落としたのは恋心でしたⅣ
朝、目覚めると遠藤さんに抱きつかれていた。
○:遠藤さーん…。
こんなにぎゅっと抱きしめられていると、動きたくても動けない。
何度か呼びかけてみたけれど全く反応もなく、規則正しい寝息が胸元から聞こえるだけだった。
〇:仕方がないか...。
そう呟いて僕は再度眠りにつくことになった―
遠:ンンッ..ハッ⁉︎
○:..。
遠:よかった...○○さん起きてない...
助かった。
抱き枕がないと眠れないなんて恥ずかしいこと絶対に言えない
私はこっそり逃げ出すように飛び起きて冷蔵庫にあるものを使って朝食を作ることにした。
遠:○○さ〜ん、起きて〜。
○:..。
遠:お〜い、○○さ〜ん。
○:うーん..あ、おはようございます..。
遠:おはようございます!
朝ごはんできたんで食べましょう!
○:ありがとうございます。
「いただきます!」
遠:ん〜!やっぱり朝はお味噌汁ですね!
○:そうですね
遠:最高に美味しい〜‼︎
○:そうだ。遠藤さんにお聞きしたいことが
遠:ん?なんですか?
○:遠藤さんってお仕事されてますか?
遠:はい。してますよ。
○:じゃあ、平日の日中はここにはいないですよね?
遠:はい!
それがどうかしました?
○:あ、いや…僕最近在宅勤務が多くて…
遠:あぁ…なるほど!
○:もし、ここに日中もいるのであれば迷惑かけちゃうことも多いかなって。
遠:多分、大丈夫です!
もし、いたとしても気にしなくていいですよ!
○:いやいや…そう言うわけには…
遠:いいですって!
もしかしたら、私もリモートの日あるかも知れないですし!
○:では、その時はお互いに邪魔しないようにしましょうか。
遠:そうですね!
○:では、そういうことで。
遠:あの…!
提案があります!
○:ん?
遠:敬語じゃ何かと不便なので敬語ナシにしませんか?
○:あぁそういえば。
遠:ね?いいでしょ⁉︎
○:徐々になら。
遠:徐々にじゃないとダメですか?
○:え?あ、遠藤さんは好きにしてもらっていいんですけど、僕はその..タメ口苦手で..。
遠:なるほど。
じゃあ、私も徐々にって感じにします!
○:わかりました。
遠:ちなみに、今日予定ありますか?
○:いや、特には。
遠:じゃあ、私と息抜きに行きませんか?
○:いいですけど…
遠:それじゃあ、テーマパーク行きましょ!
――
遠藤さんに連れられてやってきたテーマパーク。
おそらく記憶を遡るに3年ぶりだと思う。
色々なアトラクションに乗って、キャラクター達と触れ合って、食事をして。
その隣にはいつも遥香がいてお互いに笑顔が溢れていた。
遠:○○さん?
○:えっ…?
遠:遥香さんのこと考えてたでしょ?
○:いや…
遠:お見通しですよ
○○さん悲しい顔してたから。
○:…。
遠:今日は忘れちゃうくらい楽しみましょ?
遠藤さんは僕の右手を掴んで近くにいたキャラクターのもとに向かった。
遠:可愛い!
キャラクターは遠藤さんにぎゅっと抱きつかれてかなりタジタジのご様子だ。
○:遠藤さん。困ってますよ。
遠:え?そんなことないよね?
キャラクターはしきりに首を振っている。
遠:だよねっ!やっぱり大好き‼︎
アトラクションでも―
遠:楽しみっ!
○:そうですね
遠:楽しみですよね⁉︎
○:まぁ…
遠:楽しみだなぁ〜
○:遠藤さん
遠:ん?
○:無理に喋らな…
遠:あ!列が動いた!
――
遠:ね!○○さん!
アトラクション中の写真コーナーで変顔しましょ!
○:え、嫌ですよ。
遠:あ、次ですからね!
絶対やりますよ!
○:だから…
ス:次の方どうぞ〜!
遠:楽しみ‼︎
○:うわっ⁉︎あんまりはしゃがないで!!
――
遠:アハハハハ!
○○さん、目閉じてる 笑
○:そういう遠藤さんだって下向いちゃって何も撮れてないですよ‼︎
遠:だって怖かったんだもん!
○:変顔しろって言ったのそっちですよ?
遠:なっ⁉︎もう、怒りましたよ!
次のアトラクションで一番余裕だった人が今日のお昼ご飯ご馳走します‼︎
○:いいでしょう。望むところです!
そのパーク内で最もスピードの出るアトラクションに並んだ。
遠:ね、○○さん?
○:なんですか?
遠:今日楽しい?
○:はい、おかげさまで。
遠:よかった。
嬉しそうに微笑む遠藤さんを見て少しだけ笑みが溢れた。
遠:あ!やっと笑った‼︎
○:え?
遠:○○さん、今日一度も笑わなかったから不安だったんです。
とても申し訳ない気持ちになった。
自分では気づかないうちに遠藤さんを不安にさせてしまっていた事に
ス:次の方〜
遠藤さんは足がすくんで歩き出せないみたいだった。
○:遠藤さん?
遠:や、やっぱり怖い…
○:でも、乗るしかないですよ。
遠:でも…。
○:ほら。
遠藤さんの左手を握ってアトラクションに乗り込む。
遠:えっ…⁉︎
○:ほら、ベルト締めてください。
落ちますよ?
遠:あ…は、はい…!
スタッフがベルトを締めたことを確認して出発の合図をする。
ス:それではいってらっしゃ〜い‼︎
アトラクションが出発する。
初めはかなりゆっくりだったけれど、突然スピードが上がって…
遠:わわっ…‼︎
○:遠藤さん!手放してみて!
遠:ヤダ!死にたくない!
○:死なないから‼︎ほら!
遠:きゃーっ!
結果を言うと遠藤さんは写真のタイミングでしっかり手を挙げた。
遠:こ、これは…
○:遠藤さんって意外と怖がりなんですね。
遠:ち、違うもん…‼︎
今日はたまたま…
○:たまたま怖いなんてことないでしょ
遠:ううっ…
○:さ、昼食食べましょ
遠:はい…
○:ほら、元気出してください
僕がご馳走しますから。
遠:えっ⁉︎ホントですか⁉︎
遠藤さんはみるみるうちに笑顔になっていく
○:何食べたいですか?
遠:やっぱりお肉‼︎
○:ははは…相変わらずですね
遠:お肉がなきゃ私生きていけません‼︎
○:大袈裟じゃないですか?
遠:そんなことないです!
それくらい大好きですから!
――
遠:ンンッ〜!チキン美味しい‼︎
特にこだわりはなくて、お肉ならなんでもいいらしい。
それにしても彼女はよく食べる。
小さい口を一生懸命大きく開けてとにかく頬張る様はまるでリスみたいだ。
遠:ん?
○:いや、なんでもないです
遠:えー、もしかして私のチキン狙ってたんじゃないですか〜?
○:そんなわけないでしょ
食事が終わるとまた二人でパーク内を回り出した。
「次、あれ‼︎」
「あれも面白そう!」
「可愛い‼︎」
とにかく彼女は一日中はしゃぎまくった。
夜になるとパレードが始まった。
しかし…
遠:パレードよりもアトラクション‼︎
人の波に逆らってぐんぐんと彼女は歩みを進めた。
遠:最後にこれ!
指さしたのはメリーゴーランド。
遠:恥ずかしいですか…?
○:いいですよ。行きましょう。
遠:やった!
大人になってからメリーゴーランド乗ったの初めてかも
○:たしかに
けど、遠藤さんはまだ子供って感じがしますよ。
遠:え⁉︎私が⁉︎大人ですよ‼︎
立派な‼︎
○:いやいや!全然子供でしょ!
遠:どこが⁉︎
○:はしゃぎ方とか怖がり方とか、食事中の幸せそうな顔とか。
他にも挙げたらキリがないですよ。
遠:え〜?そうかな…?
○:はい。
あ、次ですよ
遠:え、あ、ちょっと待ってくださいよ‼︎
遠藤さんは白馬に乗り、僕はその隣にあった適当なものに乗りこむとしばらくして、メリーゴーランドが動き出した。
○:遠藤さん!
遠:ん?
○:こっち向いて!
スマートフォンのカメラを遠藤さんに向ける。
カシャッ
写真に映る遠藤さんは優しく微笑んでいた―