なぜMHストーリーズ2はこんなにも面白いのか(ネタバレなし)
『モンスターハンターストーリーズ2~破滅の翼~』(以下「MHST2」)の発売日である7月9日、私は限りなく「無」の感情でこのソフトを起動した。まさに今から遊び始めようとしているタイトルに対して、私はただの1ミリも関心を持っていなかった。なぜそんな人間が発売日の午前0時からコントローラーを握っていたのか。それは、MHST2の第2弾無料アップデートに「マムタロト」が登場することが予告されていたからだ。
昔からのフォロワーは、私がMH:Worldでマムタロトに狂っていた時期を知っているかもしれない。ともかく、私がMHST2の購入に際して支払った6900円は、その全額が「推しモンスターであるマムタロトを拝む」ためだけの対価であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。マムタロトが実装されるまでのゲーム本編に関しては、面白かろうが面白くなかろうがどうでもいいとさえ思っていた。マムタロトに会うことだけが私の目的の全てだったのだ。
ところが。ある意味で「消化すべき前座」に過ぎなかったシナリオ部分を進めてゆくうちに、当初は全く興味すら抱いていなかったMHST2というゲームに強烈に惹かれていった。ここまで寝食を忘れるほどにゲームに没頭したのはいつぶりだろうか。実際に触れてみるまでは、失礼ながらも「モンハンの名前だけ借りたスピンオフ」程度にしか捉えていなかったのだが、そんな考えはあっという間に消え去った。シナリオをクリアした今言えるのは、MHST2が紛れもなく「モンスターハンター」であるということ、そして、本家アクションシリーズを凌駕するレベルの超大作であるということ。
「プレイ前」のMHSTに対する誤解
私が前作の購入を見送った理由のひとつに、「バトルに攻略性がなさそう」というものがあった。さまざまなメディアでMHSTの戦闘画面を見る機会はあったが、なにやら試合の基軸となるシステムに「じゃんけん」が採用されているようなのだ。実力でカバーしようがない"運"という不確定要素が勝敗に影響するのは、特にアクション出身のプレイヤーにとってはあまり嬉しいことではない。聞くところによると、前作では”部分的には”本当にそうだったらしいのだが、先に言っておこう、MHST2に限っては全くの杞憂だった。
MHST2における「じゃんけん」要素について簡単に説明しておくと、パワー/スピード/テクニックの3種類の手が3すくみの構造を取っており、パワーはテクニックに勝ち、テクニックはスピードに勝ち、スピードはパワーに勝つという仕組みである。ここまでは普通のじゃんけんと変わりはない。決定的に違うのは、敵のモンスターが出す手がバトルの最初から最後までずっと同じであるという点である。(怒りや状態変化が発生している場合には非怒り時とは出す手は変わるが、それもそれで固定だ)
例えば敵のドスジャギィの場合、どの個体であっても非怒り時はテクニック、怒り時はスピードしか出さない。したがって相対する我々は、ドスジャギィの非怒り時にはパワーを、怒り時にはテクニックを出し続ければ、延々とじゃんけんに勝ち続けられるわけだ。これだけ説明すると「とんだ作業ゲーじゃねえか」とあちこちから怒号が飛んできそうであるが、少し待ってほしい。じゃんけんに勝つことはバトルの目的ではなく、手段のひとつに過ぎない。しかしどうして、勝ち確なはずのじゃんけんが「手段」足り得るのか。さらには、この勝ち確じゃんけんが組み込まれたバトルに「戦略性」なるものが生まれる理由とは何か。ここからが非常に面白いポイントだ。
絶妙すぎるバトルの駆け引き
まず大前提として、このじゃんけん、プレイヤー側に「勝ち手」がわかる設計になっているだけのことはあって、「負けること」がほぼ許されない。万が一にでも負けるようなことがあれば、あまりにも痛すぎるダメージを食らう。どれくらい痛いかと言えば「ランゴスタのような小型モンスターに対してであってさえ、こちらが負け手を連発しようものなら普通に乙る」くらいには痛い。相手が大型モンスターともなれば言わずもがなだ。
バトルは基本的には味方が複数人、敵も複数体という環境で展開される。味方は自分のキャラクターと自分のオトモン、そしてシナリオを一緒に戦ってくれるNPC共闘パートナーとそのオトモンの合計4人。敵は多くの場合2体から3体を同時に相手にすることになる。バトルはターン制で行われ、自身のターンにおいて取れる行動はじゃんけんの手を出す以外にも、絆技やスキル、アイテムの使用など多岐にわたる。これは相手も同じだ。
ここで、じゃんけんが初めて成立するのは「じゃんけんの手を出している者同士が互いを攻撃対象として選んでいる」場合のみである。自分自身が敵モンスターからじゃんけんを申し込まれた時は単純で、そのモンスターに対して「勝つ手」を返せばよい。問題なのは、じゃんけんの手を出そうとしている敵モンスターの攻撃先が自分以外の味方NPCに向いており、なおかつ彼らが「負け手」を選択してしまっている場合だ。というのも、プレイヤーが操作できるのは自分のキャラクター(と自分のオトモン)だけだからである。
そのような状況を打破するために、じゃんけんの成立自体を強制的に無効にさせるような行動選択肢も豊富に用意されている。そういった選択肢の多くは「絆ゲージ」なるものを消費して発動するのだが、複雑なことに、この絆ゲージを貯める唯一の方法もまた、じゃんけんに勝つことなのである。バトルにおいては「味方がじゃんけんに負けざるを得ない」状況に追い込まれないよう、常に先を見据えて戦略を練ってゆく必要がある。
「じゃんけんでの負け」は、アクションで例えるなら「敵モンスターの攻撃に被弾すること」に等しい。ラージャンがブレスを吐こうとしている瞬間に、堂々と真正面に仁王立ちするハンターはいないだろう。少なくとも「真正面以外」に位置取ることは絶対として、そのうえで、横から頭を殴ろうかとか、後ろに回り込んで尻尾を斬ろうとか、次の戦略を立てるはずだ。敵の予備モーションと味方の立ち位置を見て、自分の振舞いを決める。MHST2のバトルシステムは、まさにMHアクションシリーズの立ち回りをそのまま体現しているのである。
多彩な武器種とその戦略性
バトルにはじゃんけん以外にもたくさんの要素がある。じゃんけんはあくまで「相手の行動をしっかり見よう」という狩りの導入部に過ぎない。この作品は、間違いなく本家アクション以上に「ゴリ押し」というものに対して手厳しい。じゃんけんでの負けもまさにそうだが、最たる例は肉質であろう。
多くの大型モンスターには、頭部や尻尾、翼などのように複数個所の部位が存在する。バトルで攻撃対象を選ぶ際には、どのモンスターを攻撃するかだけでなく、そのモンスターの「どの部位」に攻撃するかも毎回選択を行う。部位には斬/打/突の3種類の肉質があり、ライダーは相手の肉質に応じて武器種を使い分ける立ち回りを求められる。(実を言うとMHST2には6種類の武器種しか存在しないのだが、それぞれが非常に良い持ち味を出しており、遊び心地においては6つで充分すぎるほどだ)
武器はターンごとに持ち替えることも出来るので、「さっきは斬肉質の柔らかいこのモンスターの尻尾を大剣で狙っていたけど、次は打肉質の柔らかいこっちのモンスターの脚を狙いたいからハンマーに持ち替えよう」といった戦略も可能だ。しかし、あまりにもコロコロと武器を持ち替えていると、今度は武器種固有の大技を出すことができなくなる。大技を繰り出すためには、本家と同様その発動までに数コンボ(数ターン)を要するのである。
かといって「自分は大剣が好きだから、ずっと大剣1本で戦いますね」といった戦い方はとても推奨されるものではない。斬肉質が硬い部位には、斬属性の武器種の攻撃はほぼ通らない。ご丁寧にもゲーム画面のUIで該当部位の斬肉質マークのところに×印を付けて教えてくれるほどである。ここに「今持っている武器種で狙いたい相手」と先の「じゃんけんで対応するべき相手」が相反した日には、さらに駆け引きは加速する。
そこに「狩り」の真髄が全て詰まっている
モンスターに部位が存在するということは、当然「部位破壊」の概念も存在する。ベリオロスの棘を破壊すれば、ベリオロスはダウンする。このあたりの挙動も完全に本家準拠だ。モンスターのダウン時には味方の攻撃が全てクリティカルヒットとなり、大ダメージを叩きこめるチャンス。そうすると次には「ダウン時に強い攻撃を当てたい欲」が自然と湧いてくる。
しかし先述したように、絆技を発動させるためにはあらかじめ絆ゲージを貯めておく必要があるし、武器の大技もいきなりは繰り出せない。となると、ダウン読みでダウンの数ターン前から調整を始める、といったテクニックも自ずと生まれてくる。ミクロ(被弾回避)とマクロ(武器コンボと怯み値管理)が混在したこの手のチャート構築は、MHアクション出身者ほど、さらにはそのなかでもTAプレイヤーであるほど楽しめるのは間違いないだろう。
ここまでの説明で「MHST2はもしかしたら、かなり難しいゲームなんじゃないか?」と思われてしまうかもしれないが、シナリオ進行においてバトルに勝つこと自体はそう難しくはない。冒頭に述べたじゃんけんの仕組みさえしっかり押さえておけば、子供でもきちんと勝てるし、楽しめるようにできている。私が伝えたいのはその先で、同じ勝ちだとしても、もっと早く狩れるのではないか、もっと美しく、もっとロマン溢れる戦略が取れないか、そういった好奇心と向上心に、MHST2は必ず全力で応えてくれるということだ。
◇
プレイ初日、最初の拠点を締めくくる小ラスボスと対峙したときに強く感じたのが、「あっ、いまモンハンしてる…!」ということだった。それはまるで、本家アクションで同じモンスターを狩っているのに近い不思議な感覚。もちろんMHST2はアクションゲームではないのだが、その驚異的なまでのシステムデザインによって、この狩猟体験が実現している。MHST2の企画開発で「敵のモンスターはじゃんけんでずっと同じ手を出し続けることにしましょうよ」と提案した人に私はノーベル賞を贈りたい。この文面だけを見て、誰が楽しいバトルになり得ると想像できただろうか。私はこの夏、モンスターハンターストーリーズ2を全力で遊び抜く。
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