「マッキンダーの地政学」を読む
拝啓 奥さんへ
最近は地政学の本が増えましたが、古典的なものである原書房の「マッキンゼーの地政学」を読みました。本当は英語で読むべきなのですが、なかなか大変なので、翻訳になっているテキストは、極力翻訳を使う方が良いと思います。もしどうしてもわからない箇所があるときは原文を参照するという読み方が良いと思っています。
夫の好きな佐藤優さんが「現在の地政学」という書籍を出しており、それは「マッキンダーの地政学」を教科書にした講義録なのですが、そちらと合わせて地政学についてご紹介したいと思います。
マッキンダーの地政学のポイントは「ハートランド」です。
ハートランドという地政学上の要となる場所が世界には二つあるというのがマッキンダーのモデルで、一つはユーラシア、ロシアのあたりから中国の内陸部に入ってくるところです。それからもう一つは、サハラ砂漠の下の南アフリカ。この二か所をマッキンダーはハートランドと呼びました。住むのはとても難しいけれど、豊かな資源がある地域です。このハートランドを押さえた国が世界覇権を握るというのは、マッキンダーの仮説です。
そして沿岸地帯。沿岸地帯は大きく見ると二つしかないんです。中国からインドまで、あるいはカムチャッカ半島までの沿岸です。モンスーン気候の影響を受ける、穀物がたくさん取れる、人口がたくさんいる地帯です。それからヨーロッパの沿岸。同じくヨーロッパの暖流の影響を受けて、比較的雨がよく降って、食べ物が良くとれる。こういったところに世界の中心がある。マッキンダーはこういうモデルで世界を見ていきます。
地政学のポイントは何かといえば、「長い時間が経っても動かないもの」です。だから、民族のような近代的なものは地政学には入りません。それから資源も入りません。石油は大昔からアラビア半島にあったけれど、地政学の基本要因ではありません。
もう一つの大事なポイントは、「山」は制圧するのが難しいという点です。
地政学とは地理です。なぜならば地理的な要因はなかなか変化しないからです。その中で重要なポイントは「山」なのです。海の問題ももちろんあります。海についてはマハンを参照してもらうとして、今の国際情勢で障害になっているところは全部、「山」です。例えば、なぜアメリカはアフガニスタンを平定できなかったのか。これはアフガニスタンという国の地形がほとんど山だといっていいからです。
要するにまとめると、「山」の周辺地域を巨大な帝国が制圧して、自らの影響下に入れることは難しいという、このマッキンダーの地政学的な制約条件は、現在も生きているということです。だから、私たちは地図を見るとき平面で見るけれど、立体で地図を見てみる努力をするべきであるということです。山があるということは大変な障害の要因になるし、これを理解してほしいということです。
何度も繰り返しますが、地政学的要因で一番重要な要因は地理です。特に、その中でも重要なのは「山」です。これからの地政学的要因で説明できないようなことが出てきたときん、どういう文化的要因があるのかを考えること。文化的要因の中でも長いスパンで影響を与えて、地政学的な要因に限りなく近いことは何かというと、それが例えば人種や宗教のような概念となります。こうした長いスパンで影響を与える概念と、比較的近代になってから起きた科学技術の進歩や、民族などの概念を一程度分けて、相互に動的な分析をするというのが地政学の要です。
ヘーゲルの「海と川は人間を接近させるが、山脈は人間を分離させる」というのは、地政学的発想そのものであるし、「地理的環境の性質は生産力の発展を条件づけ、生産力の発展はそれとして経済関係、ついで他のすべての社会関係の発展を条件づける」というのも、地政学とマルクス主義の結合です。
地政学については長くなりそうなので、本日はこのくらいにしておきます。多謝。