にいないですね

遠:もしかして、あんまり音楽聞かないんですか?

○:そうですね
あまり聞かないです

遠:えぇ〜もったいない!

○:じゃあおすすめとかありますか?

遠:あります!
えーと、まずは...

そこから30分ほど語られた。
若干彼女の勢いに押され気味だけど、不思議と彼女の話は飽きなかった。

遠:が、いいんですよ!

○:なるほど...
後で聞いてみようかな

遠:ぜひ!
あ、最後にもう一つだけ聞いていいですか?

○:どうぞ。

遠:昼間の女性って…元カノ…ですか…?

○:…。

当然聞かれるだろう事は頭の片隅では意識していた。
けれど、遠藤さんなら聞かないんじゃないかって心のどこかで決めつけていた。
しかし、彼女もきっと勇気をもって聞いてきたに違いない。

○:やっぱり気になりますよね…?

遠:はい…。

○:わかりました。


本当は言いたくない気持ちもあった。
けれど、彼女にすべてを話してしまえばきっと楽になれる。
そう思って僕は口を開いた―

僕と彼女が出会ったのは高校一年の頃。
大会中、僕はサッカー部の一員として試合に出ている先輩たちを応援していた時のこと。

賀:ここ、いいですか?

〇:え?あ、はい...

偶然隣に腰かけた彼女を見て僕は一目ぼれした。
彼女は明るく気さくで、誰からも愛される彼女は一年生の中ではとても人気で、先輩たちにも一目置かれる存在。
当時部活に必死に打ち込んでいて色恋に全く興味がなかった僕でもその存在は知っていたくらいの存在。
到底僕では適うはずのない初恋の相手だった。

高校2年、サッカー部でレギュラーを掴み取って初めて臨んだ総体。
毎試合、観客席には彼女の姿があった。
それだけでなぜだか力が湧いてくる気がして僕は張り切っていた。

結果は優勝を勝ち取ってインターハイに出場が決定した。
学校に戻ると多くの生徒や先生たちに祝福を受けた。
もちろん、たくさんの人に祝ってもらえて誇らしかったけれど、何より嬉しかったのは写真部の部室前に張り出されていた今週の一枚に僕の写真があったこと。

撮影者の名前を見ると
「賀喜遥香」と書かれていた。

パスを出したシーン。
ポジション柄花形じゃないし、チャンスのシーンでもなかったはずなのに選んでくれた。
僕はそれが嬉しくて仕方がなかった。

ある日、下駄箱に入っていた差出人不明の手紙。
中には「放課後、屋上で待ってます。」と書かれていた。
普段は来ることのない場所の扉を開けるとカメラを持った彼女の姿があった。
まさか、そんなわけがないとしばらく屋上で風に吹かれ手紙の送り主をしばらく待つことにした―

カシャッ

シャッター音がして振り向くと賀喜さんがこちらにカメラを向けて立っていた。

○:え…?

賀:あ…あの…!

○:ん?

賀:○○くん…だよね…?

○:あ、はい。

賀:急に呼び出したりしてごめんね

〇:いえ…。

「突然なんだけど、私と付き合ってくれませんか…?」

○:え…?


まさかあの賀喜さんが僕を呼び出した張本人だったなんて。
それに、告白までされたのだから。

賀:へ、返事は後でいいので…‼︎

そう言い放った彼女は屋上から走り去っていった―

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