君と出会ってⅠ
前の彼女と別れてからもう数年が経つ。
就職してからお互いに忙しくて、すれ違うことも多くて。
このままじゃダメだと思って僕から別れを切り出した。
初めは嫌だ別れたくないと何度も言っていた彼女も途中で諦めてそのまま別れることになった。
同:お前さ、そろそろ彼女とか作らないの?
○:うーん、まぁ歳も歳だしそろそろ結婚とかも視野にしなきゃいけない歳だよね…
同:なんかないの?
○:いや、まったく。
大体職場と家の行き帰りしかしてないし出会いなんてないし、当然始まりもしないよ。
同:拗らせてるな。
○:拗らせてるって何を?
同:元カノ。
○:いや、そんなことないって。
同:いーや、絶対そうだね。
○:だって、別れて数年も経ってるんだよ?
いまだに拗らせてるってだいぶ女々しいし。
同:お前ってそういうタイプだろ。
○:うっわー、何をわかった様なことを
幼馴染とかじゃあるまいし
大体、出会ってから6年くらいしか経ってないだろ?
同:何言ってんだよ
数々の死線を潜り抜けてきた俺とお前の関係だろ?
○:あー、はいはい
同:なんだよ釣れないな。
○:いいから。
そういう君はどうなの?
同:マッチングアプリ始めたんだよ
○:へぇ
同:そしたら、みるみるうちにいいねが来てトークして会ってって。
大体20人くらいは会ったかな?
○:そんなに…⁉︎
同:おう
○:でもなんかそういうのって…その…はしたなくない?
同:そんなことないだろ。
大体、こういうのはお前みたいな「職場と自宅の行き来しかしてないから出会いがないですー」って言うやつが多い今の若者にこそ必要なツールだろ。
○:まぁ…
同:それにはしたないとか言うけど、昔のお見合いがマッチングアプリに置き換わったくらいで男も女も選り好みして相手を決めるって本質は同じだろ?
○:でもさ、20人でしょ?
さすがに罪悪感とかないの?
同:ない
だって、相手も数千いいねとかもらって、その中からまた何十人と選んでトークして会ってるんだからお互い様だろ?
○:…。
同:ほら、お前もやってみろよ。
このアプリ。
○:考えとく…
――
家に帰ってからベッドに寝転んで同期が言っていたことを思い返していた。
親からもそろそろ結婚相手はいないのか?彼女はいないのか?と実家に帰るたびに聞かれる。
その度に笑って誤魔化して。
ちょっとだけ居心地が悪くなって。
今では夏に一回と年末にしか帰ることはない。
「入れてみるか…」
ピコンッ
彼女の1人くらいできれば少しくらいは親も安心してくれるだろうと淡い期待を胸に僕はアプリをインストールした―
あれから1ヶ月くらいが経った。
初めの頃はアイツに言われた通りに毎日いいねをしていたけれど、今ではそんな気も起きなくて契約が切れるのと同時に辞めるつもりでいた。
今日だって多分3日ぶりに開く。
ピロンッ
「いいねが届きました」