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ラフ検討のススメ(単純化と色と構図)|しまざきジョゼ

KUAイラストアドベントカレンダー、12月21日はイラストレーターのしまざきジョゼ先生から『ラフ検討のススメ(単純化と色と構図)』です!


京都芸術大学アドベントカレンダー21日目を担当するしまざきジョゼ(@joze_phine_)です。絵を描く人なら誰もが知っている「ラフ」。

これは仕事としてイラストを描いていく上でも非常に重要なものです。ですがそもそも仕事における「ラフ」とは何を指すものなのでしょうか?

SNSをみていると、下書きのようなイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし基本的にラフの役割とは、アイデアを共有するための「設計図」のようなもの。イラストを仕事にしている方と話をしていると、時折「ラフの制作に苦労した」という話題になることがあります。

さまざまなところで見かけるラフですが、実際の制作方法について言及している記事は少なく、仕事として複数案を検討するようになって初めてたくさんの案出しを経験した、という方も少なくないようです(私もそのひとりです)。今回はそんな「ラフ」の制作について、筆者の方法をご紹介していきたいと思います。

最低限の情報で検討する

人間の視覚情報のなかで最も重要なのが「明暗」です。モノクロの写真や映画を見るとわかるように、彩度や色相といった鮮やかさや色味の情報は、案外無くても何が写っているのか理解できますよね。ですが明暗の無い写真というのはおそらく「何が写っているのかさっぱりわからない」という感想になると思います。

あるいは線画のイラストはどうでしょうか。線も明暗を利用した表現であると言えますね。このように、絵における最低限の情報とはモノクロであることがわかります。

これを利用してアイデアスケッチの段階はモノクロで検討するというのが、私がおすすめする方法です。

先に3点のイラストを提示しました。これらはカラーの作品ですが、モノクロにしてもどんな絵か理解できる整った絵だということがわかります。

このことから「伝わりやすい絵のラフはモノクロでも伝わりやすい絵だとわかる」と考えることができるわけです。

単純化してみよう

絵の最低限の情報がモノクロであることは先述しましたが、次に「単純化」についても触れていきたいと思います。

全体の構図を検討していくとき、例えば建物のディティールなどをしっかり描いていては1案を出すのに多大な時間を要してしまいます。それでは複数案揃えてクライアントに提出……となる頃には疲れ果ててしまいますね。そこで構図の単純化が役立ちます。

ここで言う単純化とは何か?

それはモチーフのディティールを削ぎ落として、画面全体の明暗をざっくり描きだすことを指します。

先ほど提示したこの作品ですが、制作前に明暗でざっくりとアイデア出しをしています。それがこちらです。

印象としては概ね完成から変わりありませんね。
これにざっくりと色を置いたものがこちらです。塗り潰しツールが役立ちます。

ここからディティールを詰めていき完成となります。

大方の場合、ディティールを詰める直前の、色を置いたくらいの密度のものをラフとして提出しています。全体の色味と構図がわかる程度――つまり設計図として機能する程度の描き込みです。

ラフのやりとりはコミュニケーションですので、伝わることを最優先にしつつ削れるところは削っていくというイメージです。それくらいだと1枚あたりの労力も抑えられ、かつどんな絵になるのかイメージの共有もしやすいのです。

整った絵は単純化されたラフでも整った絵になることがわかってきましたね。

ここまで、

  1. 最低限の情報であるモノクロで手軽に全体の構図を検討してみる。

  2. 良いと思ったアイデアに色を載せて完成図を把握する。

  3. ディティールを描き込んで完成

という流れを紹介しました。

それでは次に、整った絵は本当に単純化しても整った絵だとわかるのか、他にも試してみましょう。

出典 : ジブリ https://www.ghibli.jp/info/013409/


出典 : ジブリ https://www.ghibli.jp/info/013409/

ジブリ作品の『風立ちぬ』『ゲド戦記』から印象的なカットを単純化してみました。これくらいの描き込み量でも整った絵は何がどうなっているのかがわかりやすいですね。

よく「さまざまな作品を見て勉強しよう」と言われる所以のひとつに、こうした構図のストックを増やすという目的があります。多くの作品の素晴らしい画面構成を覚えておくことは、制作の良い助けになります。たくさん作品に触れてどんどん勉強していきましょう。

またこれくらいの描き込み量の場合、サムネイルでも十分に検討可能です。iPadやスマホでも描けるので、アイデアストックにはちょうど良いと言えます。モノクロの単純化された絵でも「良い!」と思えるなら本制作に進んでも失敗は少なく効率がよい、ということなんですね。

次に実際の書籍装画で提出したラフと完成を見てみましょう。

こちらの『雲雀坂の魔法使い』という作品について、ラフを制作する前段階でモノクロのサムネイルを制作しています。

ボツ案が残っていなかったのが残念ですがこれらに色を載せたものが以下の3点です。

明暗を重視しながらディティールは省きつつ、全体としてどんな構図、色になるかが伝わる程度の描き込み量です。このあと人物の大きさや舗装路のデザインなど細かい部分のやりとりを経て完成となります。

個人制作におけるアイデア検討

仕事の案件だけでなく、個人制作でもサムネイルのスケッチをします。

これは完成間際に「なにか違うな」となるのを未然に防ぐ目的があり、普段から明暗の感覚を養う訓練を兼ねたものです。

個人制作では、モノクロのラフからそのまま本制作に入ります。これは確認するのが自分だけならば色味の完成イメージの共有をしなくてもよいからです。

そしていったん完成したものがこちら。

概ね問題ありませんが、人物の顔(視線が集中する場所)と容器ボトルが重なって明暗がややこしくなってしまっています。

この3段目の棚は絶対に必要な情報ではないので、削除してしまいましょう。

すっきりしましたね。こうした細かい見やすさの調整をして、完成です。

最後に完成した作品を一度モノクロに変換してみると、見やすいかどうかの確認が楽なのでおすすめです。

まとめ

  • ラフとは完成が伝わるように描く設計図である。

  • 明暗が整理されていればモノクロでも整った絵は伝わる。

  • また整った絵というのは単純化されても整った絵だと伝わる。

  • この2点からアイデア検討はモノクロのサムネイルで手軽に可能。

よりよいアイデアの検討はイラストを描く上で必ず突き当たる問題です。そして「早く描ける」というのはイラストレーターにとって何にも変えがたい武器になります。

1枚の描き込まれたラフの前で長時間悩んでしまうよりも今回紹介したような単純化したスケッチを駆使してスピーディーにさまざまな構図や色を検討していきましょう!

プロフィール

しまざきジョゼ
https://twitter.com/joze_phine_

京都芸術大学通信教育課程イラストレーションコース 講師
グラフィックデザイナーを経てフリーのイラストレーターに。書籍や広告を中心に活動。


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