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構造がわからなくても大丈夫!それっぽく着物を描く方法

KUAイラストアドベントカレンダー、12月4日はイラストレーションコース研究室の海瀬先生から『構造がわからなくても大丈夫!それっぽく着物を描く方法』です!


こんにちは。KUA通信教育課程イラストレーションコースの研究室スタッフの海瀬(かいせ)です。
私は日本文化に強く惹かれており、好きな絵画や作家も和風テイストの作風が多いです。自分でも「着物」を描く機会が多いのですが……なんだか着物って敷居が高い気がしませんか?

イラスト初心者にとって、着物は「描きにくい服装」というイメージがつきがちです。私も最初はそうでした。ですが、自分なりに描き方を追求しているうちに、最初に思っていたよりも、難易度はさほど高くないということに気づきました。

着物の袖は難所であると同時に「見せ場」である

インターネット上には、着物の構造を図解しながら描き方をレクチャーする記事や文献がたくさんありますよね。私も最初はそういった参考資料を見ながら描き方を練習していましたが、描き慣れない頃はずっとこう思ってました。
「正直、構造を見ても袖の動き方がわからない……」

着物の構造を記した資料をみても、いざそれに袖を通したときどうなるのか?腕を曲げた時に袖はどう見えるのか?そのイメージが全く湧かなかったわけです。

対して胸やお腹や足など、袖以外の部分の構造は単純で、描くこともそこまで難しくは感じませんでした。着物を描く上で大きな難所は「袖」。それ以外の難易度はさして高くないのです。

袖は着物が持つ「美しさ」や「しなやかさ」を表現するために大切な「見せ場」です。ここを上手く描写できれば、着物の魅力を引き出すことができる要素とも言えます。

美しい着物を描くためには…袖のシワの付き方を覚えよう!

衣服を上手に描く上で重要なポイントは「構造と動きに沿ったシワの付き方」を覚えることです。下の画像のように、衣服にシワを描かないのと、しっかり描くのとでは、大きく変わります。

着物にもシワの付き方があり、規則性があります。「この服を着て、こう動くと、こういう形になって、こういうシワができる」というのは、おおかた決まっているのです。

着物の袖は布面積が多く人体との間にゆとりがあります。それ故にシワが生まれやすく、袖口の形状も変わりやすいですが、人体の動きに即した規則的なシワは必ず生まれます。そのシワの付き方のパターンを覚えて描写するだけでも、着物の袖が生み出すの魅力を表現できると、私は考えています。

腕を動かした時の袖の動き方を見てみよう

下の画像は、女性が着物を着て袖を動かした時に生まれるであろう大きなシワと、袖口の形の変わり方をスケッチしたものです。

腕をおろしている時(①〜②)、袖の形は三角に近いですが、腕をあげるにつれて(③〜④)台形に近い形に変化していきます。これは着物の袖の形が、元々長方形だからです。腕をあげるにつれて下の方で縮んでいたシワが伸びてゆき、元の形に戻るのです。

①で腕をおろしている時、袖の下側で縮んでいる布の一部が、腕の後ろへ内側に向かって流れます。①を正面から見たとき、後ろに流れた袖は前にある手に隠してしまっても不自然ではありません。対して、②は後ろに流れた袖の位置から手がずれてしまっているので、袖をちょこっと覗かせるとリアリティのある描写に近づきます。

次は、腕を胴体の前に出した場合のスケッチです。

腕が胴体の横にあった時、袖口の中は見えませんでしたが、腕を前に出すと袖口の中が見えてきます。袖口の基本的な形状は、涙を逆さにしたようなシルエットですが、動かし方によって少しずつ変わります。肘を曲げれば曲げるほど袖口が広く開いていき、涙形のシルエットも伸びていきます。

また、⑦と⑨のように体の中心に向けて肘を曲げると、袖の下部が二段に重なったような見え方になります。

着物の写真や画像でもいいので、ポージングごとにシワの付き方をじっくり観察してみると、着物の動きの規則性に気づくことができます。

平面的な図面から立体を想像するのが難しい時は、すでに立体化しているものを見て「記号化」して捉えてみるのも、理解するための道のりになります。

実際、私は着物の描き方を覚える時に、袖の動き方を記号で捉えて考えたあと「ああ、ここはこういう構造だから、この形になるんだな」と気付き、結果として着物自体の構造を理解することにも繋がりました。

シワはシンプルな線でも美しく見える。浮世絵から見る着物の表現

江戸時代から大正時代かけて日本の風俗が描かれた「浮世絵」の中にも、着物の描き方のヒントが多く隠されています。浮世絵で描かれる絵は写実的なものではなく、デフォルメの効いたものが主流です。
着物においても、細かなシワは描かずに必要最低限の線でシンプルに描かれたものが多くあります。

歌川国貞・歌川広重 – 宮 [双筆五十三次 謎解き浮世絵叢書より]


浮世絵の名門・歌川派の歌川国貞・歌川広重が描いたこの絵も、着物の形状の細かな描写は省略されていますが、きちんとあるべき場所にシワがあり、袖の動きも自然なものになっています。

傘を持って肘を曲げた左腕の袖口は涙のような形になっており、袖の下の部分が胴体に寄って内側に流れているのが見受けられます。


歌川国芳 – 木曽街道六十九次之内 桶川 玉屋新兵衛 小女郎 (The Sixty-nine Stations of the Kisokaidoより)

こちらは、同じく歌川派の歌川国芳が描いた作品です。
手前の紫色の着物の女性に注目してください。ほんの少し内側に曲げられた右腕の袖が、二段になっているのがわかります。
また外側に伸びている左腕の袖は、下の部分のシワが伸びて、台形になっているのも見受けられます。

こうして見てみると、浮世絵の中にも、前項で私が描いた袖のスケッチに通ずるパターンが存在するのがわかるかと思います。

浮世絵には、古くから伝わる日本美術の技巧が詰まっています。
一見すると写実的ではありませんが、名画として後の世に残る浮世絵の多くは、実際の人体構造に基づき人物が描かれているのです。その上で、美術的に有効なデフォルメを加えて、必要な描写と不要な描写の足し算と引き算がしっかりされているので、着物を記号化して捉えるための参考資料におすすめです。

まとめ

ここまで、着物の表面的な部分にのみ触れ、構造については深く掘り下げずに描き方を説明してきましたが、もちろん全体的な構造をしっかり理解したほうが、よりリアリティのある魅力的な着物を描けることに間違いはありません。いわゆる「着物警察」を唸らせるような、素晴らしい着物描写を生み出すためには、構造を理解することは必要不可欠です。

ただ、「構造を理解できない」「上手く描けそうにない」と考えて、着物を描くことを忌避するのはとてももったいないです!

洋服は体の各部位のシルエットがわかりやすいものが多いですが、着物は腰や脚のシルエットが見えにくい構造になっています。それゆえに、描き慣れていなくても多少ごまかしが効く箇所が洋服以上にたくさんあるのですが、布の動きが複雑に見える「袖」という存在が、着物を描くまでに存在する大きなハードルになりがちです。
しかし、着物の袖を描くことは、決して難易度の高いことではありません。動きに合わせて出来るシワの位置と布の動きのパターンさえ覚えてしまえば、誰でも着物が持つ「美しさ」と「しなやかさ」を表現できると私は思います。

今回の記事が、読者の方々の創作活動の幅を広げる一助になれば嬉しいです。

プロフィール
海瀬 香里
京都芸術大学 通信教育部 イラストレーションコース
講師


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