憧れはモノクローム
写真に興味を持つようになってまもなく、僕はモノクロームの世界に憧れるようになりました。ドアノーやイジスの写真集を買って毎日のように眺めていたのはその頃です。そこで見た大好きなモノクロのちょっとロマンティックなヨーロッパの街の写真達は当然フィルムで撮影されたものでした。滲みながら光る街灯、曇ったガラス越しのシルエット、レンズの前でも大らかに振る舞う人々、映画のシーンのような恋人達…こんな写真が撮れたら!
無理を承知で現代の東京の街をデジタルカメラ(ライカM240)片手に歩き回り、そういう写真に合いそうな被写体を探しては撮ってみるという作業を続けていました。濡れたベンチや古い壁や石畳とか、ですね。そしていつも、やっぱりフィルムには敵わない!という結論に辿り着くのでした。
Leica M240 / Summicron 50mm f2.0 1st
フィルムカメラ挑戦は挫折
2017年8月、中古のライカM5を手に入れ、メンテナンスをお願いして、早速モノクロフィルムTri-Xを入れて歩き出しました。しかし、デジタルと同じように撮ろうとした結果、思った通りの写真は撮れず、また、家に暗室を構える野望にも破れ、少しずつフィルムを諦めるようになり、2019年春頃を最後にほぼフィルムカメラはストップしました。フィルムには縁がなかったなぁなんて思いつつ。
視力低下→フィルム?
ところが思わぬタイミングで再びフィルムにチャレンジすることになります。2020年秋以降、老眼、乱視など視力に不安が出てきた僕はレンジファインダー以外のカメラの購入を検討をしていました。いわゆるミラーレスのフルサイズです。僕の主力レンズは被写界深度の浅いものが多く、レンジファインダーはもともとそういうレンズのピントを合わせるには有利でなかったこともあり、将来的にシステムの変更、あるいは使い分けが必要になると思い始めたのです。そのことについてある方がアドバイスをくださる中で、僕にはどんなカメラが合うのか、どんな撮り方をしたいのかという話になりました。そこで、二つの真逆の選択肢が出ます。
ひとつは「フルサイズのミラーレスでライカのオールドレンズを使いたいなら、現状ではソニーのファインダーが一番だろう」というものでした。しばらくはフルサイズのミラーレスカメラの世界ではソニーの独走は続くだろうとも。
そして、もうひとつの結論は意外にもフィルムのM型を使うというものでした。その方がおっしゃるには、デジタルのM型は進化したものの、ファイダーの見やすさではフィルムのM型の方が上だし、描写的にもピントの薄いレンズを使うならフィルムの方がうまくいく可能性があるというお話でした。その方とお会いした帰り道、僕の胸の中では、もう一度フィルムを試そうという思いが膨らんでいました。それはもう突然でしたが、まるで神の啓示にあったように、今度は上手くいくような根拠のない自信めいたものが、とても自然に湧いてきたのです。
フィルム再始動
久しぶりに始めたフィルムカメラ。前に挑戦した時には初めからモノクロフィルムに拘り過ぎて、結果として満足のいく写真は撮れませんでした。そんなこともあり、今回は気楽にカラーフィルムから入ることにしました。カラーフィルムの魅力は質感もあるけど何と言ってもその色味です。何本か撮ってみると、すぐに味わいのある色に惹かれて、前よりもフィルムが好きになりました。不思議と今回の方が露出も合っている気がします。ならばモノクロもと言うことで、満を辞して久しぶりのTri-XをM5に入れてお散歩へ!
ところが、これがやっぱり難しい。
デジタルでたくさん撮った分だけ、モノクロ写真になると我流のスタイルみたいなものが染み付いていて邪魔をしているのかもしれません。
一番苦労しているのは、フィルムは途中でISO感度を変えられないこと。数枚撮ったところで、ああフィルム変えたい!とよく思います。途中でISO感度を変えられないことは、当たり前といえばそれまでのことですが、1枚ごとにISO感度を変えられるデジタルで写真を始めた僕にとってはこれはなかなか厳しい制約なのです。無理に撮っては露出の合わない写真を量産してしまいます。カラーでも同じ条件なはずなのに、なんでカラーではそういう悩みを感じなくて、モノクロだとこうなるのでしょう?
カラーでは時間帯でどんな写真を撮るか決めていた
これはあくまで僕個人の問題かもしれませんが、カラーフィルムを使うときは、最初からこういう時間に撮ればこんな色になるだろうという予測を立てて、その時間に撮れそうな写真を狙って撮っているため、ISO感度の問題も少ないのです。ISO100のFUJICOLOR 100からISO800のcinestil800Tに夕方頃に切り替えるようにして使っていたことからも、フィルムの使い分けはスムーズに行われていたことが考えられます。でもモノクロの時にはTri-X 400のみで昼間も夜も撮っています。
実は、ほとんどの写真を絞りf1.0からf2.8くらいで撮っていた僕にはISO400は万能なフィルムではないのです。せめてISO100、M5のシャッタースピードが最速で1/1000秒であることを思えば、あるいはもっと低感度のフィルムを使うこともありなのです。Tri-X 400で上手く撮れた時の写真がお気に入りだったこともあり、このフィルムを選んだのですが、ISO400と言う一見どの時間でも使えそうな感度が僕にとっては切り替えるタイミングの難しいフィルムになっていました。
レンズで対応?フィルムで対応?
もしもフィルムを変えないのなら、レンズを変えるのもアリかも知れません。例えば真昼間は少し暗めのズマロンで撮るなんてどうでしょう。ズマロンは明るくはないけど、ライカのレンズの中でも人気・実力両方を備えたレンズです。そして少し光が優しくなってきたら、いつものレンズに取り替えるとか。ちょうどカラーフィルムを夕方前後で取り替えるように。
レンズを変える代わりにNDフィルターの使用という手もありますが、今の所は出来るだけレンズに余計なものをつけたくないという気持ちもあります。
Leica M5 / Summaron 35mm f3.5 / KODAK Tri-X 400
Leica M5 / Summaron 35mm f3.5 / KODAK Tri-X 400
低感度のフィルムは何を選べば良いのだろう?
あるいは、やっぱりフィルムで対応するとしたら、低感度のフィルムは何がオススメでしょうか。まずはFUJIフィルムのACROS IIあたりでしょうか。これは今後いくつか試してみようと思います。
note内でも多くの方がフィルムについて試されているので、色んな方の記事も読んでみたいです。
白飛び気味も好きなのです
Leica M5 / Noctilux 50mm f1.0 / KODAK Tri-X 400
ところで、前にフィルムにチャレンジした時には、白飛び写真や粒子が予想以上に目立つ写真が多くなってしまいました。でも、そういう中にもお気に入りの写真はあったのです。きちんと撮るだけでは撮れない写真もあるのでしょう。
遊び心も忘れずに、ゆっくりフィルムと付き合いたい
Leica M5 / Noctilux f1.0 / KODAK Tri-X 400
結局のところまだまだ技術も知識も足りていないのです。フィルムの選択、レンズの選択、さらにはもっと別にも工夫することはたくさんありそうです。もっとも、ただ綺麗で上手な写真を撮りたいわけではありません。たまには無茶な撮り方もしたいし、遊び心を大切にしながら、失敗もたくさんしてみようと思います。誰に迷惑かけるわけでもないですし。デジタルとはまた違う不便で楽しいフィルムの世界を今度は諦めずに、じっくり楽しみます。その延長線上のどこかで、毎日のように眺めていた憧れのフィルムで撮られたモノクロームにたどり着ければ最高です。
Leica M5 / Noctilux f1.0 / KODAK Tri-X 400