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「追憶の2024年」について綴る

2024年がもうすぐ終わる。振り返れば、今年もたくさん音楽を聴いた。いい音楽と出会えた。よかった。楽しい一年だった。

今年リリースされた作品のうち「これはいい!」と思ったものをプレイリストにまとめた。タイトルは「追憶の2024年」。いい名前だ、と私は思う。
ここからは、それぞれの楽曲の「いいと思ったところ」について、リリース順に紹介していく。

1.小沢健二「Noize」
オザケンの新譜、ボーカルはまさかのマヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)。不思議な組み合わせだが、二人の詩的な言語感覚にはどこか似たところがある。
彼の過去作同様、この歌もまた歌詞がいい。労働と生活と全てを包含する宇宙。鋭くて優しいリリシズム。そこには魔法的な感じすらある。

2.DosMonos&大友良英「QUE GI」
DosMonosは荘子it、TaiTan、没 aka NGSの3人組ヒップホップクルー。現代文学からネットミームまで、あらゆる言葉をサンプリングして一つの曲にまとめ上げるスキルはまさに異能。
今作には大友良英が客演として参加している。唸るノイズは支離滅裂なリリックと同期して、かなり心地よい。
「サブプライムで買う緑茶ハイ」が今年一番気に入ったパンチライン。そんな言葉はなかった。

3.折坂悠太「ハチス」
折坂悠太が紡ぐ言葉には真実らしさがある。それが鬱屈とした時代の雰囲気を照らす灯火みたいに感じられる時もある。2020年にリリースされた「トーチ」という曲を聴いた時も同じことを思った。そして、今作もまた。
今作「ハチス」は4作目のアルバム「呪文」の最後に収録されている。このアルバムに通底しているのは、生活の言葉の強さだ。何気なく続く日常の何気なさ、それが本当は脆くて弱いことを知覚して、それでもなお日常を歌う。「ハチス」には、その覚悟が端的に描かれた一節がある。

「そうだ 何か理を
パンにジャムを塗る手は動く!
しいて何か望むなら
全ての子供を守ること
全ての子供を守ること」

折坂悠太「ハチス」

日常を生きること、それ自体が日常を脅かすものへの控えめだが確かな反抗なんだ。そう考えると、プロテスト・ソングの新たな可能性は日常性にある、と言っても決して大袈裟ではない。


4.片想い「狂気の山脈」
片想いを初めて聴いたのは森、道、市場2024というフェスだった。会場を散策していたら、偶然にもライブをやっていたので観た。明るくて元気いっぱいで楽しそうだった。お祭りの匂いがいい。たまたま聴いてよかった。誤配がもたらす思わぬ出会い。外に出るといいことがたくさんある。

5.トリプルファイヤー「相席屋に行きたい」
トリプルファイヤーが7年ぶりにアルバムを出した。変な歌ばかりで安心した。捻くれていてシュール、総じて変梃。ずっと聴いていたい。それくらい愉しい。
同じアルバムに収録されている「お酒を飲むと楽しいね」「シルバースタッフ」も愉しい歌だった。

6.長谷川白紙&KID FRESINO「行つてしまつた」
正直に言って、長谷川白紙の作品はよくわからない。難しい。まだ理解が及ばない。それでも惹かれるものがある。
今作を聴いて、その魅力とは、未知の一点から更なる未知へとぶっ飛んでいく勢いにあるのではないか、と思った。軌跡を目で追うことすら難しい未来派的跳躍。ブレイクビーツは重力を超越して遠くへ飛んでいく。
構築された意図を理解するためでなく、その複雑さを感じ取るために何度でも聴く。

7.坂本龍一「Andata」
坂本龍一にとって最後のピアノコンサートが、スタジオアルバムとしてリリースされた。美しいアルバムだと思った。
坂本龍一の音楽はあらゆる感情を惹き起こす。「Andata」からは喪失の深さと不在の響きを強く感じた。何かをなくしてしまう、誰かがいなくなってしまう、そういったことが当たり前にある世界の悲しさ、その深さ。
坂本龍一は永遠に不在になってしまったけれど、作品たちは変わらず美しい。

8.Headigan's「再生」
SuchmosのフロントマンYONCEがHeadigan'sを結成したのは2023年のことだった。今年はEPとフルアルバムをそれぞれ1枚リリースしており、そのどれもが期待を大きく超えてきた。音楽性は幅広く、爽やかでありながら達観したようなタッチの歌詞も上手くはまっている。
EPでは「敗北の作法」が、アルバムでは「再生」が特によかった。YONCEの声には代え難い魅力があるな、と再認識。Suchmosの復活が愉しみでならない。

9.んoon「Billion」
んoonと書いて「ふーん」と読む。最近まで知らなかった。その読み方も、作品も。
んoonを聴き始めたのは、11月に1作目のアルバム「FIRST LOVE」をリリースしたタイミングだ。アルバムを聴き終えて、緻密な感覚でもって世界が構築されていくような印象を抱いた。そこが綺麗だと思った。
「Billion」はアルバムの最後に収録されている。音が広がっていき、やがて大きく展開するイメージ。何度聴いてもよくできているなと思う。他には、「Forest feat ACE COOL」「NANA」をよく聴いた。アルバムとしのまとまりもよかった。

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